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馬の命を繋ぐ原動力―忘れることのない馬の“恨みの目” 高知・あしずりダディー牧場(4)

2020年06月17日(水) 18:00

第二のストーリー

あしずりダディー牧場代表の宮崎さんとホープ(提供:あしずりダディー牧場)


片思い…馬世界にもある(?)恋物語


 2016年9月に天に召されたオリジナルステップとともにあしずりダディー牧場へとやって来たもう1頭のテラノリファードは、ホープという新しい馬名をもらって今も元気に暮らしている。

 テラノリファードは、2002年4月20日生まれの18歳。北海道門別町(現・日高町)のビラトリファームで生まれた。父は1993年に大井の東京ダービーを勝ったプレザント。母のキョウランマンは大井で6勝を挙げている。ちなみにキョウランマンの父ハイブリッジスルーは、第1回ジャパンCを勝ったメアジードーツを母に持つ。ブラックタイプを眺めていると、今回のように埋もれていた記憶が呼び覚まされ、懐かしい気持ちになることがしばしばだ。

 当のテラノリファードは2004年5月19日に道営競馬でデビュー戦を飾り、その後は南関東や東海、途中道営にも3度戻ってくるなど地方競馬各地区を転々とした。高知競馬が最後の競馬場となり、2011年10月22日のじぃじ誕生日特別まで67戦10勝の成績を残して引退した。

 新天地となったあしずりダディー牧場でのホープことテラノリファードは、平和主義者のようだ。

「馬にはいろいろな性格があって、放牧地に新しく馬を入れると興味を示して近づいてきたり、ちょっかいを出す子もいます。過剰なくらい他の馬を意識する子もいますけど、ホープ君は他の馬がいても我関せずですね。どの馬が入ろうが何をしようが全く関係ないという感じで、危害を加えることもないですし、無害というタイプです」(あしずりダディー牧場・宮崎栄美さん)

第二のストーリー

ゆったりくつろぐ平和主義者のホープ君♪(提供:あしずりダディー牧場)


 そのホープに恋をしている馬がいる。宮崎さん曰く「片思いでしょうね」。それでもホープを慕い続けるその馬は、2013年8月16日にダディー牧場に仲間入りしたアングロアラブの牝馬ウェンディアンサーだ。1998年5月23日に北海道の門別町(現・日高町)で生まれ、今年22歳。父は2002年から2006年までアラブのリーディングサイアーに君臨した鹿児島産のホーエイヒロボーイ、母はやはりアングロアラブのフワノアンサー、その父はサラブレッドのノーザンアンサーという血統だ。現在と同じウェンディアンサーの名前で笠松の柳江仁厩舎の管理馬となったようだが、競走馬としてはデビューはできずに乗馬となった。

 ダディー牧場に来る前は山陽地区にある乗馬クラブの練習馬として過ごしていた。会員さんにも人気があったのか、1日に幾度もレッスンに出ていたようだ。しかし脚に水が溜まって乗馬としての仕事を続けられない状態となったウェンディアンサーは、クラブから出ることとなった。そこで何とかウェンディアンサーの命を繋ぎたいと願った有志が集まり、畜産業者に渡る前に買い取りに成功。あしずりダディー牧場にその命は託された。

「牧場に到着したのは確か夜中の3時くらいだったと思います。同じトラックに乗っていた他の子たちを見ても、馬同士で喧嘩をしたりするのか、噛まれた跡があったりして皆ボロボロでした。ウェンディはすぐに降りられる1番後ろに乗っていましたが、やはりあちこち噛まれていましたし、蹄もボロボロの本当に酷い状態で降りてきました」

澄み切った馬の瞳とは思えないほどの強烈な恨みの目


 宮崎さんは、トラックに横積みにされていた馬たちのうちの1頭から強烈な視線を浴びた。

「その馬は私の方をずっと見ているんですよ。馬の顔や目は、罪を知らないという感じがして癒されるじゃないですか。それなのにその馬は、本当に人間を恨み切っているような顔をしていました。クリーム色をしたクォーターホース系の馬に見えましたね。その馬の強烈な視線から、私、思わず目を反らしてしまったんですよね。あの恨みの目は、以来2度と見てはいないですね」

 恐らく屠畜の運命が待っているであろうその馬の気持ちがどのようなものであったのかは、本当のところはわからない。だが宮崎さんには、強く人間を恨んでいるように感じた。そして宮崎さんは今も、その目を、そしてその馬を忘れてはいない。だからこそ、これまで馬たちの命を繋いでいくための活動を続けてこられたのだろうし、それが原動力にもなっているように思う。

第二のストーリー

ウェンディアンサーと宮崎さん(提供:あしずりダディー牧場)


「水が溜まった脚を獣医さんに見せたら、水を抜くと関節が動かなくなるかもしれない可能性があるので、そのままにしておいた方がいいと言われました。乗馬をするわけでもないですし、亡くなるまでのんびり遊んで過ごすので、水は溜まったままですけど、これまでずっと暮らしています」

 多忙だった乗馬時代とは打って変わってのんびり過ごすウェンディアンサーだが、他の馬を蹴散らすくらい、性格はきついらしい。

「乗馬として訓練されてきたので、人間を威嚇したり暴れたりはしないのですが、他の馬がウェンディを怖がりますね。ウェンディが放牧地に入ったらウワーッと年を取ったセン馬たちが逃げますもんね(笑)。本当に強くて、メスボスという感じです。ただ芦毛のホープ君が好きでね。いつもすごく追いかけているのですけど、ホープ君はどっちでもいいみたいな感じで(笑)。ホープ君だけには噛みついたりそういうことはなくて、乙女のふりをしてますね(笑)」

第二のストーリー

ホープの前でだけは女の子になる…かわいいウェンディーアンサー(提供:あしずりダディー牧場)


 ホープはホープで、他の馬のようにウェンディアンサーを怖がる様子でもなく、かと言って攻撃を仕掛けるわけでもない。どの馬に対しても、向こうから来たら引くし、引いたら行くという絶妙の距離間でどの馬ともうまく付き合っているという。

「ホープは馬とベタベタすることのない、爽やかなあっさり系ですよね」と楽しそうに話した。
 
 電話の向こうの宮崎さんの声はいつも明るく、そして力強い。だがあしずりダディー牧場がこれまで歩んできた道は決して平坦なものではなく、試練とも思える出来事も次々と訪れるのだった。

(つづく)

▽ NPO法人 あしずりダディー牧場 命の会 HP
http://www.horsetrust-ashizuri.com/

▽ NPO法人 あしずりダディー牧場 命の会 Facebook
https://www.facebook.com/daddyranch/
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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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