コロナでバブルを超えるか?

2020年12月22日(火) 18:00

130%売上増の驚くべき伸び

 新型コロナウイルスに翻弄された1年(正確には約10カ月)だったが、日本の競馬はありがたいことにほとんど休むことなく開催が続けられている。騎手にコロナ陽性者が出て直接影響があったのは、8月から9月にかけての川崎・船橋開催だけ。それでも川崎競馬は濃厚接触者にあたらない騎手だけですぐに開催を再開し、休止になった船橋の開催日に代替開催(番組上は代替ではなく新規の開催だが)を実施することで予定されていた日数の開催はこなしたのは見事といえる対応だった。それゆえ実質、コロナの影響で中止となったのは船橋の5日間開催だけだった。

 無観客開催がしばらく続き、今でも多くの競馬場で入場者数が制限されていることは残念だが、それにしても馬券の売上が下がらなかったことには驚かされる。

 もしこれが20年かそれ以上前だったらと考えると、ちょっと恐ろしい。仮に20年前なら、中央でも地方でも、電話・ネット投票は普及していたが、当然のことながら今ほど馬券の売上全体に占める割合は多くはない。その状況で無観客となり、場外発売所なども閉鎖となっていたら、果たして開催が続けられていたかどうか。特に地方競馬は中央より電話・ネット投票の導入・普及が遅かっただけに、無観客では競馬は成り立たなかったと思われる。

 そう考えると、国民のほとんどがスマホを使いこなすような時代であってほんとうによかった。

 特に地方競馬では、コロナによる無観客開催で、むしろ売上がアップしたとまで言われた。実際に、無観客開催となった3月以降、ひと月ごとの地方競馬全体での総売得額(左)と1日平均(右)の前年同月比を見ると、以下のとおり。

 3月 104.0%  93.8%
 4月 124.7% 119.7%
 5月 127.6% 127.6%
 6月 132.6% 133.8%
 7月 146.6% 154.7%
 8月 124.7% 130.2%
 9月 143.3% 143.3%
10月 124.6% 125.6%
11月 132.0% 123.6%

 地方競馬は2012年度以降、売上の右肩上りが続いているので、この増加分のうちどれほどがコロナの影響であるのか、もしくはそうでないのかはわからない。ただ、7月の前年比ほぼ1.5倍というのはスゴイ。夜の付き合いなどがほとんどなくなったことで、ナイター開催が多い地方競馬の売上が好調だったとも言われたが、デイ開催の競馬場でも大幅に伸びているところがあるので、必ずしもそれだけが理由ではないようだ。

 ただ、中央競馬がネットでの無料ライブ配信がないのに対し、地方競馬はスマホやタブレットやパソコンがあれば、誰でも無料でライブ映像を見ることができる効果は大きかったと思う。今は専門紙やスポーツ新聞を買わなくても、ネットで出馬表はもちろんのこと、予想なども含めてかなりの情報が得られる。指定の銀行口座があればすぐに投票会員になることができ、予想→投票→レース観戦という、競馬を楽しむ一連の行動が手軽に可能になった。

 さらにこれは競馬に限ったことではないが、スマホやタブレットやパソコンと、ネット環境が十分に整っていたことで、リモートによる映像番組の制作が急速に進んだことも大きい。これはおそらくコロナ収束後にも続いて、いずれ“スタジオ”という概念も変わっていくのではないか。

 地方競馬全体の売上はバブル期終盤の1991年度に9862億円余りというピークを記録。そこから急坂を転がり落ちるように売上が下がって2011年度には3314億円余りと、ピークの1/3近くまでになった。しかしそこからV字回復を遂げて2019年度は7009億円余り。そして今年度、集計が出ている4〜11月の売上は、前年同期比で総売得額が131.9%、1日平均が132.2%。このまま130%という伸びで推移すると、今年度の地方競馬全体の売上は9100億円余りになる。さらに来年度は、バブル期のピークを超えてしまうのかどうか。

 コロナ禍の現状は、あくまでも素人考えだが、感染の第4波、第5波とまだあって、少なくとも2021年中に収束・終息ということは考えにくい。それでもバブルという波によって記録したかつての売上のピークを、コロナ禍という状況で超えてしまうとなれば、それはちょっと怖いというほどの驚きだ。

 さて、本コラムは2週お休みをいただいて、次回は1月12日を予定しています。では、よい年末・年始をお過ごしください。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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