無観客の競馬開催と、その先

2020年04月14日(火) 18:00

深刻な打撃を被っている業者も

 多くのスポーツやイベントがストップするなかで、無観客とはいえ競馬が続いているのは感謝しかない(というようなことを毎週書いているような気がする)。競馬主要国でも競馬開催が続いているのは、日本と香港、アメリカの一部、オーストラリアの一部くらいではないだろうか。

 さて先日、競馬関係で、本来であれば広域の人たちが集まって毎年恒例の会議が予定されていたのだが、当然のことながら顔を合わせての実施は不可能で、社会的にも注目されているZOOMというオンラインシステムを使っての会議となった。

 これまでにもオンライン会議や在宅勤務を実践している企業もあったが、それは大企業やIT企業などのごく一部ではなかっただろうか。打ち合わせは先方の会社まで出向いて、会議は会議室や打ち合わせスペースで、仕事は会社で、というのが当たり前だった。

 ところが新型コロナウイルスの蔓延によって、半ば強制される形でオンライン会議や在宅勤務がなされるようになった。

 コロナ禍の出口は見えず、この状況がしばらく続けば、これまで難しいと思われていたオンライン会議や在宅勤務が当たり前となって、コロナウイルスが収束したときには社会や仕事のあり方が、少なからず変わるのではないか。

 それは、コロナ禍の現状でも奇跡的に続いている競馬にもいえること。中央競馬では前年同期比で売上が若干落ちているようだが、地方競馬の売上はほとんど変わっていない。

 無観客でも、実馬券を売ってなくても、馬券がそれなりに売れているとはいえ、しかし深刻な打撃を被っている業者もある。そのひとつが専門紙だ。

 中央競馬の専門紙は、まだコンビニや駅の売店などで販売されているようだが、競馬場や場外発売所などでの販売がその多くを占めている地方競馬の専門紙は、すでに紙の新聞の印刷を取り止めているところが多い。

 3月末、佐賀の専門紙は4月からの休刊を発表したが、翌日には撤回された。補助金の提供を受けることで、紙の新聞は発行せず、コンビニなどのマルチコピー機での販売のみでの継続となったと聞いている。

 そして競馬専門紙最大手の競馬ブックでも、地方の南関東版は4月13日から紙の新聞の発行が休止され、ネット新聞やマルチコピー機での販売のみになることが発表された。

 馬券を買ってもらうためには、専門紙などの情報提供は不可欠。無観客でもなんとかファンをつなぎとめようと、岩手、笠松、名古屋、兵庫、佐賀では、専門紙もしくは主催者のウェブサイトで、無観客開催の期間に限り、全レースまたは一部のレースで、専門紙のフルバージョンを無料公開している。

 専門紙は、記者の印と厩舎情報などのコメントが『売り物』なだけに、それをタダで提供しているということでも、いわば非常事態であることがわかる。

 地方競馬は2019年度(2019年4月〜2020年3月)の売上で、ネット(電話も含む)投票の割合が全体の78.0%を占めるまでになった。ちなみにちょうど10年前、2009年度のデータを見ると、ネット投票の割合はわずか29.0%。もしその時代に新型コロナに襲われていたら、そもそも売上が落ち込んでいた時期でもあり、無観客開催の売上ではおそらく競馬は続けていけず、果たして地方競馬が続いていたかどうかと考えると、ちょっと怖い。

 冒頭で、コロナ禍の影響で社会が変化するのではないかと書いたが、同じように無観客をしばらく続けることによって競馬ファンのあり方にも変化が生じるのではないだろうか。

 新聞や雑誌などの紙媒体は、部数が減れば減るほど、一部・一冊あたりにかかるコストが高くなる。2019年度の実績で、門別、笠松、高知は、1日平均の競馬場の入場者が1000人を割っている。場外発売所の入場者も含めれば、もちろんそれ以上になるわけだが、果たしてそうしたところで、紙の新聞を売り続けて採算が合うのかどうか。

 例えばこうしたことが実現可能なのかどうかはわからないが、競馬場や場外発売所でも新聞をマルチコピー機で販売すればいい、ということにはならないだろうか。ただコピー機を誰でも使えるような状態で設置すると、コピーで新聞を使いまわしされてしまうかもしれないので、そうした対策は必要だが。

 コロナ禍による長引く無観客開催をきっかけにファンのあり方も変化するのであれば、専門紙などの情報提供も、きちんと採算のとれる方向に変わっていく必要はあると思う。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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