「この馬とは長い付き合いになるのかな」一人の男性とポジーの物語(1)

2020年09月29日(火) 18:00

第二のストーリー

きれいな流星が輝くポジー(提供:Y.Hさん)

栗毛の馬体と愛らしい馬名で愛された牝馬

 ポジー。少し古いファンなら、重賞戦線で善戦していたこの馬名を記憶している方もいるだろう。1990年生まれだから、牝馬では桜花賞、オークスを制したベガや砂の女王ホクトベガ、牡馬ではダービー馬ウイニングチケット、菊花賞馬ビワハヤヒデ、皐月賞馬ナリタタイシン、天皇賞(秋)を制したサクラチトセオー、ネーハイシーザー、ジャパンC優勝のマーベラスクラウンらと同期になる。

 愛らしい馬名からファンも多かったポジーは、競走馬を引退して繁殖牝馬となり、やがて母としての役目を終えた時、ファンとしてずっと見守ってきたY.Hさんが新たなオーナーとなる。愛情を注ぎ、交流を深め、そして最期を看取った。ポジー、26歳。2016年12月13日の朝のことだった。

 ポジーは1990年3月10日に、北海道浦河町にある鮫川牧場で生を受けた。父はヤマニンスキー、母はスプリングシャトー、その父がシャトーゲイという血統だ。スプリングシャトー自身は未勝利で繁殖生活に入ったが、その母シャークテイムは1980年の京都記念3着や函館記念で2着など重賞路線でも好走実績があった。そんな血統背景のもと生まれたポジーは栗東の荻野光男厩舎の管理馬となり、4歳(旧馬齢表記・現3歳)5月と遅い時期にデビューした。クラシック戦線には間に合わなかったものの、徐々に力をつけていき、やがてオープンで活躍するまでになった。

 一方、Y.Hさんが競馬に出会ったのは、朝日杯3歳Sやセントライト記念、AJCCを制したサクラホクトオー(競走馬時代1988年〜1991年)が走っていた時代だったという。

「ちょうどオグリキャップブームの前後くらいで、当時走っていたヤエノムテキ(1988年皐月賞馬)という馬が結構気になっていたんですよ。ヤエノムテキもポジーと同じ荻野厩舎ですよね。当時はさほど知識もなかったのですが、荻野先生の馬を調べてみたら、鮫川牧場と鮫川三千男さん生産の馬が多いことに気がついたんです。ヤエノムテキは別の牧場の生産でしたが、何となく荻野厩舎と生産者の鮫川さんに興味を持ったんですね」

 これがポジーとの出会いの第一歩となった。

「鮫川三千男さん生産のカガミセンカ(1989年生まれ)という馬が荻野厩舎の管理馬としてオープンで走っていて、初めてこの子は良いなと思いました。そこへポジーという馬が現れたんです。デビュー前から存在を知っていたわけではなかったのですが、名前も可愛らしいですし、気になっていた鮫川牧場の生産馬で荻野厩舎でしたからね」

 ポジーの主戦は北沢伸也騎手(現在は障害騎手)で、元々が荻野厩舎の所属騎手だった。

「北沢騎手は初めて良いなと思ったカガミセンカにも乗っていましたし、ポジーの生産牧場や血統背景…。戦前の小岩井農場までさかのぼって、フロリースカップ(小岩井農場が1907年にイギリスから輸入した20頭のうちの1頭)から第九フロリースカップ、トサモアーといった血統の流れをガッツリ調べてのめり込んでいきました。

 ただ今なら出走するたびにあちこちの競馬場に応援に行ったりもできたのですけど、まだ僕は高校生でしたから現地に赴くのはなかなか難しかったですね。まだネットもなかったですし、ラジオを聴いたりしてまた勝った、また勝ったと喜んでいました」

第二のストーリー

現役時代のポジー(提供:Y.Hさん)

 Y.Hさんがポジーを実際に目にしたのは、忘れもしない1995年9月10日、函館競馬場だった。東京都三鷹市出身のY.Hさんは、その頃札幌市の大学に通うようになっていたのだ。2走前には中京のオープン特別の摩耶Sで1着となり、続く函館記念では13番人気ながらインターマイウェイの5着と健闘。調子を上げて臨んだUHB杯で、Y.Hさんが見守る中、ポジーは見事に優勝した。

「あの頃はまだ競馬や繁殖を引退した馬の余生を見るというのはまだ一般的ではなかったのですけど、なぜかポジーは特別な存在という気がしました。もしかするとこの馬とは長い付き合いになるのかなと漠然と感じました」

 この予感通り、Y.Hさんとポジーの歴史はこの後もずっと続いていくのだった。

(つづく)

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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