出走馬が18頭に満たなかったダービー

2021年05月27日(木) 12:00

 緊急事態宣言下でのダービーが近づいてきた。昨年は、レース週の月曜日、つまりダービーの6日前に首都圏1都3県と北海道の緊急事態宣言が解除され、約ひと月半ぶりに全国で解除された。それでもダービーは戦時中の1944年以来となる無観客で行われた。

 既報のように、今年のダービーは、ダノンザキッドが骨折で回避するため、17頭で行われることになった。フルゲートが18頭となった1992年以降では初のフルゲート割れとなるのだが、1996年(フサイチコンコルド)、1997年(サニーブライアン)、2010年(エイシンフラッシュ)、2014年(ワンアンドオンリー)のダービーも、出走取消の馬が出たため17頭でのレースとなった。なお、本稿の読者にとっては言わずもがなだろうが、カッコ内はその年の勝ち馬である。

 昔はもっと少ない頭数で行われたこともあり、1934年は10頭(フレーモア)、1935年は11頭(ガヴアナー)、1936年 は13頭(トクマサ)、1937年は17頭(ヒサトモ)、1938年は14頭(スゲヌマ)、1941年は16頭(セントライト)、1942年は17頭(ミナミホマレ)。出走馬が18頭に満たなかったダービーは、こんなところだ。

 これらの勝ち馬から、何か傾向が浮かび上がってこないだろうか。出走馬が例年より1頭少ない(=1992年以降)というだけの共通項から浮かび上がってきたものがデータとして有用かどうかはさておき、見えてくるものはありそうだ。

 フレーモアとガヴアナー、フサイチコンコルドは、デビュー3戦目の最少キャリア記録でダービーを勝っている。ほかにも1932年の初代ダービー馬ワカタカ、第2回の勝ち馬カブトヤマ、1939年のクモハタ、1943年に史上2頭目の牝馬のダービー馬となったクリフジなどが3戦目でダービー馬となっている。が、戦前・戦時中は2歳戦がなかったので、実質的な最少キャリア記録保持者はフサイチコンコルドと言っていいだろう。

 その名が見えるというのは、ダービーが4戦目となるグラティアス、グレートマジシャン、シャフリヤールら、キャリアの浅い馬にとっては心強いデータだ。

 セントライトは三冠馬、サニーブライアンは二冠馬だ。これは、皐月賞を無敗で制して二冠目を狙うエフフォーリアにとって、ゲンのいいデータか。

 そして、ヒサトモは、史上初の牝馬のダービー馬である。2007年のウオッカ以来の牝馬による戴冠を目指すサトノレイナスにとっては嬉しいデータではないか。

 自分で書きながら、根拠が希薄なことは承知している。承知のうえで出走頭数やフルゲート絡みのデータを例に挙げると、以前、「フルゲートの春天は荒れる」という、格言とまでは行かないが、ジンクスとして存在する傾向は確かにあった。

 それを私が盛んに言ったり書いたりしたのは、前走の阪神大賞典の3コーナーで一度止まりかけながら2着に来て世界中を驚かせたオルフェーヴルが圧倒的1番人気に支持されていた、2012年の春天の前だった。

 その近い過去でフルゲートになった2003年は7番人気のヒシミラクル、2004年は10番人気のイングランディーレ、2005年は13番人気のスズカマンボ、2009年は12番人気のマイネルキッツ、2010年こそ2番人気のジャガーメイルが勝ったが、2011年は7番人気のヒルノダムールが勝っていた。そして2012年も14番人気のビートブラックが優勝。オルフェは11着だった。

 話をダービーに戻すと――。出走取消の場合は「フルゲート割れ」とは言わないようだし、ダイナガリバーが勝った1986年は出走馬が23頭と、フルゲート24頭に満たなかったのだが、多頭数なので、今回のデータには加えていない。であるからして、今回紹介したのは「出走馬が18頭に満たなかったダービーと、その勝ち馬」ということになる。

 今回もまた、だから何なんだ、という話になってしまった。

 予報によると、本稿がアップされる木曜日の東京地方は雨のようだが、週末は晴れマークが見える。爽やかな空の下での「競馬の祭典」となってほしい。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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