競馬ネット時代の幸運

2020年03月10日(火) 18:00

まったく想定になかった無観客開催という選択

 新型コロナウイルスの影響で、2月27日から無観客競馬が実施されて2週間近くが経った。

 無観客の競馬開催は近年経験がなく、戦時中の能力検定競走以来とのこと。ただそのときは馬券発売が行われておらず、馬券が発売されての無観客競馬はおそらく初めてのこと。

 無観客での開催でどうなるのかと思ったが、馬券の発売のうちかなりの割合をネット投票が占めている現状で、今のところ売上がそれほど落ちていないことにはちょっと安心した。

 日本の他のメジャースポーツを見ると、無観客という選択肢はむしろ少なく、中止か延期かという選択が多い。春のセンバツ高校野球が無観客開催の方向を示したところ(開催可否の決定は11日とのこと)、さまざまな競技が中止となっていることから、批判が大きいのにはちょっと驚いた。

 プロ野球のオープン戦は無観客で行われているが、3月20日に予定されていた開幕が「4月中の開幕を目指す」ことが決まったようだ。Jリーグは中断されていた公式戦の再開が、当初予定の3月18日からさらに延期となり、「4月3日の再開を目指す」とされている。

 そうした状況を考えると、競馬がここまでのところ日程や番組などの変更もなく実施されているのは、きわめて幸運だったといえる。

 競馬が、他のメジャースポーツと大きく異なるのは、収入の大部分が馬券発売によるということ。しかも現在ではその多くがネット投票となっている。この状況がネット投票が今ほど普及していない時代だったら、果たして無観客での競馬開催が実施できていただろうか。想像もできない。

 メジャースポーツで無観客という選択肢が少なく、特にプロスポーツでは延期のほぼ一択となっているのは、収入の多くを入場料とそれに付随するグッズ販売などで占められているためだろう。

 ただ“賭け”によって多くの収入を得ている公営競技の中でも明暗が分かれているようで、競輪は前年同期比で売上が約1/3という報道もあった。

 中央競馬では、無観客となった最初の週、2月29日、3月1日の中山・阪神・中京の売上はそれぞれ前年同日比で73〜90%、3月7、8日の同3場は78〜86%となっていた。

 一方、地方競馬では全体の売上が1日平均の前年度比で116.7%(2019年4月から2020年2月の集計)と伸びているため前年との比較にはあまり意味がなく、無観客になる前後の比較では、南関東ではやや落ち込んだ感じはあるが、それ以外の競馬場ではほとんど変わっていないように思われる。何より3月5日に無観客で行われた川崎の交流重賞・エンプレス杯で、「売得金レコードの更新」というリリースが送られてきたときには驚いた。

 無観客となっても地方競馬であまり売上が下がっていないのは、やはりネット投票の普及によるところが大きい。2019年度の集計で、売上全体に占めるネット(電話も含む)投票の割合を競馬場ごとに見ると、約93%という高知を筆頭に、おおむね地方都市の競馬場のほうがその割合が大きくなっている。地方競馬全体では76.3%であるのに対して、南関東と岩手は71%で全国の割合より低く、ばんえい帯広、門別、名古屋、高知、佐賀が80%以上となっている。

 地方競馬でのネット投票が普及したのは、2012年10月に始まったJRA-IPATでの発売も大きいが、それ以前から複数の民間会社が参入して、互いに競争があったこともその要因として考えられる。

 ネット投票の割合が増えることでは、競馬主催者にとっては、その売上から手数料が差し引かれるため痛し痒しではあるのだが、まったく想定になかった無観客開催という現状では、むしろそれに助けられるということになった。

 競馬は予定どおり行われていて、特に地方競馬では売上もあまり落ちていないとはいえ、影響がまったくないというわけではない。競馬新聞や場内の飲食店などにとっては、売上が激減するか、まったくないという状況が続くことになる。

 コロナウイルスが収まらない以上、観客を入れての通常どおりの開催に戻るのがいつになるのか今のところまったく見通しが立たない。国の判断やメジャースポーツの動向をうかがいながらということになるのだろうが、それまでにファンが離れていかないように、「競馬は予定どおり開催しています」的なことは普段以上にアピールしていくべきと思う。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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