北村友一騎手に聞く「この秋、クロノジェネシスと叶えたいこと」―芦毛特集(4)

2020年12月27日(日) 12:00

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芦毛感はまだまったくないけど…今回の芦毛特集はクロノジェネシス(C)netkeiba.com

2着と6馬身差、強豪牡馬をも蹴散らす圧巻の強さを見せた宝塚記念を終え、秋に備える4歳牝馬クロノジェネシス。近年は“乗り替わり”が普通になっているなか、北村友一騎手がデビューから全戦手綱を取り続けています。強力なライバルたちと戦うことになるであろうこの秋にクロノジェネシスと叶えたいことを尋ねると、「負けたくない、じゃなくて一緒に勝ちたい」と…。果たして、その真意は。

(取材・文=不破由妃子)

※このインタビューは、電話取材で行いました。

道悪が得意! なわけではないんです…

──今回は芦毛特集の一環として、改めてクロノジェネシスの強さをクローズアップしていきたいと思っています。

北村 はい。でも、クロノジェネシスはまったく“芦毛感”ないですよ(苦笑)。色も全然抜けていないし。

──確かにパッと見では芦毛だとわからないくらいですよね。芦毛では、ほかにもオメガパフュームやクリノラホールなどに騎乗されていますが、毛色の変化ともに精神面や走りに変化が生じるものですか?

北村 いや〜、あまり芦毛ならではの変化は意識したことがないですね。どんな毛色の馬も、年とともに落ち着きが出てくるのは一緒ですし。騎乗するうえで、毛色を意識することはとくにないです。

──「夏は芦毛が強い」といった格言も存在しますが…。

北村 すみません。まったく感じたことがございません(笑)!

──わかりました(笑)。では、クロノジェネシスの強さについて迫ってまいりましょう。まずは6馬身差の圧勝となった宝塚記念のお話から。道悪巧者であることはわかっていたものの、それにしてもの強さでした。北村騎手にとっては、驚きだったのか、想定内だったのか、あの勝利をどう受け止められましたか?

北村 驚きのほうが大きかったです。自分が思っていた以上の強さでした。でもね、いろんな人に言うんですけど、決してああいう馬場(稍重発表も、1時間前に激しい雨が降った特殊な馬場)が得意なわけではないんですよ。

──そうなんですか!? 道悪(稍重、重)は4戦全勝ですが…。

北村 得意なのではなく、緩い馬場のほうが、馬が道中リラックスして走れる…というのはあります。

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緩い馬場のほうが、馬が道中リラックスして走れるそう(C)netkeiba.com

──ああ、走りづらいぶん、普段行きたがる馬でも折り合えるというのは聞いたことがあります。

北村 そうなんです。折り合って運べるぶん、力が発揮できる。それにしても強かったですけどね。

──道悪であれだけ強い走りができるということは、走りのバランスがいい証拠でもありますよね。

北村 バランスは本当にいいです。だから、緩い馬場を苦にしないのは確かです。ただ、良馬場の大阪杯でも2着にきたように、道悪だけが得意ということではありません。

──デビューから11戦、クロノジェネシスの背中は北村騎手しか知らないわけですが、ここまでの約2年間でどう成長してきたのか。変化を感じた時期やレースを教えてください。

北村 一番成長を感じたのは秋華賞ですね。オークスが終わったあと、初めて北海道に放牧に出たのですが、帰ってきたとき、すごく大きくなったなぁと感じて(秋華賞はプラス20キロの452キロ)。体の成長だけではなく、精神的にも少しおとなになって、全体的に落ち着きが出ました。牧場でいい時間を過ごしてきたんだなと思いましたね。

──さらに年明けの京都記念でプラス12キロ。クロノジェネシスというと小柄なイメージがありましたが、いまやすっかりそのイメージが払拭されましたよね。

北村 本当にどっしりしましたよね。すごくパワーアップしていて、とくに筋肉量が増えたのを感じます。

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一番成長を感じた秋華賞「すごく大きくなったなぁ」(C)netkeiba.com

