2020年10月07日(水) 12:00
新型コロナウイルスの感染終息の見通しが立たないヨーロッパでは、依然として国境を越えた人間の移動に制限が設けられており、競馬産業の経済活動にも大きな影響が出ている。
アイルランドにおけるセール主催会社のゴフス社も、秋の主要1歳セールを本拠地であるキルデアで開催することを断念。選りすぐりの愛国産1歳馬が上場される看板市場の「オービーセール」を、英国のドンカスターにあるゴフスUKに施行場所を変更した上で、9月30日と10月1日の両日にわたって開催した。
コロナ禍による移動制限は、購買者の現地参戦を難しくしただけでなく、一般景気の冷え込みは当然のことながら、賞金の減額など目に見える形で競馬産業にも暗雲を投げかけており、オービーセールの結果も残念ながら厳しいものとなった。
2日間で311頭が総額2114万2千ポンドで購買されたが、これは、前年の総売り上げをポンドに換算した数字と比較すると、44.5%ダウンとなる。同様にして、平均価格は前年比35.2%ダウンの6万7981ポンド、中間価格は前年比18.3%ダウンの4万7千ポンド、前年は15.2%だったバイバックレートが、今年は20.1%に上昇することになった。
また、前年は300万ユーロ(当時のレートで約3億5790万円)だったセール最高価格が、今年は45万ポンド(セール当日のレートで約5633万円)と、6分の1以下に急落している。
市況としては、バイバックレートがそれほど極端には上昇しなかったことが救いとなったが、背景にあったのは、こういう情勢下ゆえ、販売側が値付けを現実的なものとせざるを得なかったからで、欠場が前年の44頭から今年は85頭に急増したあたりにも、販売側の苦しい台所事情が窺い知れる。
前述した45万ポンドの最高価格がついたのは、2日目に登場した343番の父オアシスドリームの牝馬だった。1勝馬プリンセスデルーンの初仔で、母の半兄にG1イスパーン賞(芝1850m)勝ち馬ザビールプリンス、母の全兄にG2ブレイミーS(芝1600m)など3重賞を制したピュイサンスデルーンがいるファミリーの出身。購買したのはハムダン殿下の競馬組織シャドウェルで、ハムダン殿下の代理人を務めるアンガス・ゴールド氏は、将来の繁殖牝馬としての価値を含めた購買であると説明している。
日本からは、10月4日にパリロンシャンで行われたG1凱旋門賞(芝2400m)に参戦したディアドラ(牝6)の最終調整を陣頭指揮するために、英国ニューマーケットに滞在していた橋田満調教師が参戦。2頭が橋田師の名前で落札されている。
1頭は、上場番号388番の父ノーネイネヴァーの牡馬。G1ミドルパークS(芝6F)、G1ジュライC(芝6F)と2つのG1を制したテンソヴリンズの全弟という良血馬で、20万ポンド(約2808万円)で購買している。例年のマーケットであれば、その2倍も3倍もしたはずの血統馬で、まさにお買い得の1頭だったと言えそうだ。
もう1頭は、上場番号395番の父カラヴァッジョの牡馬。北米のG1ピムリコスペシャル(d9.5F)勝ち馬エディントンの甥にあたる馬が、こちらも5万ポンド(約702万円)という、驚きのバーゲン価格で落札されている。
橋田満厩舎は、昨年秋のタタソールズ10月1歳セールにて12万ギニー(当時のレートで約1772万円)で購買した英国産馬ヒトヨギリ(牝2、父シャラー)が、9月19日に中京競馬場の新馬戦(芝1200m)を2馬身差で快勝したばかりである。
今年購買した2頭の欧州産馬にも、おおきな期待がかかりそうだ。
ヨーロッパにおける1歳馬セールのマーケットは、今週に入っていよいよ、ハイライトというべきタタソールズ・オクトーバーセールの開催を迎えている(10月6日〜17日、ニューマーケット)。この市場についても、どこかで機会を見つけてレポートしたいと思っている。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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