2021年05月01日(土) 12:00
春の天皇賞の魅力、それは3200米の距離にあると言っていい。スタミナは当然もとめられるし、流れによってはスピードや瞬発力も駆使しなければならない。そして何よりも緩いペースでも我慢が利く精神力がそなわっていることが肝心だ。さらには、騎手の存在がはっきり見えてくる舞台でもある。レースの動きを“どう判断するか”、それに合わせてどう馬をコントロールするか。長距離戦だからこそ、仕掛けのタイミングひとつでレースの明暗が分かれる。淡々と流れる中、次の局面を予測しながらじっと追い続ける感覚がたまらない。人馬一体、この言葉が前面に出てくるのが春の天皇賞だ。競馬の様々な要素がそこには含まれている。
豊満な緑の衣をまとったケヤキの巨木、その幹は雄々しく圧倒されるが、風を受けて渦立つ葉の動きは繊細で、その向こうに青空が見えてスケールの大きさを感じる。その様は競馬にたとえるなら、正に伝統の一戦、春の天皇賞の格式の高さに通ずるものがある。
今年は27年ぶりに阪神で行なわれるので、もとめられるものが、これまでとは微妙に異なってくる。向こう正面からスタートする一周目が外回り、そして2周目が内回りになるぶん、前半はゆったり、後半は各馬のスパートは早くなる。こうなると勝負どころからの持久力がもとめられる。京都とはちがい、3コーナーから4コーナーにかけてずっと平坦なため、ロングスパート戦になり、後方から一気とはなりにくい。
27年前、前年菊花賞馬ビワハヤヒデが勝ったときには、前日の雨があがり、馬場状態が重からやや重に回復した中、最初の1000米が1分4秒1、2000米が2分8秒5、12秒後半から13秒台のラップが刻まれ、ビワハヤヒデはガッチリ2番手に岡部幸雄騎手は抑え込んでいた。後続はこの1番人気馬をじっと見守っていて、3コーナーでようやく動き出していた。少しずつ差を詰める中、岡部騎手の手綱は動かず馬なりで先頭に並びかけ、直線に入ってから追い出し、あっという間に抜け出していた。文句ない王者のレース振りで、これでデビューからの連続連対記録を13に伸ばし8勝目。世代トップの貫禄を示し、2着ナリタタイシン、3着ムッシュシェクルで1、2、3番人気がそのまま来ていた。
牡馬が67連勝中だが、日経賞を牝馬33年ぶりの勝利で飾ったウインマリリンに、今年は注目している。有馬記念で健闘した2頭の追撃をしのいだのは大きい。前で立ち回れるので阪神コース向きだ。3連覇を狙うルメール騎手のアリストテレスは、菊花賞2着のときのように好位でゆったり構えれば本領発揮できる。阪神大賞典5馬身差の圧勝のディープボンドも長距離が合っている。確たる中心馬不在の今年は、伸びしろ十分の4歳馬を。
「春の盾 牝馬の時代 どう映す」
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。
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