2歳戦ブレイクのワケを須田鷹雄が解説―ハーツクライ産駒特集(1)

2019年12月08日(日) 18:00

ハーツクライ

▲例年にも増して2歳世代の活躍が目立つ種牡馬ハーツクライ(写真:上田美貴子)

サリオス、マイラプソディ、ウーマンズハートの重賞勝ち馬を始め、ホープフルSの有力馬ワーケアや阪神JFでも人気を集めたクラヴァシュドールなど、例年にも増して2歳世代のハーツクライ産駒が絶好調だ。有力馬を取り上げる前に、まずは、なぜ今年2歳のハーツクライ産駒はレベルが高いのかを、POG(ペーパーオーナーゲーム)「赤本」監修者で2歳馬事情に詳しい須田鷹雄氏に解説いただいた。

好調の秘訣は牝系にあり?

 好調のハーツクライ2歳産駒について考察せよ、という編集部の御指名である。まず現在のようなハーツクライの好調ぶりを予見できていたかという話だが、もちろん100%ではないものの、実はある程度想像していた。

 実際にnetkeibaにおいても、POGコラム(POGの達人コーナー)4月2日の回において、2019-20シーズンはこれまでディープインパクトを配合されていた繁殖牝馬にハーツクライが配合されているケースが今年は多く、(そして逆もしかり)それがドラフトのポイントになるだろうという展望を書いている。

【POGコラム】今年のPOGドラフトは「ディープとハーツの出入りが重要戦略」

 そこで真っ先に挙げたのがシルヴェリオであり、他に未勝利馬・未出走馬も挙げられているのだが、サリオスとワーケアの存在もきちんと挙げられていた。

ノンフィクション

シルヴェリオ、サリオス、ワーケア、マイラプソディなど2歳世代はハーツクライ産駒の活躍が目立つ (C)netkeiba.com、下野雄規

 逆のハーツ→ディープでは3頭の名前を挙げたが現時点で2頭が1勝・1頭が未勝利。少なくともハーツ→ディープが機能してディープ→ハーツが機能しないという雰囲気はないし、ハーツクライがディープインパクトの代わりに大物を出すこともあるわけだ。

 以上だけで決め付けるのはあまりにデータ不足なので、12月3日時点の指標をJBIS-Searchで調べてみよう。ディープインパクトの年次別総合アーニングインデックス(AEI)は3.88、配合されてきた繁殖牝馬のレベルを表すコンパラブルインデックス(CPI)は2.86。AEI÷CPIは1.357となっている。

 ハーツクライはAEIが2.15、CPIが1.90、AEI÷CPIは1.132なのでディープインパクトには及ばないが、これはこれで十分に高い。配合される牝馬のレベルがさらに上がればそれに応じてある程度の結果を出せるのは当然だし、産駒トータルの成績でディープインパクトの水準まで行けなくとも、個体としてGIレベルに行く産駒は当然出てくる。ただ、ディープインパクトの種牡馬成績があまりにすごすぎたので、完全に代替となるまでは難しいかもしれない。

 ちょうどよい機会なので、ディープインパクトとハーツクライ、それぞれが平地オープン勝ち馬を出した繁殖牝馬に相手の種牡馬が配合されたケースの成績を見てみよう。

 ディープインパクト産駒の平地オープン勝ち馬はこれまで145頭(母の重複あり)。その兄弟でハーツクライ産駒だったケースは31頭あり、平地勝馬率54.8%、1走あたり賞金595万円、1頭あたり賞金4803万円となっている。賞金はシュヴァルグランが1頭で爆上げしている。

 ハーツクライ産駒の平地オープン勝ち馬は45頭。その兄弟がディープインパクト産駒だったケースは21頭で、平地勝馬率76.2%、1走あたり賞金508万円、1頭あたり賞金6120万円。賞金はそんなに変わらないように見えるが、ハーツクライのほうはシュヴァルグランにだいぶ依存しているので、母ハルーワスウィートの3頭を除くと、ディープ側から2頭消える(ヴィルシーナとヴィブロス)にもかかわらず、指標はだいぶディープインパクト>ハーツクライとなる。こうしてみると、ディープインパクト産駒がいなくなったあとのセレクトセールで「ディープがいないならハーツだ」と同じ価格レベルまで競るのはちょっと危険なのかもしれない。

 勘違いしないでいただきたいが、以上の話はハーツクライを評価しないという話ではない。比較対象がディープインパクトになると、どのようなサンデーサイレンス系種牡馬でも同じような結論になる。

「ディープ以外」を前提にサンデーサイレンス系ないし母経由でサンデーサイレンスを持っている種牡馬どうしで比較するなら、ハーツクライはやはりナンバーワンを争う1頭だろう。

 ハーツクライはとにかく該当数の多いミスタープロスぺクター系牝馬と相性が良い。これが産駒成績を下支えしてくれるはず。ディープインパクトが得意としていたストームキャット系との配合を他のSS系種牡馬が成功させてくると差を詰められるかもしれないが、ハーツクライがストームキャットを苦手しているわけでもない。そもそも最近の上位種牡馬は相性の良い・悪いではなく、ベストトゥベストの発想を結果に結び付けている印象もある。

 結論として、ディープインパクトの代わりになるまではいかなくても、ハーツクライ産駒の好調はそれなりに続いていくと思う。群雄割拠の中でやや抜け出した存在、というイメージだろうか。世代ごとにGIレベルに到達する産駒も、おそらく出続けるだろう。

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