芝で逃げ切り期待高まるシンボ

2020年07月14日(火) 18:00

特指のルール変更など運も味方した

 7月12日(日)、函館の横津岳特別にホッカイドウ競馬から参戦したシンボが見事に逃げ切り勝ちを決めた。

 前半は13秒台のラップに落としてスローペースに持ち込んだが、残り1000mあたりで後方からトロピカルストームが一気にまくって出てきたところからペースアップ。トロピカルストームが一瞬前に出る場面もあったが、シンボはハナを譲らず。直線を向いて、そのトロピカルストームが一杯になると、替わってウインレーヴドール、ハーツイストワールらが攻めてきたが、それらも振り切って逃げ切った。最後の1000mは58秒8、11秒台のラップを4つ続けて最後の1Fが12秒2というラップで押し切った。

 シンボはホッカイドウ競馬の一冠目・北斗盃、二冠目・北海優駿では、ともに逃げてそれぞれ3着、2着に粘っていたように、ダートでも逃げて粘り強いところを見せていたが、芝2600mという舞台であらためてその粘り強さを発揮。正直なところ1勝クラスならと思っていたが、2勝クラスの特別戦を勝ったということでは、“大あっぱれ”でしょう。

 管理する齊藤正弘調教師にうかがった。

「2歳時の盛岡芝(ジュニアグランプリ)の2着で芝の適性はあると思っていたので、馬主さんが『地方から中央に挑戦したい』ということを言われていました。福島のレースを使おうと思ったのですが、コロナの影響で地方馬の出走は不可。それで地元の北斗盃を使いました。あらためて函館の1勝クラスに出走しようと思っていたところ、北海優駿で2着に入ったことで2勝クラスになってしまい、これはむしろ誤算でした(笑)。

 ただ馬主さんとも『強いところで揉まれれば経験にもなる』ということで出走しました。距離に不安はありましたが、門別での粘りを見れば、函館の短い直線ならとも思いました。ほかにも、平坦コース、洋芝など、すべてがうまくいきました。騎手時代からよく知っていた古川(吉洋)君もうまく乗ってくれました」

 ちなみに、同日盛岡では芝1700mのオパールCもあり、そこから菊花賞トライアルを目指すことも考え、実際に出走した横津岳特別とは両睨みだったとのこと。結果的にそのオパールCは悪天候による走路状態悪化でダート変更になったことを考えても、まさにすべてがうまく運んでの勝利となった。

 最近では同じくホッカイドウ競馬に所属していたハッピーグリンの活躍が記憶に新しいが、能力格差が広がってしまったここ何年か、地方馬は中央に挑戦してもなかなか勝つことができないのが現実。これは必ずしも地方馬が弱くなったわけではなく、海外の大レースでも当たり前のように勝てるようになった中央馬がここ10年、15年ほどで急激に進化したものと考える。また2012年からは中央の2歳新馬戦の開始時期が早まり、4月から2歳戦が始まるホッカイドウ競馬のアドバンテージが以前ほど大きなものではなくなったことも要因として考えられる。

 中央・地方の幅広い交流が始まったのは1995年のこと。1997年から2005年までは、JRA認定競走勝ちの資格が有効な2、3歳馬を中心に、毎年のべ10頭前後の地方馬が中央で勝っていた。ところが06年8頭、07年5頭、08年7頭と、徐々に地方馬の勝利が少なくなると、09年以降は毎年2頭以下、年によっては1頭も勝てないこともあった。2018年には久しぶりに地方馬が3勝したが、そのうちの2勝はハッピーグリンによるもの。昨年は地方馬の勝利がなく、今回のシンボの勝利は、ハッピーグリンのSTV賞(2018年8月11日・札幌)以来の勝利で、しかも同じ2勝クラス(1000万下特別)。齊藤調教師の中央での勝利は、2012年札幌・すずらん賞のシーギリヤガール以来2勝目となった。

 ちょっと話は逸れるが、齊藤調教師の騎手時代は、前述したとおりJRA函館・札幌でホッカイドウ競馬所属馬が当たり前のように勝っていた時期。騎手として中央では12勝(うち地方馬では5勝)を挙げた。

 なかでも2003年にはJRA函館・札幌で5勝を挙げ、そのうち2勝をマークしたのがナチュラルナイン。北斗盃(当時は地方開催の札幌ダート1000m)2着から臨んだ函館芝1800mの500万下を勝つと、札幌芝2600mの支笏湖特別(1000万下特別)と連勝した。

 さらにナチュラルナインは札幌日経オープンまで制して、地方馬として中央で3連勝という記録を達成するのだが、このときの鞍上は四位洋文騎手だった。齊藤騎手はといえば、惜しくも3/4馬身差で2着だったツギタテヒカリに騎乗していた。つまり地方馬のワンツー。ハッピーグリンですらクビ差で2着と勝てなかった札幌日経オープンで地方馬がワンツーしていた時代があったと思うと感慨深い。

 さて、シンボの話に戻る。シンボはJRA認定競走の勝ち星がないまま、(特指)<楕円の中に「特指」>の横津岳特別に出走した。昨年までなら出走できなかったが、今年から(特指)に出走できる地方馬の条件が変更され、JRA認定競走を勝っていなくても、一定の収得賞金を満たせば出走可能となった。また(特指)にできる地方馬は3歳12月までだったのが4歳12月までに延長されてもいる。シンボの勝利には、そうしたルール変更による幸運もあった。

 さて、気になるシンボの今後についてだが、8月8日(土)の札幌日経オープン(芝2600m)を予定しているとのこと。そのレースぶり次第で、菊花賞トライアルも考えたいとのことだった。

 ちなみに昨年は1勝クラスのレースとして行われた横津岳特別を勝ったディバインフォースは、その後2勝クラス(札幌日刊スポーツ杯)で5着に敗れたものの、菊花賞では4着に好走。5着のメロディーレーンは1勝クラスの2600m戦を勝っての菊花賞出走だった。

 それを考えれば、古馬2勝クラスを勝ったシンボは菊花賞に挑戦する能力は十分といえそう。ただ地方馬ゆえ菊花賞に出走するにはトライアルで3着以内に入らなければならず、昨年の例を見ても、セントライト記念、神戸新聞杯には春のクラシックの有力馬が始動戦としてこぞって出走してくるため、相当高い壁となりそうだ。

 シンボにとってひとまずは札幌日経オープンだが、前述のとおり齊藤調教師にとっては騎手時代に惜しくも2着に敗れていたレース。調教師としての雪辱に期待だ。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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