【宝塚記念】牝馬隆盛の先駆けとなった道悪巧者の名牝

2021年06月26日(土) 12:00

一方で今年のテーマは新旧女王対決

 2015年までの56回で、1966年のエイトクラウンと2005年のスイープトウショウの2頭しか勝っていなかった牝馬が、この5年間で3頭も勝ち、宝塚記念のイメージが一変した。それまで、特に10年前あたりから勝てなくとも、2、3着に善戦する牝馬が毎年のように出ていたが、きっかけは11年ぶりに牝馬3頭目の勝利を飾った2016年のマリアライトだった。ジャパンCなどGI2勝のショウナンパンドラや、オークス馬ヌーヴォレコルトと同期の5歳牝馬。だが早くからスター街道を行くライバルの陰で本格化を待つ日々が続いていた。

 デビューが3歳の1月。420キロ、素質があっても体質が弱く、無理せずに育てられていた。そんな我慢の日々を経て4歳になって本格化、秋のエリザベス女王杯でGI初制覇を飾ると、有馬記念でも強豪牡馬相手に大外枠から4着に食い込んでみせた。体質が強くなり、体重も増え、5歳を迎えて最大の目標に定めたのが宝塚記念で、日経賞(3着)、目黒記念(2着)と牡馬相手に健闘を続けて予定通りの3戦目、一戦ずつ調子を上げてきていた。立ち回りがうまく、阪神の内回りは走りやすい馬で、やや重で少し時計がかかるのも味方していた。4歳牡馬で2冠馬ドゥラメンテ、菊花賞馬で春の天皇賞を勝っていたキタサンブラックとの、クビ、ハナの激戦をしのぎ、8番人気での勝利。同じやや重だったエリザベス女王杯を再現する道悪巧者ぶりだった。

 この牝馬の勝利が、ひとつのきっかけになったこともあったのではないか。

 春と夏とのあいだに特殊な風情のある季節をつくっているーと、中勘助は梅雨どきの今ごろについて記しているが、春のグランプリでの牝馬たちの存在は、独特のおもむき、味わいをつくり出しているとは言えないだろうか。

 アーモンドアイ、リスグラシュー、クロノジェネシスとスーパーヒロインが誕生し、牝馬の時代は、今年も受け継がれようとしている。宝塚記念に、牝馬が連覇という大記録をつくろうとしているが、一方で新旧女王対決というテーマも見えてくる。6連勝で大阪杯を4馬身差で逃げ切ったレイパパレは、全レース6週間以上空けて出走してきたように、とにかく大事に育てられ、体の成長を見ながら土台づくりをなされてきた。タフな馬場でレースを主導する、コントレイル、グランアレグリアを破った力は本物だろう。一方で受けて立つ、グランプリ3連覇、ゴールドシップ(2013、14年)に続く宝塚記念連覇の記録をめざすクロノジェネシスも、器用さがあってゆるぎない。2頭を追うのは、堅実駆けの牝馬カレンブーケドールと、牡馬で距離が合うアリストテレスだろう。

「宝塚 ジェンヌの話題 花盛り」

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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