繁殖引退のエイシンルーデンスにこれからも穏やかな余生を…

2020年12月22日(火) 18:00

第二のストーリー

今回の主人公エイシンルーデンス(提供:認定NPO法人引退馬協会)

重賞戦線を賑わせたエイシンルーデンス

 1999年のチューリップ賞と2001年の中山牝馬Sの重賞2勝のエイシンルーデンス(牝24)が、今年の出産、子育てを最後に繁殖を引退。来年春から鹿児島のホーストラストで余生を過ごすことになった。

 (エイシン)ルーデンスは1996年4月17日に、北海道浦河町の栄進牧場で生まれた。父サンデーサイレンス、母エイシングレシャス、その父がトウショウボーイで、全姉に1994年の札幌3歳S2着のキタサンサイレンスがいる血統だ。

 栗東の野元昭厩舎の管理馬として、1998年9月に阪神競馬場の芝1400mの新馬戦でデビューし、5番人気で4着。同じく阪神芝1400mの新馬戦では7番手から進んだ初戦とは打って変わって逃げに転じ、1番人気に応えて初勝利を挙げ、続くりんどう賞(500万下)でも逃げ切って2連勝を飾った。3歳(馬齢旧表記)牝馬No1を決める阪神3歳牝馬S(GI)にも駒を進め、ここでも果敢にハナを切ったがスティンガーの7着と敗れると、当時は3歳12月に行われていたフェアリーSにも出走し2着。年が明けた1月の紅梅Sで勝って臨んだ桜花賞トライアルのチューリップ賞では1番人気のゴッドインチーフ(2着)、のちの桜花賞馬プリモディーネ(4着)らを抑えて見事に逃げ切ってみせた。

 クラシック戦線に乗ったルーデンスは、桜花賞(9着)とオークス(8着)に出走。夏を越して秋華賞で11着と牝馬三冠すべてに出走して、持ち前のスピードでどのレースでも先手を取った。ちなみに同世代にはプリモディーネ(桜花賞)、ウメノファイバー(オークス)、スティンガー(阪神3歳牝馬S)、トゥザヴィクトリー(エリザベス女王杯)ら名牝が揃っている。

 古馬になってからも重賞路線を歩み続けたルーデンスだが、2着は2度あったものの、なかなか勝ち星には手が届かなかった。だが2001年3月の中山牝馬Sで、久々に先頭でゴールインを果たし、通算5勝、重賞2勝目を達成している。翌2002年1月の京都牝馬S11着を最後に競走馬登録を抹消し、生まれ故郷の栄進牧場で繁殖生活に入り、現在は新ひだか町の川端英幸さんの牧場で繋養されている。

 ルーデンスはこれまで12頭(競走馬登録10頭)の母となり、その中には2011年の北九州記念2着のエーシンリジル、1600万クラスまで行ったエーシンエムディー(3勝)という活躍馬がいる。今年は父エーシントップの鹿毛の牡馬が無事誕生した。  

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今年生まれた父エーシントップの当歳馬とルーデンス(提供:認定NPO法人引退馬協会)

 川端さんによると、ルーデンスはきつい面を見せることがあるという。

「触ろうとするとこちらをグッと睨みつけて、ハッとすることがあります。だからと言って触らせないわけではないのですけどね」

 だが馬同士となると話は別のようだ。

「ルーデンスを含めて3頭で放牧されているのですが、最年長のルーデンスが1番弱いんですよね」

 ただ弱いと言っても仲が悪いわけではなく、3頭はいつも一緒に行動をしている。またとても子供を可愛がる馬で、離乳の時にはかなり鳴いて寂しがっていたと川端さんは言う。だが1週間から10日ほどでそれも落ち着いたとのことだ。

 実は川端さんの牧場には、ルーデンスの母のエイシングレシャスも繁殖牝馬としていた時期がある。

「放牧地に行く時にもう走っちゃうんですよ」

 一歩間違うと人間が怪我をしそうなほどで、かなり激しい面を持った馬だったと川端さんは振り返った。ルーデンスも触ろうとすると睨みつけるような気の強さはあるが、母はさらに上を行っていたようだ。

