ディープ?キンカメ!? 地方騎手があの名馬の勝負服のワケ

2020年11月24日(火) 18:00

馬ニアックな世界

▲この柄は中央競馬のファンにもお馴染み“あの”勝負服!?

地方競馬を見ていて、「あれ?ディープインパクトと同じ勝負服!?」と感じたことのある方、いらっしゃるのではないでしょうか。JRAでは馬主ごとに勝負服が決められていますが、地方競馬の場合は基本的に騎手ごとに決められています。他にも名馬と同じ勝負服を身に纏うジョッキーがいるのですが、今回は大井の楢崎功祐騎手の勝負服にまつわる「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

どんどんGIを勝って恥ずかしくなりました(苦笑)

 楢崎功祐騎手は1982年、広島県府中市で生まれました。小中学生の頃はちょうどダビスタなど競馬ゲームがブーム。楢崎騎手も一般家庭に育ちましたが、「親戚のお兄ちゃんが競馬ゲームをやっているのを見て、面白いなって」と、興味を持ち始めます。

「中学生の頃からテレビで競馬中継を見たり、漫画『風のシルフィード』、『みどりのマキバオー』を読んでいました」

 そして、親戚のおじさんが福山競馬の調教師と知り合いだという縁から、その厩舎に見習いで入り、地方競馬教養センターを経て1999年10月、地方競馬の福山競馬でデビューを迎えることになりました。

 勝負服は黄色と黒色と青色――そう、ディープインパクトやキングカメハメハなど、幾多の名馬の勝負服としてお馴染みの“あのデザイン”でした。

馬ニアックな世界

▲ディープやキンカメでお馴染みの金子真人オーナーの勝負服を使用している楢崎功祐騎手

 基本的に地方競馬の騎手はデビュー前、地方競馬教養センター時代に自身の勝負服のデザインを決めます。名古屋の木之前葵騎手が可愛らしいハートマーク入りの勝負服でデビューした時には話題になりましたね。

 楢崎騎手の場合は、デビューまで約半年となった頃が契機でした。

「教養センターで競馬中継を見ていて、アネモネSとかを走っている頃だったかな、トゥザヴィクトリーの姿を見て『カッコイイじゃん!』って思ったんです」

 のちにドバイワールドC2着となる牝馬がまだ3歳の頃。テレビ越しに惚れた楢崎騎手は、自身の勝負服をトゥザヴィクトリーと同じものにしました。

ところが……。

「当時はまだクロフネとかが出現する前だったんですけど、あれよあれよという間にこの勝負服がGIを勝っていって恥ずかしくなりました(苦笑)」

 金子真人オーナー(現・金子真人ホールディングス)のGI初制覇は1999年12月、スプリンターズSのブラックホーク。2勝目が2年後にNHKマイルCをクロフネで勝ってのもので、さらに3年後にキングカメハメハが活躍したのでした。

「なんだか、今ではミーハーみたいに思われるじゃんって気持ちと、なんだか申し訳ない気持ちと…(苦笑)」と話す楢崎騎手。

 2012年から韓国での長期遠征時にはこの3色を使用した別デザインの勝負服で騎乗していました。

「黒に黄色バッテン、袖が青色だったかなぁ…?韓国での勝負服、気に入っていました」

 日本では偉大すぎる勝負服に恐縮しっぱなしですが、この配色はお気に入りのようです。

きっかけはステファニーチャンが、弟弟子たちも

 2013年に福山競馬は廃止となり、大井競馬に移籍。現在は来年1月2日までの予定で高知競馬で期間限定騎乗を行っています。

 1周約1000mの福山競馬場はコーナーもキツく、「特に先行争いが激しかった」と言います。

 そこで2年連続リーディングジョッキーに輝いた楢崎騎手は、高知でも気づけば前目のいいポジションにいることが多い気がします。もちろん、それだけでなく「自分の中では思うように勝てていなくて、いろいろ考えながらやっています」と、福山とも大井とも特徴の違う競馬場にフィットしようとしています。

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▲高知競馬場でも活躍を見せている

 その原動力の一つになっているのが、同期である宮川実騎手の存在でしょう。

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▲楢崎騎手と同期の宮川実騎手

「教養センター時代からアイツは上手くて、負けたくないって気持ちでやっています」

 休日には宮川騎手の趣味のサーフィンについて行き、チャレンジもしたそう。

「立ったつもりが立てていなくて、正座して波に乗っていました(笑)」

 そんな笑い話をしていると、横にいた宮川騎手に向けて楢崎騎手がひと言。

「(宮川)ミノルは勝負服、ステファニーチャンからとったんだよね?」

 1999年3月、報知杯4歳牝馬特別(GII)でフサイチエアデールの2着だったステファニーチャンの黒地に白星散らしという勝負服を「雑誌『優駿』で見て、この勝負服いいなぁと思って」決めたそう。

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▲宮川実騎手の勝負服はステファニーチャンが由来なのだとか

 今では宮川騎手が所属する打越勇児厩舎のジョッキーはみなこのデザイン。弟弟子の中で末っ子にあたる井上瑛太騎手は今年10月にデビューする時、「星散らしは所属する打越厩舎のデザインなので」と話していました。

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▲宮川実騎手の弟弟子、井上瑛太騎手(左)、妹尾浩一朗騎手(右)も同じデザイン

 始まりはステファニーチャンだったのが、形を変え、高知競馬で若い世代たちにデザインが受け継がれていくというのは不思議な物語でもあるなぁと感じます。

 何気なく地方競馬のレースを見ていると、「あれ?パクり!?(笑)」と単純思考になっていましたが、ジョッキーたちがJRAのレースを目を輝かせながら見て、そして決めた勝負服なのだと思うと、ちょっと見え方も変わってきます。

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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