由美子の観光馬車で重種馬にも第二の馬生を! あしずりダディー牧場、新天地へ(1)

2021年01月12日(火) 18:00

第二のストーリー

由美子と久しぶりに再会したあしずりダディー牧場代表の宮崎栄美さん(提供:あしずりダディー牧場)

語られることが少ない、大型の馬たちの引退後

 以前もご紹介した高知県土佐清水市の養老牧場のあしずりダディー牧場は、現在の場所から同じ土佐清水市の足摺宇和海国立公園内にある唐人駄場への移転が決まっている。新厩舎は5月に完成予定だ。

 昨年5月にはGIII・ファルコンSの勝ち馬で種牡馬を引退したダノンゴーゴー、昨年12月にはNHKマイルC優勝のGI馬のクラリティスカイも仲間入りし、新天地への引っ越しに向けて顔ぶれも豪華になってきた。そして移転先の唐人駄場ではブルトン種の由美子が花で飾り付けをした観光馬車を曳く予定になっている。現在由美子は、北海道幕別町のノースポールステイブルで馬車を曳くための調教を受けている。

 由美子とあしずりダディー牧場代表の宮崎栄美さんが出会ったのがおよそ6年前。高知県大月町で肥育されていた馬だった。宮崎さんはその場にたびたび足を運び、由美子の成長を見守り、彼女に愛情を抱くようになっていた。やがてその命を繋ぎたいというのが、宮崎さんの強い願いとなった。

「初めは私1人の個人的な思いだったのです」

 と宮崎さんは言う。その思いに共感する人が集まり、やがて由美子の命を救うプロジェクトを立ち上げることとなった。だが由美子を買い取り、命を繋げられたとしても、そこから長く続くであろう由美子の馬生を支えていく手立てを考える必要があった。ブルトン種はフランス西部のブルターニュ半島が原産の大型の馬で、ペルシュロン種、ベルジャン種と並び、ばん馬のルーツになった主な純血種の1つに数えられる。サラブレッド等の軽種の競走馬たちが引退したのちのセカンドキャリア、サードキャリアについては、昨今クローズアップされる傾向にあるが、ばんえい競馬の馬たちの多くは引退後は食肉となる運命を辿っており、大型の馬たちの引退後についてはあまり語られていない。

 一昔前は農耕馬として、あるいは林業で伐採した木を運ぶ馬としての仕事もあったが、現在国内では使役馬としての需要は少なく、大きいがゆえに飼養にはサラブレッド以上にスペースも必要だ。となると、どうしてもセカンドキャリア以降の馬生に繋がっていくのは難しい。由美子はばんえい競馬に出走していたわけではないが、あしずりダディー牧場のような養老主体の牧場でも大型馬を飼養して、観光で訪れた人々を馬車に乗せたり、馬との触れ合い体験ができるようになれば、由美子のような重種と呼ばれる種類の馬たちの活躍の場が増える可能性も出てくる。

第二のストーリー

馬橇を曳く由美子(提供:ノースポールステイブル)

「由美子にはその先駆けとなる大切な役割を担った存在になると思うのです」と、宮崎さんは由美子が高知に戻ってきてからの活躍に期待を寄せる。そしてもし由美子が観光馬車を曳くというプロジェクトが実現すれば、大型馬の観光馬車は四国では初となり、観光資源としても貴重な存在にもなりうるだろう。

由美子に第二の馬生を! 2度目のクラウドファンディング

 あしずりダディー牧場では2019年12月24日〜2020年1月26日の間、由美子の購入資金や馬車購入費用などを募るクラウドファンディングを実施しており、賛同する支援者から総額3,824,500円が寄せられた。目標金額の5,770,000円には達しなかったものの、All-in方式で実施されたため、集まった資金は由美子の購入資金等に充てられた。そして由美子は前述したノースポールステイブルでトレーニングに励んでいる。