来年春には終の棲家に…

 現在24歳、来年には25歳になるルーデンスは、認定NPO法人引退馬協会のフォスターホースとして余生が約束される形となったわけだが、繁殖の役目(種牡馬を含む)を終えた馬たちすべてに余生が保証されていないという厳しい現実がある。生産牧場も、生産馬を売却して牧場が成り立っているわけだから、引退した繁殖をそのまま飼養するというのは、経営上無理が生じてくる。牧場によってはすべての繁殖牝馬ではないが、貢献してくれた功労馬を最後まで面倒をみているところもあるが、やはり稼ぎのない馬を養うというのは負担が大きいと言わざるを得ない。経済面だけではない。最近は馬業界すべてにおいて人手不足で、馬産地も外国人労働者がいないと回らないという話をよく聞く。功労馬として養いたくても、経済面だけではなく人手をそこまでまわせないという事情もあるようだ。

 引退した養老馬は放牧しておけば放牧地の草を食べるのだし、人の手もお金もかからないと思われがちだが、乾草を含めた飼い葉、馬房の敷料、牧場の維持管理にかなりの経費がかかる。これは自身が引退馬預託の牧場に関わるようになって、身を以って知ったことだ。個体差があるにせよ、高齢になれば歯が悪くなる、足腰が弱くなる、疝痛が起こりやすくなったり、元々弱かった箇所が悪化したりと場合によっては手間も医療費も嵩んでもくる。

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人の手もお金もかからないと思われがちな養老馬だが…(提供:認定NPO法人引退馬協会)

 このような現状では、繁殖馬(種牡馬も含む)として過ごしてきた馬たちすべてが天寿を全うするのは難しいと言わざるを得ない。それでも1頭でも繁殖を引退した馬たちの命を繋ぎたいという思いで、引退馬協会が寄付によって余生を支援したのが、外国産種牡馬のスキャンだった。

 またジャパン・スタッドブック・インターナショナルの引退名馬繋養展示事業の助成金を受ける権利がありながら関係者がその制度を知らなかったり、助成金だけでは経費が賄えないという理由で悲しい末路を辿るケースも少なくないことを受けて、毎年引退馬協会が行っている「ナイスネイチャ・バースデードネーション」と称したクラウドファンディングにおいて、今年は助成金の受給資格のある引退繁殖馬を余生に繋げるための支援金を募った。

 1頭分80万円という目標額を大きく超え、約2頭分に相当する176万円強の支援金が集まって、引退繁殖馬の受け入れ体制を整えていたところ、栄進牧場サイドからエイシンルーデンスの相談を受け、フォスターホースとしての受け入れが決定した。

 なおバースデードネーションで集まった1頭分の80万円をルーデンス受け入れの初期費用(離乳後の2021年1月から移動するまでの牧場への預託料、馬運代、長距離移動になるため高齢を考慮し途中で休憩する施設への一時預託料、ホーストラスト鹿児島への保証金、フォスターペアレント会員が集まるまでの毎月の預託料の補填)に充当する予定となっている。

 上記の初期費用からもわかるように、馬1頭飼養しようとすると相当な経費がかかる。来年1月からルーデンスに支給され、引退名馬繋養展示事業の助成金を繋養にかかる費用の一部に充てていくことにはなるが、当然それだけでは十分とはいえない。前述したように高齢ともなれば今後医療費がかかる可能性も十分考えられる。

 現在引退馬協会では、引退馬の一口馬主ともいえるフォスターペアレント(里親)として、ルーデンスを支えてくれる会員(会費・月額1000円/馬の維持管理費・月額2000円(0.5口)を募集中だ。毎月の支援が難しい場合は、寄付も随時受け付けている。

 12月に入って北海道は一気に気温が下がり、寒い日々が続いている。来年春には終の棲家になるであろう鹿児島のホーストラストに移動予定だが、一時期痩せていた体もフックラとして回復傾向にあり、ルーデンスは寒空の下で元気にのんびりと仲間たちと過ごしている。ターフを賑わせ、長年繁殖牝馬として頑張ってきたルーデンスに、これからも穏やかな余生をと願わずにはいられない。

※引退名馬繋養展示事業の助成金:10歳以上で、JRA重賞優勝馬月額2万円、地方競馬で実施されたダートグレード競走優勝馬月額1万円

(了)

※当コラムの次回の更新は1月12日(火)予定です。


▽ 認定NPO法人引退馬協会 エイシンルーデンスについて(フォスターペアレント会員募集、ご寄付についてのリンクあり) https://rha.or.jp/topics/20201021-01.html

▽ 認定NPO法人引退馬協会 HP

https://rha.or.jp/index.html

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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