ともに好況だったと言える二つの繁殖馬セール

2020年10月29日(木) 18:00

競馬業界のバブル状態は果たして今後も続くのか

 1歳市場が終わると、生産地では繁殖馬セールが開催される。今年もオータムセールの翌週、10月27日(火)にノーザンファームの繁殖牝馬セール(苫小牧市、ノーザンホースパーク)、その翌日28日には、(株)ジェイエス主催の繁殖馬セール(新ひだか町静内、北海道市場)が、相次いで行われた。両日とも好天で、それぞれの会場には、各地から多くの生産者や馬主などが訪れ、1歳馬市場同様に活発な取引が展開された。

 まず27日のノーザンファーム。セレクトセールと同じ会場で、64頭(受胎馬45頭、未供用19頭)が上場され、正午からセリが開始された。結果は既報の通り、受胎馬の45頭中43頭が落札、未供用馬に至っては全馬残らず落札されるという人気ぶりで、売却率は96.9%。売上総額は6億9400万円(税抜き)。平均価格は受胎馬が1180万2326円、未供用馬が981万5789円、全体では1119万3548円という結果であった。

 最高価格馬は、受胎馬では3番アストライア(4歳栗毛、父キングカメハメハ、母ハープスター、母の父ディープインパクト、ハービンジャーを受胎、出産予定日3月9日)の5600万円(税抜き)。落札者は鬼塚義臣氏。本馬は4戦のみの競走成績ながら、ハープスター(桜花賞、札幌記念など5勝)を母に持ち、曾祖母ベガに遡る母系だ。まるでセレクトセールの再現のような勢いで価格はどんどん競り上がり、一気に5000万円を突破して5600万円まで上り詰めた。

生産地便り

受胎馬の最高価格馬3番アストライア

 だが、さらに驚かされたのは、受胎馬の後に登場した未供用馬たち。当市場を通じての最高価格馬は、未供用馬から出た。47番ダーヌビウスは、3歳鹿毛で、競走成績は2戦のみながら、父キングカメハメハ、母ドナウブルーという血統の良さが評価され、7200万円という驚異的な価格まで高騰した。ドナウブルーは関屋記念や京都牝馬ステークスなど5勝を挙げた牝馬だが、全妹にはジェンティルドンナ、また同系には昨年のダービー馬ロジャーバローズの名前もある。滅多に手に入らないノーザンファームのお宝級牝馬とあって、この馬にも注目が集まった。因みにこの馬も鬼塚義臣氏が落札者であった。

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未供用馬ながら最高価格馬となった47番ダーヌビウス

 終わってみれば、昨年の実績(60頭中57頭落札、4億8170万円、平均845万0877円)を大きく上回る結果となり、生産界をリードするノーザンファームの血を求める人々がいかに多いかを見せつけられた形であった。

 さて、その翌日のジェイエス繁殖馬セールは、静内で開催され、こちらは、215頭(受胎馬176頭、空胎馬39頭)が上場、うち140頭(受胎馬115頭、空胎馬25頭)が落札された。総額は5億4095万円(税抜き)。売却率は65.12%。平均価格は受胎馬が448万5913円、空胎馬が100万2800円で、全体を通じて386万3929円という結果であった。

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ジェイエス繁殖馬セールの会場の様子

 最高価格馬は18番のマルルー(5歳鹿毛、父キングカメハメハ、母スティンガー、母の父サンデーサイレンス、ジャスタウェイを受胎、出産予定日2月9日)の3300万円。販売者は社台ファーム、落札者は(株)サンデーヒルズ。

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最高価格馬は18番のマルルー

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18番マルルーの落札の様子

 昨年との比較では、売却率が微増ながら、総額、平均価格はやや下がった。そのことに関して、主催者を代表して服部健太郎市場長は「売却率、総額については、どんな馬が出てくるかによって変わり、それにかなり左右されるので、過去の数字との比較は難しい部分があります。ただ今年に関しては、各関係団体にご協力いただいて無事に開催できたことをまず感謝したいと思います。今年はどの市場でも昨年とは全く違う形態で新型コロナ対策に最大限注意を払いながらの開催になりましたし、無事に行えたことにホッとしております。購買者の方々にも、事前登録などで多大のご協力をいただきました。今年は当セール出身馬から誕生したデアリングタクトが牝馬3冠になりましたし、どの牧場にもチャンスがあるということだろうと思います。多数のご購買、誠にありがとうございました」と、セール終了後に報道陣に対しコメントした。

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「無事に行えたことにホッとしております」とコメントした服部健太郎市場長

 いつまでこの景気が続くのかが生産者のみならず、競馬関係者にとっても大きな関心事だが、少なくとも、今年に関しては、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、業種、業界によって明暗を分ける結果になったのは確かなようだ。服部健太郎氏は「競馬は、最もその影響が少なくて済んだ業界だと思います。たぶんこの景気は来年も続くのではないでしょうか」と分析する。好調に推移した1歳馬市場に支えられる形で、繁殖牝馬の需要も依然として高いのは、中央、地方ともに競馬が休まずに開催されていることと、ステイホームによって、従来、海外旅行やその他のレジャーなどに投じられてきた資金の一部が、馬券購入に向けられているため、とも言われる。各クラブ法人の募集馬の売れ行きも順調というし、日高ではすでに、育成牧場が1歳馬で溢れてきており、新たに受け入れられずに断っているという話もよく耳にする。多くの生産牧場においても、馬主から新たに繁殖牝馬を預かる余裕がなくなってきているという。このバブル状態は、果たしていつまで続くものか。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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