中距離路線における古馬と3歳の頂上決戦・エクリプスS

2021年06月30日(水) 12:00

今季後半戦を占う意味でも見逃せない戦い

 7月に入るとヨーロッパでは、古馬と3歳のトップクラスが顔を合わせる、世代間を越えた戦いが本格化するが、今週土曜日(7月3日)にサンダウン競馬場で行われるG1エクリプスS(芝9F209y)で早速、10F路線の新旧対決が実現する。

 28日(月曜日)の現地正午に設けられていたエントリーステージで、登録を残した馬は7頭。このうち、今季初戦となったロイヤルアスコットのG2ハードウィックS(芝11F211y)を完勝したG1・2勝馬ワンダフルトゥナイト(牝4、父ルアーヴル)は、管理するデヴィッド・ムニュイジエ調教師が「大雨が降らない限り使わない」と言明しており、最終的には6頭以下の少頭数になる見込みだ。

 130年以上の歴史を誇るエクリプスSの、今年の焦点はズバリ、「ミシュリフ vs セントマークスバシリカ」にある。

 3月27日にメイダンで行われたG1ドバイシーマクラシック(芝2410m)で、クロノジェネシス(牝5、父バゴ)、ラヴズオンリーユー(牝5、父ディープインパクト)という、日本が誇る牝馬2トップに競り勝って優勝したミシュリフ(牡4、父メイクビリーヴ)の存在は、日本の競馬ファンの皆様にも既にお馴染みだろう。

 大谷翔平ばりの、二刀流の遣い手として知られるミシュリフは、サウジアラビアの王族プリンス・ファイサルによる自家生産馬(生産者名は、ファイサル王子が持つ生産牧場のナワラ・スタッド)だ。

 同じくプリンス・ファイサルの所有馬として、G1仏2000ギニー(芝1600m)やG1フォレ賞(芝1400m)を制したメイクビリーヴの、初年度産駒の1頭となる。

 ジョン・ゴスデン厩舎から2歳の10月にデビュー。3戦目となったノッティンガムのメイドン(芝8F75y)を10馬身差で制して初勝利を挙げ、2歳シーズンを締めくくると、陣営が3歳シーズンの初戦に選択したのが、馬主のお膝元であるサウジアラビアで開催されたサウジダービー(ダ1600m)だった。

 ここで、初ダートを克服して日本調教馬フルフラットの2着と好走したミシュリフは、ヨーロッパの平地シーズンが始まると芝戦線に回帰し、シャンティイを舞台としたG1ジョッケクルブ賞=仏ダービー(芝2100m)に優勝している。

 4歳となった今季の初戦となったのが、2月20日にキングアブドゥルアジーズで行われた、総賞金2000万ドルという世界最高賞金競走のサウジC(ダ1800m)で、ここでミシュリフはダートの本場アメリカから遠征してきた精鋭を封じて優勝。

 5週間後のドバイワールドC開催では、ダートのG1ドバイワールドC(ダ2000m)ではなく、芝のG1ドバイシーマクラシックに出走して優勝した下りは、前述した通りである。

 すなわち、芝・ダートを問わずに、無双ぶりを発揮しているのがミシュリフである。

 一方のセントマークスバシリカ(牡3、父シユーニ)は、クールモアの所有馬。G1英2000ギニー(芝8F)など2つのG1を制したマグナグリーシアの半弟にあたり、タタソールズ10月1歳市場にて130万ギニー(当時のレートで約1億8410万円)という高値で購買されている。

 エイダン・オブライエン厩舎から2歳7月にデビュー。ミシュリフ同様に、初勝利を挙げたのは3戦目で、カラのメイドン(芝6F)を勝ち上がると、次走はカラのG1ヴィンセントオブライエンナショナルS(芝7F)に挑んで3着に好走。続くニューマーケットのG1デューハーストS(芝7F)を制し、G1で重賞初制覇を飾っている。さらに、ここでレイティング120を獲得し、2020年ヨーロッパ2歳ランキングの首位に立つことになった。

 3歳初戦となったのが、パリロンシャンのG1プールデッセデプーラン=仏2000ギニー(芝1600m)で、セントマークスバシリカはここを勝ってクラシック制覇。さらに前走、500mの距離延長を克服してシャンティイのG1ジョッケクルブ賞=仏ダービー(芝2100m)を制し、2冠制覇を達成している。

 すなわち、「ミシュリフ vs セントマークスバシリカ」は、中距離路線における古馬と3歳の頂上決戦であると同時に、新旧の仏ダービー馬対決でもあるのだ。

 負担重賞は、古馬のミシュリフが9ストーン7ポンド(約60.3キロ)であるのに対し、3歳のセントマークスバシリカは8ストーン11ポンド(約55.8キロ)で、斤量差は4.5キロある。エクリプスSの過去10年を振り返ると、15年のゴールデンホーン、16年のホークビル、18年のロアリングライオンと、3歳勢の優勝は3度あり、力のある3歳馬であれば古馬と充分に渡り合えることを示している。

 エクリプスSの冠スポンサーである大手ブックメーカーのコーラルは、6月29日現在、ミシュリフに2.625倍、セントマークスバシリカに2.75倍のオッズを提示し、わずかの差でミシュリフを1番人気とし、この路線のG1・4勝馬アデイブ(セン7、父ピヴォタル)を、オッズ4.33倍の3番人気としている。

 ヨーロッパ競馬の今季後半戦を占う意味でも、3日のエクリプスSは見逃せない戦いになりそうだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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