GI馬の友達はロバやシマウマ?! ヒューイットソン騎手に聞く南アフリカの引退馬事情(2)

2020年05月05日(火) 18:01

第二のストーリー

南アフリカではすべての引退馬の命を救うことができているのか尋ねた(C)netkeiba.com

南アフリカの生産頭数は日本の半分以下だが…

 前回のライル・ヒューイットソン騎手のコラムについて、私が目にしただけでも、SNS上ではかなり話題になっており「日本でも競走馬時代の馬主が引退後も責任を」といった発言もあれば、「日本と南アフリカとの生産頭数の違いも考慮すべきだ」という意見も目にした。そのような議論が生まれること自体、引退した競走馬たちのその後について真剣に考えている人が増えてきたと捉えられるし、1頭でも多くの馬が天寿を全うできるようになるためにも、とても有用なことだと思う。

 その南アフリカのサラブレッドの生産頭数については、ヒューイットソン騎手にもインタビュー中に聞いてみたのだが、残念ながら正確な数字は把握していないということだった。そこでジャパン・スタッドブック・インターナショナルのサイトにある世界の競馬・生産統計で示されている各国の生産頭数を見てみると、南アフリカは2015年が3183頭、2016年が3163頭、2017年が2947頭(当サイトではこれが最新)となっている。この3年間の日本での生産頭数は、2015年が6844頭、2016年は6905頭、2017年が7081頭なので、南アフリカの生産頭数は日本の半分以下になる。それでも毎年3000頭前後が生産されるわけだから、全頭を次の馬生へと送り出すとなると厳しい数字には違いないし、馬主が責任を持つ形を取っているならなおさら難しいことのように思えた。

 そこで今回は競馬を引退した後の馬たちすべてを生かすことができているのかについて、現状を含めてヒューイットソン騎手の考えも述べてもらったのだが、南アフリカでもやはり引退した競走馬すべての命を繋いでいくのはそう簡単ではないことがわかった。と同時に、引退した競走馬にセカンドライフを与えられるにはどうしたら良いのかを、競馬の世界に身を置く人々は積極的に考えていて、そのあたりが日本との違いのように感じた。

“ゆっくり生きる”自由な馬生もいいのでは

――南アフリカのサラブレッドの生産頭数はわかりますか?

ヒューイットソン騎手 正確な数字はわかりません。日本のダノンプラチナがいる牧場も頭数が多いです。繁殖牝馬が100頭ほどいる牧場もあります。実際にダノンプラチナは、年間100頭以上、種付けをしていると聞いています。

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ダノンプラチナは現在南アフリカで種牡馬として活躍している(撮影:下野雄規)

――生産頭数が多いと全部の馬は助けられないと思うのですが、そのあたりについてはどうですか?

ヒューイットソン騎手 全部の馬を救えないというのは、残念な部分ですし、とても悲しい現実だと思います。自分が全部の馬を守ってあげられたらと思うこともあります。ただそれができないのも現実です。数多くの馬たちが人間のために命を落とすという状況があって、それはとても悲しいことだと思っています。競馬、生産界など馬の業界を円滑に回していくためにも必要なことだとは考えますが、やはりそれも悲しいことだと思っています。  

――できればより多くの馬をセカンドライフ、サードライフへ?

ヒューイットソン騎手 もちろんです。調教師さんたちもその気持ちを皆さん持っています。調教師さんたちもベストを尽くして、セカンドホームがあるようにと心がけています。皆さん、精一杯、やれることはやっていると思います。

――日本では競馬の世界では、長く引退した馬のその後について話をすることはタブーという雰囲気がありました。南アフリカではいかがですか?

ヒューイットソン騎手 私たちの国ではそういう話をしてはいけないという感じはありません。むしろいろいろな人たちが引退馬についての話をしたり、聞きたがったりします。競馬の業界でも同じで、たくさんの人たちの声がありますし、競馬を主催する側もそれをやらなければいけないという状況になっていますね。そういう部分ではフリーダムですし、いろいろな人が様々な意見を発言することが認められていますので、良い方向に向かっているのかもしれません。皆、どうやって馬たちを救うかというのを考えています。

――ところで先ほどダノンプラチナの話が出ましたが?

ヒューイットソン騎手 ダノンプラチナがいる牧場は素晴らしいですよ。自然重視の牧場なんです。馬が自然に戻っている感じですね。

――ヒューイットソンさんは、その牧場に行かれたことはあるのですか?

ヒューイットソン騎手 僕が怪我をした時に、その牧場に1週間遊びに行ったんです。いろいろな動物がいて、その中に馬がいたんです。まさか元競走馬だとは思わなかったのですが「あの馬はチャンピオンホースのシェイシェイ(Shea Shea)だよ」って牧場の人に言われてビックリして大笑いでした。シェイシェイはセン馬なのですが、国際レースでも勝っている有名な馬で、ドバイ(2013年アルクォズスプリント・GI)でも、スミヨン騎手が乗って勝っています。ロバやシマウマがシェイシェイの1番の友達なんです(笑)。

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チャンピオンホースとのまさかの出会いにビックリ!(C)netkeiba.com

――南アフリカのチャンピオンホースは、ロバやシマウマが友達なんですね。

ヒューイットソン騎手 はい。牧草地の中に飼い葉桶を入れて人間は皆いなくなるんです。シェイシェイは飼い葉桶の位置を知っていて、自らそこに行って食べていますし、自分のリズムで暮らしています。

――伸び伸びと暮らしていて、シェイシェイは自由人ですね。

ヒューイットソン騎手 僕は引退した馬が馬術を絶対にしなければならないとは思っていません。シェイシェイのように、ゆっくり生きることも良いじゃないですか。何でもリトレーニングするのではなくて、自由な馬生があって良いのではないかと思います。

(つづく)

※このインタビューは4月8日に屋外で十分な距離を保ち、マスク着用のもと行いました。

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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