デビュー時ですでにキタサンブラック超え!615kgの超大型馬、連勝中

2021年05月18日(火) 18:00

前走からプラス55kgで、615kgの巨漢馬が勝った!――ばん馬ですか?と思うほどのプラス体重と馬体重を誇るグラシーナの勝利の報せが飛び込んできたのは先月14日、園田競馬場。一体どうしてこんな巨漢馬が生まれたのだろう?と不思議に思っていると、「このくらいの体がちょうど良くて、560kgでは少し細い気すらするんです」という盛本信春調教師の言葉に二度目の驚愕を受けました。これだけ大きな体でありながら、逃げ・先行で2連勝を果たしたグラシーナの競走生活は、オーナー夫人の一目惚れから始まったといいます。大きな体でたくさんの愛情を受けるグラシーナの「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

Lサイズの腹帯がギリギリ

 衝撃的なレースを迎えたのは4月14日の地方・園田競馬場。7か月ぶりのレースを迎えたグラシーナは、前走からプラス55kg、馬体重615kgでパドックに姿を現しました。

「大型馬」と聞いて思い出されるのはキタサンブラック。540kg前後の雄大な馬体を誇りながら、スタートからスーッとスピードに乗って逃げ・先行でGI7勝を挙げました。

 清水久詞調教師は「2000mの大阪杯でもスッと前に行けるくらいのスピードを見せていましたが、530〜540kgの馬であれだけ軽い走りはなかなかできないですよ」と目を輝かせながら述懐していました。

 体が大型化するほどパワフルな走りができる反面、瞬時にスピードに乗りづらくなる、と考えるのが一般的でしょう。

 だから、一気に55kgも体重が増え、ましてや600kg超えのダイナマイトボディの持ち主・グラシーナは後方からレースをするものだと考えていました。

 ところが、五分のスタートから出ムチを入れられると、スーッとスピードに乗って逃げの手に出たグラシーナ。向正面に入るとカメラが先頭から順に各馬を映していきますが、他の馬たちがすごく小さく思えるくらい、画面越しにもグラシーナの大きさは際立っていました。

 そして、グラシーナのスピードは衰えることなく、5馬身差で勝利。2005年11月30日、園田でジョーキャプテンが625kg(±0kg)で勝利した記録には10kg及ばなかったものの、インパクトの大きな1勝でした。

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▲615kg(プラス55kg)で圧勝したグラシーナ(提供:兵庫県競馬組合)

 これだけ大きいと、レースで使用する馬具も通常サイズでは足りなくなります。鞍を固定する腹帯もその一つ。川原正一騎手は“特別な腹帯”を使ったと言います。

「腹帯にはS、M、Lの3サイズがあって、昔に使っていたLサイズの腹帯を使わないからそろそろ捨てようかなと思っていたところだったんです。何度も使って、新品より少し伸びた状態で、ほら、Mサイズと比べてもこんなに長さが違うでしょう?これをグラシーナの時になんとか使えたんです」

 普段のレースで使用するというMサイズとは10cmほども長さが違いました。さらに、鐙も長くして乗ったと言います。ただ、意外だったのは「プラス55kgでしたけど、太め感は全然なかったですよ」という言葉。実は、この大幅な馬体増は意図的なものだったのです。管理する盛本信春調教師はこう振り返ります。

「うちに来た時は少し夏バテ気味で、昨年9月のJRAからの移籍初戦は560kgでしたが、もう少し体をふっくらさせてもいいな、と思いました」

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▲実は意図的な「プラス55kg」だったと話す盛本信春調教師

 そうして近郊の乗馬クラブ「ホースファーム貝塚」に休養に出され、フラットワークを中心にハミ受けを整えつつ、体を増やしていきました。だからこそ、盛本調教師は「いまくらいの体重でいいくらいです」と話します。

超大型馬、だけど厩務員さんには遊んでほしい

 厩務員時代も含め、さすがに「600kg超えの馬に携わったことはないですし、こんな馬にはもう出会えないんじゃないかな」と盛本調教師。日々の調教には師みずからが跨っているのですが「乗る時に足を上げてもらうんですけど、それでも一生懸命、鞍の上にのぼっています(笑)。馬上から横の馬を見ると、相手が500kgくらいでも小さく見えてしまって。錯覚が起きます」と初めての経験の連続だそう。

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▲左がグラシーナ。右の馬は460kgあるのですが、仔馬のように錯覚してしまいます(提供:盛本信春調教師)

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▲後ろから見てもお尻の大きさが全然違います!(提供:盛本信春調教師)

 調教でこれだけ違いを感じるのであれば、手入れや普段のお世話をする担当の平子芳樹厩務員もいろいろと感じているでしょう。

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▲グラシーナと担当の平子芳樹厩務員(提供:盛本信春調教師)

 グラシーナは背がすごく高くて、キ甲までの高さが「180cmくらいある」(盛本調教師)ため、最初の頃は手入れをする時は台の上に乗っていたようです。

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▲馬房でグラシーナの手入れ中。平子厩務員よりかなり背が高い…!(提供:盛本信春調教師)

「普段はおとなしくて、可愛いんですけど、厩務員に対して甘えて噛みつくこともあります。グラシーナは遊んでほしいんでしょうね。噛まれながらも、厩務員は一生懸命手入れをしています」と盛本調教師。

 JRAで迎えた新馬戦ではすでに556kgあり、キタサンブラックの引退レース(2017年有馬記念)の540kgよりすでに大きな状態での競走馬デビューでした。

 ゆったりとしたスタートで、勝ち馬から約10秒離されてのゴールでしたが、オーナーの奥様がセリで「目が大きくて、可愛い顔をしているのを見つけて、目が合ったんです」と一目惚れをし、ここまで大切にしてこられました。

「跳びや筋肉の使い方など、状態の差が毎日激しくて、その日の状態を見ながら調教を進めています。安定してしっかり体を使えるようになったら、上の方のクラスまで行けるんじゃないかなと思います」と盛本調教師。

 5月6日には出遅れながらも2番手からレースを運んで2連勝を決めました。しかも、レース後に確認すると「後ろ脚が両方とも落鉄していました」という状態。(もちろん、蹄鉄も大きいとか)

 大型馬特有の緩さはまだ残し、「普段はあまりやる気がない馬なんですけど、レースに行けばちゃんとやる気を出して走ってくれます」というグラシーナ。ひときわ目立つ大きな体で、これからも活躍を続けてほしいですね。

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▲5月6日には2連勝!これからも注目です(提供:兵庫県競馬組合)

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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