“乗馬”だけじゃない…それぞれに合った第二の馬生を探して 馬と歴史と未来の会(4)

2020年08月18日(火) 18:00

第二のストーリー

第二の馬生を模索中のコミュニティ(提供:馬と歴史と未来の会)

“馬の仕事の選択肢を増やす”ためには

「まだ脚元が腫れていて負担をかけられない状況なので、軽い調馬索程度の調教しかできないんです」

 第二の馬生を模索中のコミュニティの現状を、馬と歴史と未来の会の代表理事・上田優子さんはこう話す。人懐っこい性格だが、とにかく元気いっぱい。放牧すると球節に爆弾を抱えているのに暴れるので、そのたびに脚元に負担がかかってまた腫れる。かと言って舎飼いを続けるとストレスがかかり、太れなくなって毛ヅヤも悪くなってくる…というように一進一退の状況が続いている。

 このような話を聞くにつけ、第二の馬生はリトレーニングをして乗馬という選択肢は、すべての馬に当てはまるものではないということを再認識させられる。コミュニティの場合は、脚元の不安が1番の原因だが、乗馬に向く向かないはその馬の持つ性格によるところも多いと感じる。

 ただ牡馬は、去勢をすると気性が穏やかになるケースも多く見受けられる。コミュニティも去勢手術を受けるともう少し落ち着きも出てくる可能性もあり、もちろんそれも選択肢には入っているが、そこには資金という壁もある。馬を1頭、乗馬としてリトレーニングするにも様々な経費がかかり、スムーズに事が進まないことが多々ある。前回も書いたように、コミュニティは脚元に不安があるため、乗馬としてたくさんの人を長時間乗せるのは難しい。ならば不特定多数の人が乗る練習馬ではなく競技馬にできたらという希望もあるようだ。それでも障害飛越競技に脚元が耐えうるかは、現段階では判断がついていない。

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元気いっぱいのコミュニティだが脚元に不安を抱えている(提供:馬と歴史と未来の会)

「もし競技馬としての適性がない場合は、ふれあい用の馬ですけど、まだ元気がありあまっていて、小さい子供たちには難しいかなと思います。もしふれあい馬にする場合は、じっくり時間をかけていくという感じですね」

 馬と歴史と未来の会では、馬の仕事の選択肢を増やすという活動も行っているが、乗馬やふれあいを含むセラピーホース以外に経済活動を行える仕事はなかなかあるものではない。ましてやもしコミュニティのように脚元が悪かったりするとなおさらだ。乗馬(競技馬)やふれあい馬になれなかった場合、展示馬として繋養することも視野に入れてはいる。だがそこでも壁になるのが、資金の問題だ。

「サポート対象馬になっていますが、支援もそうそう集まるものでもないですから…」

 だが地元岩手の重賞ホルダーでもあるコミュニティを馬と歴史と未来の会ではこれからも支えていき、彼に合った第二の馬生がないかをさらに模索し続けていくことになりそうだ。 

 一方、ナグラーダは馬っこパーク・いわてで秋まで英気を養っている。

「馬っこにいる時には、穏やかで甘えん坊ですね。人が大好きみたいで構ってちゃんで、多分愛され系だと思います。好奇心も旺盛で、1人遊びもしますよ」

 上田さんが送ってくれた動画には、近くにかけられている引き手を手繰り寄せては口で遊んだり振り回すナグラーダの可愛らしい姿があった。オフのナグラーダが愛されキャラだとしたら、競走馬としてのナグラーダはどんな馬なのだろう。

「ナグ君はヤル気になるまではのらりくらりとしているけど、いざやり始めたらムキになるタイプで案外負けず嫌いなのかもしれませんと、管理されている橘調教師が仰っていました」

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ナグラーダは、ヤル気になるまではのらりくらりとしているけど…(提供:馬と歴史と未来の会)

 競走馬に復帰してから4戦、善戦はするもののなかなか勝てなかったナグラーダだが、秋シーズンは負けず嫌いな面を存分に発揮して、是非初勝利を手にしてほしいものだ。

 馬と歴史と未来の会のサポーター制度は、熟考しただけあって、かなりしっかりとしたシステムが構築されていると感じた。お金の流れの見える化をはかり、会員さんから支援したいことを募り、多数決で支援内容を決める。自らがちゃんと支援に関わっていることを実感できると、馬に対しても愛着も出てくる。それでもなかなか満口にはならないというのが現状なのだ。
 
 アハルテケイオンという名称で上田さんが個人的に活動していた頃から、継続的、固定的に収益をあげられる事業がないと引退馬支援活動は難しいという結論に既にたどり着いてはいた。それができればコミュニティのような馬も、命を繋いでいくことができる。

「例えば何かの補助金を申請したとしても、その申請が通らなかったり、通ってもそれが打ち切られることもあります。また人の支援をあてにしたり、クラウドファンディングで資金を募っても、それは一時的なものなのでそれだけでは続けていけません。では収益を上げるにはどうしたら良いのだろうとずっと考え続けてきました」

 そんな上田さんが始めたのが、馬糞堆肥で作ったリンゴから作るリンゴジュースやゼリーの商品化だった。

「お試しで始めたのですが、これは商品として十分成り立つと実感しました。馬糞堆肥もリンゴ農家さんも地元岩手にありますし、地元の企業を巻き込むことで地域の連携ができて、これはビジネスのモデルとしてはありではないかなと思いました。また地域と馬を融合させることで、通常なら出会うことのなかった職種同士に交わりができます。馬しか知らなかった人に地域の特産品や活動を知ってもらえたり、逆に馬を知らない地元の人に馬事文化やアニマルウェルフェアについてアピールもできますしね」

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馬糞堆肥で作ったリンゴからできたリンゴジュースとゼリー(提供:馬と歴史と未来の会)

 ただりんごジュースやゼリーは、りんごを収穫する決まった時期にしか商品化できない。ならば季節に左右されない商品を開発しよう。上田さんは、新たな目標に向かって動き始めていた。

(つづく)


▽ 馬糞堆肥で作ったリンゴジュースとゼリーの詳細はこちら

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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