【斉藤崇史調教師】37歳でGIトレーナーに 秋華賞馬クロノジェネシスと挑む次なる戦い (無料公開)

2019年11月04日(月) 18:03

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▲37歳の若さで秋華賞を制した斉藤崇史調教師 (C)netkeiba.com

桜花賞3着、オークス3着。どうしても譲れなかった秋華賞のタイトルを、緻密な計画で見事に奪取した斉藤崇史調教師。開業4年目、37歳の若さでGI初勝利を果たしました。国家公務員を目指す選択肢もあったというほど、トレセンでも知られた頭脳の持ち主。次走エリザベス女王杯への手応えと、ホースマンとしての未来像を語っていただきました。

(取材・文=不破由妃子)

完勝のレースぶり、早い段階で勝利を確信

──秋華賞優勝、おめでとうございます!

斉藤 ありがとうございます。

──2着カレンブーケドールとは2馬身差。完勝でしたね。

斉藤 そうですね。直線に向いてスッと反応してくれた時点で「これなら大丈夫そうだな」と。

──早い段階で勝利を確信されていた。

斉藤 はい。ホントは確信しちゃいけないのかもしれないけど(苦笑)。

──スタートは少々ゴチャついた感じになりましたが、最初のコーナーではダノンファンタジーを見る形の絶好のポジション。道中はどんなことを考えながら見ていらっしゃいましたか?

斉藤 スタートはいつも速い馬ではないので、まぁ今回も出していきながらのスタートだったんですけど、1コーナーに入るときにはすでに折り合いもピタリとついていたので。引っ掛かることなく、いいリズムで走れているなと思っていました。

 4コーナーまでホントにいいリズムで、あとは伸びるだけだなと思って見ていましたね。

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▲桜花賞3着、オークス3着のうっ憤を晴らすような完勝ぶり (C)netkeiba.com

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▲晴れ晴れとした表情で表彰台に立つ関係者 (C)netkeiba.com

──斉藤先生といえば、物静かで常に冷静なイメージがありますが、直線はさすがに声が出たのでは?

斉藤 いや、とくに叫んだりとかはなかったですけどね。そんなに熱くなれないタイプというか、逆にみんなよく叫ぶなと思って(笑)。ゴールした瞬間は、とにかくホッとしました。よかったなぁって。

──桜花賞、オークス惜敗からの秋華賞制覇というと、どうしても先生が助手時代に担当されていたレッドディザイアと重なります。枠順もまったく同じ3枠5番でしたね。

斉藤 そうですね。枠順が同じだったことも含め、本当にめぐり合わせってあるんだなと思いました。

──では、改めて秋華賞の勝因を探っていきたいのですが、オークスから直行というローテーションには、どういった狙いがあったのですか?

斉藤 春時点でのクロノジェネシスを思うと、ローズSから秋華賞、エリザベス女王杯と3戦ぶっ続けというのは、ちょっと過酷だなぁと思ったんです。それで牧場サイドに、「ローズSは使わず、秋華賞からエリザベスというローテにさせてください」とお願いしまして。

 夏は早来のノーザンファームさんでずいぶんゆっくりできたみたいです。実際、馬もリラックスしていましたし、減っていた体も戻って、いい夏休みを過ごせたことは大きいですね。

──最終的な仕上げで一番気を遣ったところはどんなところですか?

斉藤 レース前にジョッキーも話していたと思うんですが、追い切りでね、今までのようにがむしゃらに抜け出してくるという感じがなくなっていたので、ちょっと物足りない馬と併せると、そこで終わってしまっていたんです。

 だから、最終追い切りだけは、終いまでしっかり動ける馬と一緒にと思って、アメリカンウェイクと併せて。そこはホントに狙い通りだったかなと思います。

──追い切り後、「オークスに比べると8割のデキ」と正直にコメントされていましたね。その時点で感じていた残りの2割というのは?

斉藤 まぁ息遣いだったり、調教での体の動きだったり。春に比べると多少物足りないかなと思っていたんですけど、レースが終わって全体を振り返ってみたときに、あれくらいが一番気持ちと体のバランスが取れていてよかったのかもしれないなと思いました。

 この仕事って、そうやって馬からいろいろ教えられるんですよね。

──デビューから7戦、一貫して北村友一騎手が手綱を取り続け、GI制覇までたどり着いたわけですが、近年ではなかなか珍しいパターンだと思います。クロノジェネシスの走りを通して、ずっと同じジョッキーが乗り続けることの意味をどのように感じていらっしゃいますか?

