「八戸“奏”市場」が開催

2020年07月08日(水) 18:00

今年初めてとなる従来形式でのサラブレッド市場

 昨日(7月7日)、青森県八戸家畜市場を会場に「八戸“奏”市場」が開催された。新型コロナウイルス感染拡大を警戒して、多くのイベントや行事が中止、延期となる中、従来型の形式で開催されるサラブレッド市場としては今年初めてとなったのがこの八戸である。

 八戸市内から車で30分近く。曲がりくねった坂の多い道を走り、三戸郡南部町にある家畜市場に到着したのは午前8時40分頃であった。

 市場入口には受付のテーブルが置かれ、そこで氏名や来場目的などを記入し、検温を受ける。市場関係者はフェイスシールドとマスクで私たちに対応する。コロナ対策が徹底されている印象であった。受付時に蛍光塗料のリストバンドを手渡された。それが入場許可証の代わりのようだ。

生産地便り

来場する購買者

 比較展示は午前10時半〜12時まで。その後、昼食時間を挟んで、セリ開始は12時半と告げられる。いつもながら八戸市場はかなり時間に余裕がある。

 八戸市内と比較すると、内陸に入った分、ここは気温が高く、やや湿度も高そうだ。前夜から早朝にかけて雨が少し降ったらしく、そのせいか空気がやや重い。

 天候は曇り。当初の予報では、雨交じりの空模様になるとのことだったので、降られないだけでも助かる。風はなく、ほぼ無風である。

 待機馬房に下りてみる。今年は上場申し込みが43頭と、昨年より少しだけ増えている。

 県内生産馬が中心だが、日高を中心に県外勢も13頭いる。八戸市場は傾斜のある敷地の一番高いところにセリを開催する市場の建物や事務所があり、隣接して小さな学校のグラウンドほどの広さの展示スペースが設けられている。そして待機馬房は、そこから坂を下りた斜面に並行して段々に4棟並んでいる。展示や上場時には引き手が馬とともにそこを上がって来なければならない。

 今回、八戸市場はコロナ対策として一般の見学者の入場をお断りしていた。したがって市場に集まるのは購買関係者と報道陣、それに上場馬の関係者のみである。どれくらい購買者が来場してくれるのかという不安もあったらしいが、蓋を開けてみれば、昨年よりも11人多い108人の購買登録があったという。例年、ここで会う常連の購買者もほぼ来場していた。報道陣もそれなりに揃った。

 展示開始時刻が近づき、展示会場に向けて設置されたスピーカーからアナウンスが流れてきた。次々に上場馬が坂を上って来る。1頭が欠場し、今回は42頭の上場だそうだ。

生産地便り

待機馬房から上がってくる上場馬

 それを3回に分割して展示する。例年よりもお互いに距離を空けての比較展示である。さっそく購買関係者が名簿を片手に順に見て歩く。時々、引き手に声をかけて常歩を要求する人もいる。いつもながらの風景だ。コロナ感染も何のその、予想以上に多数の購買関係者が集まっている印象である。

生産地便り

展示風景

 比較展示の最後には、全馬(といっても14頭だが)がゆっくりと時計回りに常歩で一周し、1頭ずつ市場に付属した馬検場に向かって速歩を披露する。購買者はそれぞれ真正面や真横から1頭ずつ馬の動きをチェックする。

 12時まで同じ要領で展示が行なわれ、その後、昼食になった。名物のせんべい汁こそなかったものの、1人ずつお弁当が配布され、それぞれ思い思いの場所で昼食をとる。飲み物も無料で用意されている。

「どれくらい売れるか」が気になっていた。セリ開示時刻が近づき、市場内に購買関係者が集まって来る。やや密の状態にも感じるが、それぞれできるだけ距離をとりすり鉢状になっている座席に腰掛けている。開催にあたり、まず主催者の青森県軽種馬生産農協・山内正孝組合長がマイクの前に立つ。ようやく何とか無事に開催に漕ぎつけたという安ど感の滲む挨拶でセリが開始された。

生産地便り

セリ会場風景

 1番ダーティダンシングの2019(牡、父アルデバランII、青森・石田英機牧場生産)が入場すると、いきなり400万円(落札価格440万円)のコールがかかり、JRA日本中央競馬会が落札する。順調なスタートを切った、と思ったが、その後は落札と主取りが繰り返され、声がかかっても思いの外価格が伸びない。やや控えめの価格の落札馬が続き、早くも半分が終わった。落札されたのは50%より多少多いくらいで、なかなか500万円超の落札馬が出ない。

生産地便り

ダーティダンシングの2019

生産地便り

ダーティダンシングの2019(速歩の様子)

 100万円台、200万円台の落札馬が多く、価格は最後まで伸び悩んだ。最高落札価格馬は、35番バーニングラブの2019(牡、父ウインバリアシオン)の620万円(落札価格682万円)であった。全兄にドスハーツ(現、1勝)のいる均整のとれた馬体で、今回の上場馬の中では前評判が高かった。生産は青森・清水貞信牧場、落札者は東京・犬塚悠治郎氏。牝馬では9番ルナフェリーナの2019(父トーセンホマレボシ)の490万円(落札価格539万円)、生産者は新ひだか町・(株)タイヘイ牧場、落札者はJRA日本中央競馬会が最も高かった。

生産地便り

最高価格馬となったバーニングラブの2019

生産地便り

バーニングラブの2019(速歩の様子)

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牝馬での最高価格馬となったルナフェリーナの2019

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ルナフェリーナの2019(速歩の様子)

 終わってみれば、前年比7頭増の42頭(牡26頭、牝16頭)中、29頭(牡18頭、牝11頭、前年比5頭増)が落札され、売却率は昨年とほぼ同じ69%とまずまずの数字になった、しかし、売却総額は、税込で8756万円。前年比で7.2%の減少となり、平均価格も91万3690円下落して301万9310円とやや厳しい結果になった。

 とはいえ、セリ終了後、山内組合長は、ホッとした表情を見せながら「開催にあたり、皆様方からご協力を頂き、JBBAからは施設改修に補助して頂いたり、日高、胆振の軽種馬農協からもお手伝いの人々を派遣して頂いたりして本当に有難かったですね。今回は、生の馬と接することが難しい状況なので、関係者の皆様にとっては久しぶりに実際に馬と触れ合うことのできる市場になったと思います。高額馬が出なかったのは残念ですが、要因としてはコロナ関係で景気があまり芳しくないことも要因のひとつでしょうね。中小企業のオーナーの方々が多いセリですから、やむを得ない結果だったと思います。後は取引馬が成績を上げてくれることに期待しております。いろいろな種牡馬の産駒が上場されるようになると良いのですが、その辺が今後の課題です。今後とも良い馬を上場できるように努力してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」とコメントしていた。

 今回は様子を見て、価格を抑え気味で臨んだ購買者が少なくなかったと言える。来週のセレクトセールは購買者層がそもそも異なるのでまた別の世界の話になるが、来る8月下旬の日高で開催されるセレクションセールとそれに続いて行なわれるサマーセールの動向で今年のサラブレッド市場の景気を判断することになるだろう。コロナ禍による景気低迷が一要因として上げられるが、一方では無観客ながら、とりわけ地方競馬が順調に売り上げを伸ばしてきていることが+要素として考えられる。生産界にとってもこれから来月下旬にかけて、いよいよ正念場を迎える。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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