今秋の繁殖牝馬セール総括

2021年10月28日(木) 18:00

これまで以上に多岐にわたった購買層

 26日(火)ノーザンファーム、27日(水)ジェイエスと、二日続けて繁殖セールが開催された。まず結果に簡単に触れておく。

 26日、苫小牧市のノーザンホースパークを会場に開催されたノーザンファームのセールは、上場馬70頭(受胎馬44頭、未供用馬26頭)で落札馬が64頭(受胎馬39頭、未供用馬25頭)。総額は税抜きで6億8800万円。平均価格は1075万円であった。売却率は受胎馬が88.6%、未供用馬が96.2%、全体では91.4%であった。

 64頭中62頭が落札され96.9%という驚異的な売却率を記録した昨年よりはいくぶん数字が下がったとはいえ、ほぼ誤差の範囲であろう。また総売り上げも昨年の6億9400万円には600万円及ばなかったものの、これも前年と同水準である。

 昨年は受胎馬で5600万円、未供用馬では7200万円という飛び抜けた高額馬が出現したことで全体の売り上げがかなり底上げされた形になったが、今年の最高価格は、受胎馬が3100万円、未供用馬が4000万円と、昨年に比べるとかなり落ち着いた印象であった。その分、2000万円前後から3000万円までの価格帯での心理戦、駆け引きが数多く見られた。多くの牧場にとっては、現実的に手の届く価格帯がおそらくこの辺りなのだろうと思う。また、生産牧場以外にも、個人、法人などの名前で落札する馬主層もいた。

 受胎馬の最高価格馬は5番マンハイム。7歳栗毛で父ダイワメジャー、母マンデラ、母の父Acatenangoという血統。競走成績は1勝。今年度はレイデオロを受胎しており、最終種付け日は5月27日。半兄にワールドエース、半弟にワールドプレミアのいる名血馬である。価格は3100万円。販売者は(有)ノーザンレーシング。落札者は(有)グランド牧場。

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受胎馬の最高価格馬は3100万円の5番マンハイム

 未供用馬の最高価格馬は51番エトワール。5歳栗毛。父ハービンジャー、母ファシネイション、母の父シンボリクリスエス。競走成績は17戦2勝2着3回3着4回、獲得賞金3440万円。販売者は近藤英子氏。4000万円でシンボリ牧場が落札した。

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▲▼未供用馬の最高価格馬は4000万円の51番エトワール

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 この日、あいにく胆振東部には縦長の雨雲が南から北に向かって次々に流れ込み、会場は終日雨に見舞われた。それでも会場は最後まで新しい血の導入を考えて会場を訪れた多くの関係者の熱気に包まれていた。

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この日はあいにく会場は終日雨に見舞われた

 日本の競馬をリードするノーザンファームの放出する繁殖牝馬は、依然として生産地では高い人気がある。なお来年は、この繁殖馬セールの日に30頭規模で当歳馬もセリに供される予定という。

 さて、その翌日27日(水)は、(株)ジェイエス主催の繁殖馬セールが北海道市場を会場に開催された。上場頭数は217頭(受胎馬176頭、空胎馬41頭)、落札頭数は154頭(受胎馬122頭、空胎馬32頭)、売却率は70.97%。売り上げ総額は税込みで5億6721万5000円。平均価格は受胎馬が352万7213円、空胎馬が427万7969円、合わせて368万3214円であった。総額では昨年比で微減となったが、売却率は5.85%上昇した。

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(株)ジェイエス主催の繁殖馬セールの様子

 最高価格馬は、受胎馬が69番スプリングサンダー(14歳鹿毛、父クロフネ、母スプリングマンボ、母の父Kingmambo)の3080万円(落札価格2800万円)。サートゥルナーリアを受胎しており、最終種付け日は4月26日。

 本馬は現役時代、中央5勝2着4回3着1回、阪急杯2着、CBC賞2着などの実績があり、1億3904万円の賞金を獲得した実績馬である。販売者は(有)グランド牧場。落札者は(有)天羽牧場。

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▲▼受胎馬の最高価格は落札価格2800万円の69番スプリングサンダー

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 また空胎馬では62番パイネ(4歳黒鹿毛、父ディープインパクト、母ミスアンコール、母の父キングカメハメハ)の5610万円(落札価格5100万円)が最高価格であった。

 本馬は戦績こそ2着4回3着4回ながら1900万円の獲得賞金で、全兄にワグネリアン、全姉にテンダリーヴォイスという血統背景を持つ。販売者は金子真人ホールディングス、落札者は(有)グランド牧場。

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▲▼空胎馬の最高価格は落札価格5100万円の62番パイネ

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 このセールには、ノーザンファームこそいなかったものの、社台ファーム、社台ブラッドメア、ダーレー・ジャパン、下河辺牧場、西山牧場、パカパカファーム、千代田牧場など多くの牧場から上場馬が集まり、幅広い価格帯で数多くの取引が成立していた。

 同セールで過去に落札された繁殖牝馬の中からは今年新たに7頭の平地重賞勝ち馬が誕生しており、シゲルピンクルビー(フィリーズレビュー)、リュウノユキナ(東京スプリント、クラスターカップ)、レイハリア(キーンランドカップ、葵ステークス)、ザダル(エプソムカップ)、ファストフォース(CBC賞)、スマッシャー(ユニコーンステークス)、テイエムサウスダン(黒船賞、オーバルスプリント)がそれぞれ中央や地方の交流重賞を制している。

 コロナ禍にありながら、今年の1歳市場もまた非常に好調に推移した背景からか、各生産者には、この二つの繁殖馬セールで新しい繁殖牝馬を導入しようという積極的な姿勢が見られる。生産地は今、ちょっとしたバブル状態にある。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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