 当初ノースポールステイブルで2か月間調教したのち、あしずりダディー牧場に由美子を戻す計画だった。だが申請していた助成金が降りることが決まり、あしずりダディー牧場の移転が現実のものとなった。さらに新型コロナウイルス感染症の影響もあって、当初の計画のいくつかが変更となった。まず由美子が暮らすための馬房を含む移転先の新厩舎が完成するまで、由美子のノースポールステイブルへの預託が延長された。

「預託調教の延長費は、現在の場所に作る予定だった由美子の馬房建築費用を充てました」

 この延長はマイナスではなく、吉と出た。人を背中に乗せたり、馬車を曳く調教をじっくり時間をかけて行うことができ、複数の馬とコミュニケーションを図ることを経験して、由美子自身が心身ともに大きく成長したからだ。だが1回目のクラウドファンディングでは、馬車の購入費までは残念ながら集まらなかった。曳く馬車がないと由美子の第二の馬生は始まらない。

第二のストーリー

ノースポールステイブルにて由美子の馬車に乗る宮崎さん(提供:ノースポールステイブル)

 そのため現在「人と馬との共生を目指して 希少馬 由美子の観光馬車を走らせたい!!」」と題して、あしずりダディー牧場では第2回目のクラウドファンディングを実施中だ。

 2020年12月18日〜2021年1月18日の23時までの間で実施されているこのクラウドファンディングでは、前述したように前回目標額に達しなかったために購入できなかった馬車やその馬車の格納庫代、延長された北海道での調教費用、由美子を北海道から高知へと輸送する経費など、総額3,900,000円を募っている。前回のクラウドファンディングは、All-in方式で実施されたので、目標額に達しなくても集まった資金を受け取ることができた。だが今回はAll-or-Nothing方式のため、目標金額に達しないと支援者に返金し、手元には1円も入ってこないという結果に終わる。

 現段階で残り6日と1週間を切り、達成率は57%と厳しい状況になっている。

 ノースポールステイブルでは順調に調教が進んでおり、既に由美子は人を乗せて馬車を曳いている。準備は着々と進んでいるのだ。あとは新天地へと移転したあしずりダディー牧場に戻ってくるのを待つのみの段階に近づいている。

 昨年10月に宮崎さんは由美子に会うため、初めて北海道に足を踏み入れた。

「肥育されていた場所では同じブルトン種と顔は合わせてはいましたが、馬同士の放牧というのはノースポールステイブルで初めて経験しました。上下関係があることも知ったでしょう」

第二のストーリー

他の馬たちと一緒に行動する由美子 ※写真中央(提供:ノースポールステイブル)

 人と信頼関係を築き、人の指示に従って馬車を曳くことを覚えた。宮崎さんは、由美子が力強く曳く馬車にも、背中にも乗った。大きく成長した由美子の姿に、唐人駄場で彼女が花馬車を曳いている姿が、よりリアルにイメージできたことだろう。

 クラウドファンディング終了日までのカウントダウンが始まり、金額の設定が間違っていたのかもしれない、All-or-Nothing方式にしなければ良かった…など、現在の進捗状況を目の当たりにするにつけ、宮崎さんは追い詰められ切羽詰まった精神状態になったり、リアルにイメージできるのだから成功しないわけはないという自信が湧いてきたりと、複雑な心境の中、日々を過ごしている。昨年電話で取材をした時にも宮崎さんの行動力に驚かされたが、今回も由美子への個人的な思いから始まったこのプロジェクトをここまで推進してきた。由美子も宮崎さんや支援する人々の気持ちにしっかりと応えて、北の大地でトレーニングを続けている。だからこそ、由美子が馬車を曳く馬として唐人駄場で華やかにデビューできる日が来ることを祈らずにはいられない。

(つづく)


▽人と馬との共生を目指して 希少馬 由美子の観光馬車を走らせたい!! クラウドファンディングページ

https://readyfor.jp/projects/yumiko

▽ NPO法人 あしずりダディー牧場 命の会 HP

http://www.horsetrust-ashizuri.com/

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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