競走馬5頭が犠牲になった“栗東トレセン火災” なぜ打開策が見つからないのか

2020年09月28日(月) 18:01

 中央競馬の西日本の調教拠点である栗東トレーニングセンターで大きな火災が発生し、競走馬5頭が命を落としてから約1カ月半が過ぎた。最も被害の大きかった村山明厩舎は半焼し、所属馬5頭が死んだ。また、隣接する中尾秀正厩舎、高柳大輔厩舎も一部が焼けた。

 馬房ひいては競馬場やトレセンといった制限区域から馬が逃げ出さないことは、厩舎管理の基本に属する。従って、普段は馬が簡単に逃げ出せないよう、様々な措置を取っている。そんな場所でひとたび火が出たら…。ディレンマが悲劇的な形で現実になった。

人の少ない時間帯に…

 火災が発生したのは8月14日午後5時36分頃。村山厩舎で発生した火災は一気に隣接する厩舎にまで広がった。JRAの調教師は原則20馬房を貸与されており、栗東の場合、10馬房ずつの建物が2棟ある。焼けたのは西側の棟で、当時、村山厩舎ではコパノキッキングなど小倉滞在中の馬もおり、栗東在厩馬は12頭。うち4頭が西側の棟にいた。

 逃がすには扉を開けなくてはならなかったが、開けるとバックドラフト(一酸化炭素が酸素と結合して二酸化炭素となり、化学反応を起こし、急速に爆発する)の恐れがあり、手の施しようがない状態。救出が可能だったのは、東側の棟の馬房に入っていた8頭だけだった。

 火災があった金曜日の午後5時台は、トレセンにあまり人のいない時間帯。しかも小倉や札幌が開催中で、出張者も多かったが、他厩舎を含めて周辺にいた人々が救出作業に当たった。引き綱をつける時間的余裕もなく、裸馬の状態で逃がして、後で取り押さえるという慌ただしさだった。何とか救出したが、翌日になって気管にやけどを負った1頭が予後不良に。5頭が命を落とす惨事だった。

 14日に死亡が確認されたのは、7歳牡馬で1勝クラスのミラクルユニバンスと、アオイホープ、ケイティレジェンド(以上牡2)、トーアキャンディス(牝2)の4頭。ミラクルユニバンスとアオイホープは16日の小倉に出走予定だった。15日に予後不良となったのはベルエスメラルダ(牝6)。ダート1400mで4勝をあげ、3勝クラスに属していた。

原因特定が難しいレベルの焼け方

 JRAは建物の被害を「半焼」と記しているが、実際は前記の通り2つある厩舎棟のうち1つ、約820平方mが全焼した。また、中尾秀正、高柳大輔両厩舎の一部で雨どいが焼けるなどの被害があり、当該厩舎はとりあえず、出張馬房に臨時で移っている。

 原因究明だが、地元の警察・消防は15日に実況見分を行い、17日に「原因は特定できない」とした上で、詳細について引き続き調査を続けるとの見解を示した。一方、当時の防犯カメラの映像を解析した結果、「一切の出入りが認められなかった」として「事件性は低い」との結論に至ったことを明らかにした。

 発生から鎮火まで2時間50分(午後5時36分から8時26分)を要したほど火の勢いが強く、原因特定につながりうる材料も全て焼けてしまったことが大きかった。当初はエアコンの室外機などを原因とみる推測も出ていたが、時間の経過とともに否定的な見方が多くなった。・・・

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野元賢一

1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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