【ローズS】いいポジションを取っていい流れに乗る…自信を感じた福永祐一騎手の騎乗

2021年09月21日(火) 18:00

哲三の眼

パーフェクトな騎乗でローズSを制した福永祐一騎手 (C)netkeiba.com

今年のローズSは4番人気だったアンドヴァラナウトが勝利。鞍上をつとめた福永祐一騎手について「与えられた枠順の中で、今この馬にとってどういう競馬がいいのか、ということを体現する力がある」と哲三氏は語ります。今回はスタートから2コーナーまでの騎乗に焦点を当てて振り返りつつ、同馬のこれまでのレースについても解説します。

(構成=赤見千尋)

しっかりスピードに乗せながら折り合いを付けている

 日曜日に中京競馬場で行われたローズステークスは、4番人気だったアンドヴァラナウトが勝利。今回も(福永)祐一君の騎乗はパーフェクトだったと感じます。

 今の祐一君は、返し馬から以前とは違う印象です。僕は現役の頃に返し馬をとても大事にしていて、周りの人馬の返し馬もよく見ていたのですが、今の祐一君はその馬その馬の頭の位置がすごくいいところにあるなと。いい返し馬が出来るというのは、いい準備が出来ているということですから、レースにも繋がっていくと思います。

 今回もスタートをしっかり決めて、与えられた枠から一番いいポジションを取っていい流れに乗っている。いい流れに乗っていいポジションを取っているのではなく、いいポジションを取っていい流れに乗る、同じように聞こえるかもしれませんが、僕の中ではニュアンスが違っていて。スピードに乗りやすい今の中京の馬場において、ポジションをしっかり取らないで行くと後手に回りやすくなります。最初にしっかりスピードに乗せながら折り合いを付けているのがまず巧いと思ったし、このレースで言うと、2コーナーまでに勝つための仕込みは出来たなと。

哲三の眼

2コーナーまでに勝つための仕込みは出来ていた (C)netkeiba.com

 ポジションを取りながら2コーナー手前くらいで、脚を溜めているんです。折り合いを付けると溜めるはまたニュアンスが違うのですが、経験の浅い若手だと3コーナーくらいから仕込みに行って、終いの末脚に懸けるというイメージ。でも2コーナーの手前で仕込んでしまうと準備期間が長くなるわけで、今回のようなコーナー4回の時には影響が大きいと思います。

 基本的に脚を溜めるためのブレーキングは自然にペースが落ちるコーナーでした方が得だと考えていて、2コーナーで息を入れて仕込みが出来ることは理に適っていますよね。もちろんそのレースそのレースで形は違うわけですが、最近の祐一君はそういう部分が実に巧いし、見ていてとても面白いです。

馬の気持ちが乗りやすいように持っていくのが巧い

 アンドヴァラナウトのこれまでのレースを見ていると、デビュー戦はスタートはそんなに速くはなくて、道中からちょっと行きたがるようなレースでした。前脚を上に上に上げて走るフォームで、結果的に前にいた勝ち馬を捕らえ切れず僅差の2着。ちょっとラストが甘くなるのかなという感じに見えました。

 デビュー戦でラストが甘くなると感じたら、前に行きたくないからゲートを出さないという方向性になる人もいると思いますが、この馬にとってのターニングポイントになったのは、未勝利を勝った直後の1勝クラスでのレースで、ハナを切って行った競馬で走りのポイントが変わったのではないかと思います。

 馬の習性として、ハナに行くと周りの景色をよく見て走るため、掛かっているように見えても馬群の中にいる時の掛かり方とは違います。周りを見るということはクビもある程度上げて走ることになりますから、僕が考える「馬自身が走りやすい走り方」に近づく可能性があります。

哲三の眼

4月の未勝利戦で初勝利をあげたアンドヴァラナウト (C)netkeiba.com

 もちろん一概には言えないですし、ハナに行ったからといって力んで走る馬もいるでしょう。たまたま1枠1番を引き当てたためにハナを切る形になったのだと思いますし、もし違う枠だったら逃げなかったと思います。そういう意味では、祐一君は与えられた枠順の中で、今この馬にとってどういう競馬がいいのか、ということを体現する力がある。レースを見ていても、やるべきこと、やってみたいレースの意図がわかりやすいんですよね。この馬がより高みに行くためのレースの仕方、先への繋げ方が僕の好みだなと。今回はそれがハナに行く経験だったと思いますが、その経験を活かせるかどうか、今後に繋げていけるかは騎手の腕次第ではないでしょうか。

 僕はいつもこのコラムで言っているように、「スタートを決めて最初にスピードに乗せる」ということを重要視しています。ざっくり言ってしまうと、脚を溜めるということは、ゆっくり走ることとイコールなわけですから、ゲートが開いて「行け」と言われて、すぐに抑えて「行くな」というのは、混乱する馬もいるのではないかと。祐一君は馬の気持ちが乗りやすいように持っていくのが巧いです。

 そして、スピードをコントロールすることに自信があるんでしょう。最近の乗り方を見ていると、スタートを出してスピードに乗せてもコントロール出来るという自信があるんだと感じます。乗り方は人それぞれですが、今のスピード競馬では祐一君の乗り方が僕は好きですね。今後世界のトップジョッキーが来て、今の祐一君との技術比べを見るのが楽しみです。

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佐藤哲三

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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