2020年04月25日(土) 12:00
ものの本によると、イギリスには「三月の風と四月の雨が美しい五月をつくる」ということわざがあるそうだ。新緑に関する限りこれは日本にもあてはまる。それにしても春の天気は荒れやすい。気象予報士のことばを借りれば、激しい雨を呼び風を呼ぶのは、上空で寒気団と暖気団がぶつかり合うからだそうだが、雨が降るたびに、南風が吹くたびに、ふくらんだ木の芽が開き、薄緑色の葉になり、みずみずしい若葉を風にそよがせるのだから、ここは辛抱のしどころなのだろう。
この先の晴舞台をめざして戦っている3歳馬たちも、似たようなところがある。前哨戦を順調に勝てるものは数少なく、多くがひとつの敗戦を糧にステップアップを果し、晴れて檜舞台に登場してくる。オークストライアルのフローラSは完全に新勢力台頭の場となっていて、ようやく条件戦を勝ったものが弾みをつける場になってきた。桜花賞からの直行組が多いオークスで良績を上げるには、ここでどんな走りを見せるかにかかっているのだが、ひとつの敗戦を糧にしてオークス馬になった例として忘れられないシーンを思い出す。
それまでの4歳牝馬特別からフローラSにレース名が変更された2001年、ミモザ賞2000米を買って1番人気だったレディパステルが、4番手からいち早く先頭に立ったオイワケヒカリをつかまえきれずに半馬身差で敗れたときのこと。騎乗していた北米のトップジョッキー、ケント・デサーモは、スタートしてちょっと押したら掛かり気味になってしまい、それが最後の叩き合いで伸びを欠いたと振り返っていた。
そしてオークスでは、ゲートを出た時にあえて抑えて遅めにスタートしていた。レース実況でそのシーンを見て直ぐその言葉が頭に浮び、極力注意して動きを見ていたところ、後方で馬を前にピタリと折り合い、3、4角では内ラチ沿いをロスなく回り、直線では馬群を縫うように出てきて、ローズバドをクビ差でとらえていたのだった。桜花賞馬テイエムオーシャンが3着に負けたオークスで、外国人騎手が初めてクラシックを優勝したときでもあった。ひとつの敗戦から、それを糧にした例だが、たとえ前哨戦を勝てたとしても、そこから前進するために何をつかんだかにも目を向けるのが、フローラSの見方になる。
今年のミモザ賞を勝ったウインマリリン。降雪で順延になり重目の馬体での完勝から、さらなる前進が期待されるが、他はひとつの敗戦を糧にのぞんでいる。フラワーC2着のレッドルレーヴ。大外で動かざるを得なかった前走の中山より、東京で楽しみが大きい。クイーンC6着は気持のコントロールが利かなかったホウオウピースフル、牡馬相手の京成杯では抜け出して気を抜いて2着に敗れたスカイグルーヴなど、どう戦い、どうオークスにつなげていけるか見ていきたい。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。
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