横浜市が根岸競馬場跡の「一等馬見所」の改修・保全を検討

2021年05月22日(土) 12:00

競馬史だけでなく近代史からみても貴重な『近代化産業遺産』

 日本初の本格的西洋式競馬場と言えば、そう、横浜(根岸)競馬場です。ご存知の方も多いと思いますが、その跡地には、かつてのメインスタンド「一等馬見所」が遺っています。

 昭和初期に竣工した建物で、戦時中は日本海軍が接収。戦後は長らくアメリカ軍に接収され、ほとんど“ほったらかし”になっていました。

 1982(昭和57)年に返還された後は横浜市の管理下に置かれ、2009(平成21)年には、この建物を含む「根岸森林公園」が経済産業省から「近代化産業遺産」の認定を受けました。

 しかし、これを修復するには多額の費用がかかることや、周辺に残るアメリカ軍施設の存在が妨げとなり、“野ざらし”のままにされています。

 その哀れな状態に、ようやく終止符が打たれるかもしれません。横浜市が、改修・保全を検討する、と報じられたのです。

 16日の毎日新聞電子版に載った記事によれば、隣接する米軍施設の返還が決定、昨年6月に国による原状回復に向けた調査が始まり、今年3月には跡地利用に関する市の基本計画も策定された、それにあわせ、「一等馬見所」をどうするか、これから検討が行われることになる、とのこと。まだ改修・保全が決まったわけではないものの、その方向へ一歩動き出したと考えていいでしょう。

 一刻も早くやらないといけないのが、耐震補強工事。「一等馬見所」は、1923(大正12)年の関東大震災でスタンドが損壊した後に新築されたものです。当時としては地震に強い建物だったはずですが、何しろ“築90年超”の物件で、80年近くも手つかずの状態にされてきました。老朽化は想像以上に進んでいると思われます。

 その工事にいくらかかるのか?横浜市だけでまかなえるくらいの金額なのか?これは今のところわかっていません。

 しかし、「一等馬見所」は、現存する日本最古の競馬場スタンドです。つい最近、戦前に建設された宮崎競馬場のスタンドが、老朽化と耐震性不足を理由に取り壊されてしまいました。そのことによって、根岸の「馬見所」の価値はさらに高まったとも言えます。

 加えて、先に書いたように「近代化産業遺産」にも認定されているので、競馬史だけでなく、日本の近代史から見ても、たいへん貴重な遺構でもあるわけです。

 その保全をすべて横浜市任せにしてしまうのは、いかがなものでしょう?この際、JRAにも最大限の協力をお願いしたいと思います。

 たとえば、今後数年間、「根岸ステークス」を“根岸競馬場跡保全支援競走”として、売り上げの一部を改修資金に充てるとか。とにかく“いい方向”に話が進みますように。

 さて、1週休んだGI予想を。オークスはソダシが強そうですが、“マラソンレース”は小さい馬が来ると信じて、パープルレディーの複勝を買ってみようかな、と思っています。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

関連情報

新着コラム

コラムを探す