「天才肌」と噂の騎手や園田初の女性騎手がデビュー

2021年04月20日(火) 18:00

先週13日、園田競馬場で3名の新人騎手がデビューしました。園田・姫路で初の女性騎手となる佐々木世麗(ささき・せれい)騎手と、男性の大山龍太郎(おおやま・りゅうたろう)騎手、長尾翼玖(ながお・たすく)騎手。いずれも所属するのはトップ厩舎で、自厩舎からのバックアップに応え、3人ともがデビュー週に初勝利を挙げました。

騎手激戦区ともいわれる園田・姫路でこれだけ早く初勝利を挙げるのはすごいこと。しかし、実際はデビュー初日は緊張から唇が青くなったり、悔しさに天を仰いだり、悲喜こもごもな1週間でした。10代の3人はジョッキーとしてどんなデビュー週を過ごしたのか、「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

「気持ちが楽になった」デビュー週に3勝の佐々木騎手

 ついに園田・姫路競馬に初となる女性騎手が誕生しました。

 佐々木世麗騎手、18歳。落語を習っていた中学生の時には、地元・広島のテレビ局から密着取材を受けたこともありましたが、彼女が選んだのはジョッキーの道。ダートグレードレース3勝を誇り、園田・姫路リーディングの新子雅司厩舎所属としてデビューを迎えました。

「今朝の調教から緊張してたんちゃうか?唇が青かったで」

 デビューの朝、そう声をかけた新子調教師。佐々木騎手は「寒かったからです」と答えつつも、いつもより若干表情が硬く見えます。

 デビューは13日の園田3R。

 園田・姫路初の女性騎手ということは、受け入れる側もいろいろと「初めて」があり、そのうちの一つが「4kg減で乗ってもらうこと」でした。

 早速それを感じられたのがデビュー戦。道中最後方から4着まで着順を上げてきたレース内容を見て、「やっぱり4kg減は大きいね」という声が調教師からも聞こえました。

 同日の8Rでは自厩舎のモズトリプルエーに騎乗。実績上位馬への騎乗とあってか、本馬場入場で引いていた小田尚子厩務員(2018年黒船賞を勝ったエイシンヴァラーを当時担当)は「彼女は緊張したら笑っちゃうらしくて、緊張しとったね(笑)。でも、『掛かったらどうしよう』って心配していた返し馬も慎重に行けていて大丈夫そうですね。あとは見守るだけです」と送り出しました。

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▲緊張から笑顔の佐々木騎手と送り出した小田尚子厩務員(右)

 1番人気に支持されましたが、結果はまさかの最下位。鼻出血を発症していたことがレース後に判明し、いたし方ないとはいえ、すごく落ち込んだ様子でした。

 こうしてデビュー初日は本当の笑顔を見せることのなかった佐々木騎手ですが、翌日のメインレースを単勝1.5倍のワシヅカミで逃げ切って初勝利を挙げました。

「これまであんまり出遅れたことがなかったのが、初日はすべて出遅れてしまって心が折れました。でも、ワシヅカミでやっとスタートが成功して勝てて、気持ちがすごく楽になりました」

 初日から決して出遅れているようには見えず、師匠の新子調教師も「スタートは巧い」と話していたのですが、本人の中では納得がいっていなかったようです。

 いい意味で肩の力が一気に抜けた佐々木騎手は、続く最終レースもタガノオボロで勝ち、翌日も4Rをゴールデンバレットで逃げ切り勝ちを収め、デビュー週3勝をマークしました。

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▲ゴールデンバレットで3勝目(撮影:稲葉訓也)

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▲デビュー週3勝を挙げ、「3」のポーズをとる佐々木騎手

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▲口取りでも「3」ポーズ(撮影:稲葉訓也)

 表情も柔らかくなり、これからどんどん活躍してくれることを願います。

天才肌っぽい大山騎手、縁のある馬が誘導してくれた長尾騎手

 自他ともに「おっとりした性格」と認める大山龍太郎騎手。マイペースな雰囲気の漂う彼は、一方で「天才肌じゃないか」とも囁かれています。

 たしかに、新人騎手たちが緊張する中、大山騎手はデビュー戦の本馬場入場で報道陣にカメラ目線を送っていて、彼特有の感覚を持っているのかも、と思わせました。

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▲カメラ目線の大山騎手

 デビュー戦は9着でしたが、初日は2着が2回。同期3人の中で最も勝利に近づきましたが、悔しそうな表情で天を仰ぎながら帰ってくるシーンもありました。

 初勝利はデビュー3日目となった15日の園田9R。自厩舎のナリタウルフに騎乗し、直線では先に抜け出した田中学騎手との競り合いを制しての勝利でした。

 師匠の坂本和也調教師は「ジーンとするね」と感動の表情。騎手時代に兵庫ダービーを制した坂本調教師は、初日からレースが終わるたびに弟子に熱い指導を行っていました。

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▲田中騎手との競り合いを制して勝利

「馬の後ろに入れなさい、と言ったことを実行したので、なんとかなるかなとは思って見ていましたが、うまく乗りましたね。重賞を勝つよりも嬉しいです」

 そう褒める坂本調教師を見た大山騎手は「こんな顔、初めて見ました」と嬉しそう。

 さらに翌日には「彼のデビューのために用意しました」(坂本調教師)というパリスデージーで2勝目を挙げました。

「天才肌」という噂が現実となるのか、これからの騎乗に注目です。

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▲初勝利の口取り撮影。「初勝利」の看板を持つ師匠・坂本調教師と、その右は兄弟子の竹村達也騎手

 長尾翼玖騎手はデビュー戦で縁のある馬と共演を果たしました。

 それは、誘導馬のストラディヴァリオ。

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▲誘導馬のストラディヴァリオ

 昨年、京都競馬場から園田へ移籍してきた誘導馬なのですが、長尾騎手は京都競馬場の乗馬センターに通っていた時、ストラディヴァリオに乗ったことがあったのです。

「洗い場では寝てしまいそうな馬でした」という思い出のある馬。そのことは誘導馬チームも知っていますから、長尾騎手のデビュー戦をストラディヴァリオが誘導したのは、もしかして粋な計らいだったのでは?と考えると、胸が温かくなります。

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▲乗馬を習っていた時に乗ったことのあるストラディヴァリオの誘導でデビュー戦を迎えた長尾翼玖騎手

 そのデビュー戦を前に、師匠の橋本忠明調教師は「昨日は僕の方が緊張して、眠れませんでした」とソワソワ。

 レース直前もモニター越しにゲート入りを見つめながら「ゴーグルちゃんと着けてるかな?」と、とにかく落ち着かない様子でした。

 そうして迎えた初戦は8着でしたが、「止まりそうで止まらなかったですし、デビュー戦としては上等でしょう」(橋本調教師)と、まずは無事に終えることができました。

 初勝利が訪れたのはこの週最後の開催日となった16日の園田2R。自厩舎のメイショウキンカクで先行し、4コーナー手前で先頭に立って押し切り勝ちを決めました。

 前日までは「減量を生かしたレースができていなくて…。難しいです」と沈んだ表情だった長尾騎手。同期2人がすでに初勝利を挙げていて、焦りもかなりあったようですが、デビュー週に決められてホッとしたことでしょう。

 長尾騎手には双子の弟・翔琉(かける)くんがいます。

「僕の名前が翼玖で、二人で助け合ってはばたいてほしい、というのが由来だそうです。弟は公務員で、職種が違いすぎて助け合えないんですけどね(笑)」

 でも、きっと双子の弟も全力で応援してくれていたと思いますから、その声を力に変えてはばたいてほしいですね。

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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