宮崎の海岸調教

2019年12月03日(火) 18:00

▲日向灘をバックに海岸調教をする競走馬たち

 日向灘から吹く風を感じながら海岸を2頭の馬が走っていきました。宮崎県にある宮崎ステーブルには屈腱炎や骨折などを負った馬が保養を兼ねて休養にやってきます。なぜ、脚元に不安を抱えた馬たちは海岸で調教するのでしょうか。そこには砂の深さが関係していました。昔ながらの方法でありながら、どこか新鮮で見ている方も癒される海岸調教。今回は動画とともに「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

モヤモヤしていた脚元がスッキリ

 ザッザッと砂を踏み込む音をさせながらイイデファイナルとショウブは歩いていきました。

 ここは宮崎県にある宮崎ステーブル。宮崎空港から車で10分弱。すぐ南にはプロ野球の巨人軍がキャンプを行うサンマリンスタジアム宮崎が見えます。

馬ニアックな世界

▲宮崎市にある宮崎ステーブル

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▲宮崎ステーブルの馬房内

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▲奥にはサンマリンスタジアム宮崎も見える

 トレセンや競馬場と違うのは、ここは海岸だということ。JRAの競馬場のダートコースは9cmの砂の下に路盤と呼ばれるやや硬い層がありますが、砂浜は床がなく、脚元に優しいと言われています。

 ここ宮崎ステーブルに来る馬の多くは屈腱炎や骨折など怪我を負った馬たち。保養を兼ねてゆっくりと調教されていきます。

「師匠の大久保正陽調教師(ナリタブライアンなどを管理)がここを使っていて、私も屈腱炎の馬はみんなこちらにお願いしています」

 とはイイデファイナルを管理する北出成人調教師。

馬ニアックな世界

▲北出成人厩舎のイイデファイナル

 別の調教師も「トレセンでエコー検査をしたところ、屈腱炎になる少し手前で脚元がモヤモヤしていたんですが、ここにしばらく滞在してスッキリしましたね!よかった」と笑顔を見せました。

 イイデファイナルとショウブは砂浜を1000m、常歩で運動した後、キャンターで波打ち際を走っていきました。

馬ニアックな世界

▲海岸で調教を積むイイデファイナルとショウブ

 海岸調教のメリットについて宮崎ステーブルの仁田脇圭さんはこう話します。

「スピード調教が必要な場合は、波打ち際の硬く湿ったところで行います。逆に深く乾いたところでは、遅いスピードで筋肉に大きな負荷をかけることができ、用途によって砂の深さを選び運動負荷を変えて調教を行えるのが、砂浜の利点だと考えています。

 また、故障を抱えた馬たちにとってのメリットは、路盤のない砂浜なので腱のストレッチを早期に促すことができ、骨膜や裂蹄などの疾患も痛みや跛行することなく、運動が可能です」

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▲湿った砂浜、乾いた砂浜で調教内容を分けている

 2014年に菊花賞を制覇したトーホウジャッカルやその他の馬もここに滞在していました。

以前は高知や島根でも海岸調教

 干潮時、砂浜はこの3倍ほどの広さになると言います。しかし、海岸浸食が年々進み、砂浜は狭くなっていると言います。

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▲ここ日向灘の海岸も年々砂浜が狭くなっているという

「昔はリゾート地で有名な青島まで行っていたんですが、今は寸断されて行けなくなりました」

 また、大型台風の後は波に砂が削り取られているといいます。

 イイデファイナルとショウブは最後に再び常歩で脚元が少し海に浸かるくらいのところをチャプチャプと歩いて帰って行きました。

「最初の頃は波を怖がる馬もいますが、慣れますね」

 と仁田脇さん。

 北出調教師も「函館競馬場の上空を飛ぶ飛行機に滞在馬が慣れて平気になるのと一緒」と笑います。

「海の中を歩くことは、ちょっとした効果を期待して、です。一つは脚元の冷却効果。また、海水による皮膚疾患の予防、馬たちのリラックス効果、そしてフラットワークに似た動きができると考えています。馬場に置かれた横木を跨ぐ時の動きに似た歩きを前後左右に波が寄せてくる海の中ではできます」(仁田脇さん)

馬ニアックな世界

▲海の中を歩くことにも意味がある(写真提供:仁田脇圭)

 かつて、島根県の益田競馬場(廃止)には屈腱炎の馬が集まり、すぐ近くの日本海で海岸調教をしたと言います。また、高知競馬場のすぐ近くにも海岸調教をする牧場があったそうですが、護岸工事などにより砂浜が使えなくなったとのこと。現在は他に鹿児島県などで海岸調教が行われています。

馬ニアックな世界

▲馬の背から見た景色(写真提供:仁田脇圭)

 数十年前は全国各地で行われていた海岸調教ですが、ウッドチップや坂路コースなど調教施設が進化した現代においてはかえって新鮮に映るのは私だけでしょうか。古くて新しいモノ――そんな言葉がぴったりだなと潮風に吹かれながら感じました。

▲調教施設や方法が進化した現代ではかえって新鮮に映る

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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