──直線で追い込んでくる姿を見ていると、ほかの馬に比べて胸の深さが目につきます。

北村 そうですね。前はもちろん、後ろもパワーアップしてますしね。秋華賞前に少しおとなになったとはいえ、今でもテンションが高くなる時期があって、調教でも行きたがる面が強く出ることがありますが、パワーアップしたぶん、抑えるのに苦労することもあります。でも、見方によってはいい傾向ですよね。

──2歳時から能力が高かった馬が、さらにパワーアップした結果が宝塚記念。本当に順調な成長過程をたどっていますよね。

北村 はい。ここまですごく順調にきています。斉藤先生も厩舎のスタッフも、本当によく馬のことをわかっていて、普段からいい調教を積めているんだなぁといつも感じます。僕が乗るのは、1週前と当週の追い切りと競馬だけですからね。

“負けたくない”じゃなくて、“一緒に勝ちたい”

──秋は天皇賞が有力視されていて、予定通りならアーモンドアイとの対決が実現します。今年はひとつ下にもコントレイルやデアリングタクトなど強力なライバルがいますが、北村騎手のなかで“現役最強”は視野に入っていますか?

北村 いやぁ、強い馬がいっぱいいますからねぇ(苦笑)。ただ、ここまでの成長を思うと、この秋はまた一段と成長して牧場から帰ってくるんじゃないかという期待感はあります。でもまぁNo.1の称号よりも、コツコツとひとつずつクリアしていきたいという気持ちのほうが大きいです。もちろん、強い馬と戦うことについては、ものすごくワクワクしていますけどね。

──以前、「2019年は、中央場所で自分の土台を築きたい」と目標を掲げていらっしゃいました。その言葉通りに、昨年はGI3勝の大活躍。そういったご自身のキャリアに、クロノジェネシスが与えたものとは?

北村 めちゃめちゃたくさんのことを与えてもらっていますよ。一番は、成長を間近で見ながら、それを競馬で感じながらここまでこられたこと。僕、こういう経験はクロノジェネシスが初めてなんですよ。存在そのものがモチベーションになっていますし、この経験をクロノジェネシスから与えてもらったひとつの大きな引き出しとして、今後につなげていきたいと思っています。

──以前、斉藤先生が「きっと北村ジョッキーもクロノから多くのことを学んでいるはず。みんなで一緒に成長していけるのが一番で、それが北村ジョッキーを乗せ続ける意義でもある」とおっしゃっていました。まさに先生の意義が形になっていますね。

北村 先生、なんてカッコいいことを言うんでしょう(笑)。ここまでの馬に乗り続けられることなんてなかなかないですからね。この経験を絶対に無駄にしないように。

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みんなで一緒に成長していけるのが一番。この経験を絶対に無駄にしないように…(C)netkeiba.com

──では最後に、この秋、クロノジェネシスと叶えたいことを教えてください。

北村 叶えたいこと……とにかく勝ちたい。出るレースは全部勝ちたい! うまく言えないけれど、「負けたくない」っていう馬ではないんですよ。勝ちたいんです、一緒に。

──その違いとは? とても興味深いです。

北村 どう言えばいいんでしょう……。考えて出てきた言葉ではなくて、そのまま自然と出てきたんですよね。

──「負けたくない」という言葉の向こうには相手が見えますが、「勝ちたい」というのは、自分と馬との闘いのような。ずっと乗ってきたからこその思いかもしれませんね。

北村 ああ、そうかもしれません。確かに相手がどうこうではなく、いかにクロノジェネシスのベストパフォーマンスを見せられるかという気持ちが強いです。それができれば……という期待が大きいぶん、やはり勝ちたい。ここまでたくさん馬に助けられてきたので、この秋も常に感謝の気持ちを忘れることなく、全部勝てるように頑張りたいです。

(※文中敬称略)

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