手続きなしが多い? 中央競馬と地方競馬の「登録抹消」の違い

2020年03月03日(火) 18:03

第二のストーリー

岩塩をもらうコスモラヴモア(提供:トイトイファーム)

脚元の不安を抱えながら頑張る愛馬の姿に…

 ヤギやポニーなど動物たちで賑わうトイトイファームに仲間入りしたコスモラヴモアは、2011年4月4日、北海道浦河町の村下牧場で生を受けた。父マイネルラヴ、母フジアニバーサリー、母父はラムタラという血統だ。2012年の北海道サマーセールで210万円で取り引きされて、ビッグレッドファームの所有馬として美浦の鈴木伸尋厩舎の管理馬となった。

 デビューは2013年6月23日、函館の芝1200mの新馬戦。三浦皇成騎手の手綱で2番人気に支持されていたが、5着と敗れた。7戦目の中山での未勝利戦(7着)以外は、すべて掲示板に載る堅実な走りを見せていたが、なかなか白星を挙げられない日々が続いた。年が明けて2月16日の小倉のダート1700mの未勝利戦。丹内祐次騎手が騎乗して道中は先行集団を進み、直線では逃げ粘るエンジェルラダーと2番手を進んでいたガンジーの間を力強く伸びてきて、ガンジーを半馬身退けての勝利だった。同じ年の10月18日、福島の鳴子特別(500万下)で2勝目を挙げるが、その後、昇級した1000万クラスでは掲示板に載ることができず、500万クラスに降級(現在は降級制度は廃止)してからもしばらく勝ち星から遠ざかっていた。

 そして2016年2月13日、未勝利勝ちを収めた小倉競馬場で優勝し、通算3勝とした。前2戦が8着、15着という成績だったこともあり、8番人気と人気薄での勝利だった。その後は1000万クラスで3着2回(うち1回は川崎競馬場での地方交流レース)、4着2回、5着1回と時折掲示板にのる頑張りを見せるが、2018年1月28日、東京競馬場の1000万下・11着が中央競馬での最後のレースとなった。

第二のストーリー

中央所属時、2016年2月13日の4歳以上500万下(ユーザー提供:トップガンマンさん)

 中央競馬の競走馬登録を抹消されたコスモラヴモアは、楽天のサラブレッドオークションで落札されて、名古屋競馬へと移籍してきた。「直近のレースを見て、パワフルな走りをしていて、まだまだやれそうだと感じたのが購入の決め手でした」と話すのは、オークションでラヴモアを落札して、地方競馬時代のオーナーとなった林由真さんだ。林さんが感じた通り、ラヴモアは地方初戦から3連勝と上々のスタートを切って、4戦目には重賞・東海桜花賞に出走して4着と健闘している。

 その後は脚元の不安もあってケアをしながら現役を続け、2019年7月11日のメヒカリ賞に出走。脚元の不安と闘いながらもここまで頑張ってきて3着でゴールした愛馬の姿を前に、林さんは涙を流した。だがレース後に歩様が悪くなり、林さんはついに引退を決断した。管理していた今津調教師も、ラヴモアがいつ引退してもいいようにと行先を調べてくれていて、そこからトイトイファームに縁が繋がっていった。

繁殖でも乗馬でもない引退後の行き先「その他」とは

 地方競馬を含めて引退した競走馬たちのその後は保障されていないというのが、厳しい現実だ。中央競馬から引退した馬については、まだ地方競馬という受け皿がある。だが地方競馬を引退した馬たちの受け皿は、中央から抹消される馬たちより格段に少なくなることは容易に想像がつく。

 地方競馬を引退した馬たちについて調べる過程で、令和元年11月に農林水産省生産局畜産部競馬監督課が作成した「馬産地をめぐる情勢」という資料に行き当たった。これによると平成29年度末の地方競馬の在籍登録数は10379頭で、平成30年の登録抹消頭数が4258頭。内訳は中央競馬への再登録が375頭、乗馬が1526頭、繁殖が492頭、斃死が629頭、その他が1236頭となっている。乗馬が1526頭とあるが、前回も記したように、乗馬に向かない馬もいれば、故障を抱えていて乗馬でも耐えられない馬もいる。

 さらに日本の乗馬人口を考えても実際に乗馬として第二の馬生を歩める馬は一握りだ。つまり乗馬というのは表向きで、実際は畜産業者の手に渡り、屠場というのがほとんどではないかと思われる。内訳にある「その他」という項目も気になった。乗馬よりも少ないが、それでも1000頭超がどの項目にも当てはまらない、「その他」の馬なのだ。これが意味するものは何なのだろうか。

 私が地方競馬で走っていたキリシマノホシを引き取ってから気付いたのは、引退してもすぐに競走馬登録が抹消されるわけではないということだ。引き取ってしばらくして地方競馬全国協会のキリシマノホシをデータ検索すると、管理調教師名の横に「退厩」と記載はあったが、地方競馬登録抹消の文字は見当たらなかった。キリシマノホシの居場所が判明したのは最後のレースから約半月後。場所は畜産業者の牧場だった。つまり中央競馬と違って競走馬登録の抹消手続きをしなくても、引退する馬がいるということだ。正式にキリシマノホシの競走馬登録が抹消されたのは、2018年4月1日。最後のレースから、1年4か月がたっていた。

 この件について地方競馬全国協会に尋ねてみると、地方競馬の場合、繁殖として供用する以外は、登録抹消の手続きをしないケースが多いのだという。中央競馬は登録抹消の際に抹消給付金が馬主に支給されるが、地方競馬にはそれにあたるものがないので、わざわざ抹消手続きをするメリットがないというのも理由の1つのようだ。抹消されないまま1年が経過すると、NAR側からその馬を管理している調教師に連絡して、休養なのか引退なのかを確認し、その情報を元に4月と10月の年に2回、抹消の手続きがされていない馬(休養馬以外)は自動的に地方競馬登録を抹消されるとのことだった。

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オーナーの林由真さんとコスモラヴモア(提供:トイトイファーム)

 内訳の「その他」には、このように自動的に登録抹消となったキリシマノホシのような馬たちが含まれているのではないかと推測できるし、中央競馬を登録抹消した馬たちの行き先よりも、地方競馬を引退した馬たちの行き先の方がよりグレーだということがわかる。引き取りたい馬がいても、地方競馬ではすぐに登録抹消したかどうかがわからないために、気が付けば行方不明という場合も十分考えられる。

 林由真さんも以前は、競馬から引退したら皆乗馬になると思っていたそうだ。だがそうではない厳しい現実を知って、また馬主になったばかりの頃にとても頑張ってくれる馬に巡り合ったことで、自分で所有した馬をできるだけ最後まで面倒をみたいと思うようになったと話す。このようなオーナーのもとで地方競馬時代を過ごせたのは、コスモラヴモアにとってとても幸運だった。

(つづく)


▽トイトイファームFacebook https://www.facebook.com/toitoinurumigawa

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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