斉藤 ホントにね、馬のいいところも悪いところも全部知っているというのがまずひとつ。逆に、クロノ自身も北村さんにいろんなことを感じさせてあげてるんでしょうし、僕やスタッフも含め、そうやってみんなで一緒に成長していけるとしたら、それが一番いいなと思いますね。

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▲デビューから7戦、一貫して北村友一騎手の手綱 (C)netkeiba.com

エリ女に向けて…落ち着いているのがいい

──さて、いよいよエリザベス女王杯です。秋華賞後のクロノジェネシスの状態はいかがですか?

斉藤 元気ですよ。飼い葉もよく食べていますし、何より落ち着いているのがいいですね。ただ、放牧に出さずに、こうやって連続で使うのは初めてなので、そのあたりがどうなるかなと思いながら慎重に進めています。

──馬体も増えて、落ち着きも出て、心身ともに充実した感がありますね。秋華賞は4番人気でしたが、それ以上の支持を集めるのは必至です。

斉藤 オークス馬もいますし、古馬のGI馬もいますからね。人気は何番目でも構わないんですけど、秋華賞のようにクロノジェネシスのレースをしてくれれば、いい結果になると思ってます。

──最後に先生ご自身についてですが、秋華賞は開業4年目でのGI初制覇。この一戦から、調教師としてどんな手応えを得られましたか?

斉藤 クロノジェネシスとは、去年の暮れから何度も一緒にGIに挑戦してきましたが、いつかは勝てるというか、勝たせなくてはいけない馬だとずっと思ってきました。だから、秋華賞もうれしいというよりホッとする気持ちのほうが大きかったですし、こういう経験をね、次の馬、もっと先の馬にも生かしていけるようにならないとと思いましたね。

 そのためには、僕自身もっともっと勉強しなければいけないことがたくさんありますし、これからも努力を続けるのみだなという思いでいます。

──聞いたところによりますと、高校時代から北海道の牧場で働いたりなど、競馬の世界に興味を持っていらしたそうですね。それから早20年。改めてご自身のホースマン人生を振り返って、変わらずに持ち続けてきたポリシーのようなものはありますか?

斉藤 競馬の仕事がしたいと思ってどんどん突き進んできましたけど、競馬学校にいるあいだも、トレセンに入ってからも、「本当にこの仕事でいいのかな」と思っていたんです。ただ、そのときそのときでできることを一生懸命にやってきたというのはありますね。

──「本当にこの仕事でいいのかな」という迷いはどこから?

斉藤 やっぱり馬乗りがね、そんなに上手じゃないので…。そこがネックで、常にこの仕事でいいのかな、大丈夫かな、ちゃんとやっていけるのかなと思いながら、必死に頑張ってきた感じです。

──大学時代には、国家公務員を目指す選択肢もあったとか。実際に総合職(一種)試験を受けられたんですか?

斉藤 いや、受けてないです。大学3年のときに、教授から「受けてみないか?」と言われて、農林水産省にという話もいただいたんですけど。馬の仕事がしたい、でも自分がどこまで馬の世界で通用するのかわからないというなかで、ずいぶん迷いましたけどね。

 当時、たまたま時間が取れたこともあって、アイルランドに行ったんです。そこで現地の競馬に関わらせてもらっているうちに、やっぱり馬の仕事がしたいと強く思うようになって。その時点で、もうひとつの道への思いは断ち切って、馬の世界に行くことを決めました。

──そうだったんですね。そこからはホースマンとして邁進して、37歳でGIトレーナーに。ご自身の野望も含め、先生が描く厩舎の未来像とは?

斉藤 毎年GIにたくさん馬を出走させること、大きいレースを勝つこと、リーディングを獲ること…。求め出したらキリがないんですけど、毎日コツコツ頑張って、いずれね、そういうところにたどり着けたらいいなと思っています。

 それ以前に、人も馬もケガをすることなくやってけるのが一番ですけどね。頑張っていくなかで、GIをいくつも勝ったり、海外に馬を連れていったり。自然とそんな厩舎になれたらいいなと思いますね。

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