支援金の使い道がわかる“支援者の声”を反映したサポーター制度 馬と歴史と未来の会(3)

2020年08月12日(水) 18:00

第二のストーリー

サポーター募集中のコミュニティ(提供:馬と歴史と未来の会)

“多数決で毎月の支援内容が決まる”サポーター制度

 1度は引退が決まったナグラーダを、もう1度競走馬に復帰させるというプロジェクトが進行中の一般社団法人馬と歴史と未来の会では、サポーター制度を新たに発足させ、6月15日からサポーターの募集を開始した。現在のところサポート対象馬は、ナグラーダと引退馬のコミュニティの2頭。そして馬っこパーク・いわてがサポート対象施設となっている。ナグラーダとコミュニティそれぞれ1頭につき上限20口、対象施設の場合は1施設につき上限50口で募集して、1口の金額が1年間で1万円(1年更新)だ。1万円のうち1000円は運営資金へ、残り9000円を12か月で割った750円が支援金といて使用される。なお1つのサポーター制度につき1人1口までだが、例えばナグラーダに1口、馬っこパークに1口という具合に、同時に別のサポーター制度に申し込みは可能だ。

 特徴としては会員になった方からの支援金の使い道に、透明性があるということだ。自分が寄付したい先(現在はナグラーダ、コミュニティ、馬っこパーク・いわての3つの選択肢がある)が選べて、馬、あるいは施設に何を支援したいかを毎月会員からアンケートを取り、多数決で毎月の支援内容が決まるシステムになっているのだ。

 このアンケートは会員専用のアカウントから行い、アンケート上位のものを毎月1つ実行する決まりになっている。なお7月のアンケート結果は、ナグラーダがコンプレッションソックス(7、8月分で)、コミュニティが生牧草(を刈り取る人件費)、馬っこパーク・いわてが、虫よけアロマハーブスプレー(取り寄せ中で、実際に効果を試して検討予定)となっている。

 ナグラーダ用のコンプレッションソックスというのは、日常生活の中で傷めたり腫れた患部を冷やすソックス(サポーター)に氷を入れるアイスポケットがついているもの。これを着けたまま馬が日常生活を送ることができるので、洗い場に繋いで水をかけ続けて冷やす必要がなくなり、人馬ともに負担が少なくなるという利点もある。

第二のストーリー

コンプレッションソックスを着けているナグラーダ(提供:馬と歴史と未来の会)

 コミュニティの生牧草は、それを刈り取る人件費に支援金が使われることになった。良質な生牧草(青草)を販売している業者もあるので、それを利用するのも1つの手だ。だが大量の牧草が欲しい場合には、残念ながら送料の占める割合が多くなってしまうため、人件費を払ってたくさんの青草を刈った方が効率的という判断だ。このような説明があれば、自分の支援金が生きた使われ方をしていると実感できるのではないだろか。

 また1頭20口、1施設50口と上限を決めたのは、支援金や内容が明確になりやすく、手配もスピーディーになり、支援者の声が反映しやすくなるからというのが理由だ。

「サポーター制度がスタートして、ファンの方の反応はありましたが、批判的なコメントが皆無だったのが不思議でした。もちろん準備や説明には手をかけましたが、皆さんに受け入れやすく、納得いく制度だと思ってもらえたのかもしれません」(代表理事・上田優子さん)

 このように、スタート当初から人々から共感を得ることができたのは大きいし、実際行った支援内容の報告をSNSに上げた後に、サポーターの申し込みが来ることもあるという。

「どんな制度なのだろうと様子を見てくれている方々もいるのだなと、嬉しく思います。毎月回を重ねていって、途中からサポーターになって下さるのが理想ですね」(上田さん)

 サポート対象馬のコミュニティは、JRA未勝利で岩手競馬に移籍してから大活躍した馬なので、ご存知の方も多いだろう。2010年2月4日生まれだから、ちょうど10歳。父ブライアンズタイム、母ミチノクレット、母父がティンバーカントリーという血統で、北海道白老町の社台牧場の生まれだ。美浦の田島俊明厩舎の管理馬として2013年3月9日に中山競馬場の新馬戦でデビューして8着。だがその後5戦するものの7着が最高で、未勝利のまま岩手競馬へと移籍したのだが、そこから実に12連勝と地方競馬でコミュニティの能力は開花。ちなみに12連勝のうち10連勝目がニューイヤーカップで、これが重賞初制覇だった。

第二のストーリー

2015年南部杯出走時のコミュニティ(撮影:高橋正和)

 岩手13戦目の青葉特別で初めて3着に敗れはしたが、その後も青藍賞、絆カップ、桐花賞、あすなろ賞(2連覇)、みちのく大賞典と重賞7勝の大活躍をし、2014年の桐花賞では圧倒的な1.1倍と1番人気のナムラタイタンを下している。そのコミュニティも競走生活後半では重賞競走には出走しても勝つことはできず、2019年12月31日の桐花賞を最後に現役生活にピリオドを打った。中央、地方通算75戦24勝という成績だった。

 脚元の怪我を抱えながら現役生活を続けてきたコミュニティは、現在も球節に爆弾を抱えており、強いトレーニングができない状況で、たくさんの人を長時間乗せる乗馬クラブの練習馬は難しい。だがこれから長い馬生を何とか生きていくために、コミュニティにできる仕事をと、上田さんはじめ馬と歴史と未来の会では現在模索中だ。

(つづく)


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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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