新人騎手の活躍が目立つ兵庫

2021年06月15日(火) 18:00

しきたりにとらわれず若手調教師が次世代を育てている

 今年4月に地方競馬でデビューした新人騎手は9名。そのうち兵庫から3名がデビューし、6月14日現在で、大山龍太郎騎手19勝、佐々木世麗騎手13勝、長尾翼玖騎手10勝。いずれも4月13日のデビューで、ちょうど2カ月間(開催日数29日)の成績としては優秀だ。

 かつての兵庫(園田・姫路)は地方競馬の中でもさまざまな面で保守的な印象があり、デビューしたばかりの新人騎手が活躍するような場面はなかなか見られなかった。それが近年ではデビュー年から活躍する騎手が目立っている。

 2017年4月にデビューした永井孝典騎手は、その年に33勝を挙げ、兵庫県競馬におけるデビュー年の最多勝記録を更新。それまでの記録は1993年にデビューした田中学騎手の32勝だった。

 地方競馬で新規に騎手免許を受けた騎手のデビューは、ばんえい競馬を除いてそのほとんどが4月か10月。10月デビュー騎手は暦年での記録となると難しいが、4月デビュー騎手は約9カ月。その期間の記録が32勝だったというのは、地方の他地区や中央と比べていかにも少なく、さらに23年もその記録が更新されてこなかったことは、兵庫ではいかに新人騎手の活躍が難しかったかを物語っている。

 それでもその永井騎手の記録は、翌18年にデビューした石堂響騎手が一気に10勝上回る43勝(ほかに佐賀で1勝)まで更新した。

 2年連続でこの記録が更新された要因のひとつに、減量規定の変更がある。

 地方競馬では2017年に始まったヤングジョッキーズシリーズがきっかけとなり、現在では減量の規定が中央と同様に地方でも全国で統一(30勝以下3kg減、31〜50勝2kg減、51〜100勝1kg減、女性騎手は別途)されているが、以前は主催者ごとにその規定がバラバラだった。

 中でも兵庫の減量規定は厳しく、2017年度までは、9勝以下2kg減、10〜19勝1kg減というものだった。一般的なデビュー時の3kg減がなく、いきなり2kg減から始まり、わずか20勝で減量がなくなる。

 つまり2017年4月デビューの永井騎手は、20勝を超えて以降は減量がない状況で勝ち星を重ねたことになる(実際には開催の区切りの関係で22勝目までは減量適用だった)。

 それが2018年度からは前述のとおり、全国の統一基準と同じ減量規定となり、その状況下で記録を更新したのが石堂響騎手だった。

 とはいえ新人騎手が活躍しているのはそれだけが要因ではない。これは兵庫に限ったことではなく、中央も含めた全国的な傾向だが、一昔前と違い、近年の新人騎手はデビューして間もなくから騎乗機会が多く、また有力馬の騎乗が任されることも多くなっているように思われる。

 かつてであれば、オープンクラスの有力馬が多数在籍するような厩舎に新人騎手が所属したとしても、レースで有力馬に騎乗するのはベテランやトップクラスの騎手がほとんど。若手騎手にはチャンスがなかなか巡ってこなかった。そうした厩舎の師弟関係が、近年では必ずしも“上から順”というようなことではなくなってきている。

 さて、兵庫の新人3名の話に戻る。

 兵庫は基本的に週3・4日間の開催だが、ここまで19勝を挙げている大山騎手は、デビューした週からここまで9週連続で勝利を挙げている。勝率12.4%も、リーディング上位を争っている騎手の数字と変わらない。

 佐々木騎手の初勝利は、その日のメインレースのA2特別で、単勝1.5倍という断然人気にこたえてのもの。それまでは厩舎の先輩、笹田知宏騎手がずっと手綱をとっていて、中央未勝利から転入して13戦10勝、2着3回という成績を残していた馬。その馬には引き続き佐々木騎手が騎乗している。2勝目も単勝1.8倍の断然人気馬で2着に大差をつける圧勝だった。

 長尾騎手の10勝は、前記2人にはやや遅れをとっているが、この4月にデビューした騎手で二桁勝利を挙げているのは兵庫の3名だけ。同期の中ではむしろ勝ち組だ。

 この3人に共通するのは、所属が新進の若手調教師の厩舎であるということ。大山騎手が所属する坂本和也調教師は47歳で開業7年目。19、20年と2年連続兵庫リーディング3位で、今年もここまで3位と上位に定着している。佐々木騎手が所属する新子雅司調教師は43歳と若いが、今年開業10年目。15年に兵庫リーディング1位を獲得して以降、2位に落ちたのは18年の一度だけというほとんど不動のトップ厩舎だ。長尾騎手の所属する橋本忠明調教師は開業9年目で44歳。兵庫リーディングでは17年以降毎年5位以内をキープしている。新子調教師と橋本調教師はもはや重賞勝ちの常連。坂本調教師も昨年から今年にかけてナリタミニスターが重賞4勝など重賞は通算5勝を挙げている。

 今、兵庫では、古いしきたりにとらわれず、勢いのある若手調教師が新人騎手を育てていると言って間違いない。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

関連情報

新着コラム

コラムを探す