【現場最前線!現役騎手とJRAで考える“馬場”】第2回「主催者として“高速馬場”と言われるのは心苦しい」

2021年11月10日(水) 18:02

with 佑

▲第2回のテーマは時計の速さと馬場の関連性について (C)netkeiba.com

JRA阪神競馬場、馬場造園課長の青山裕介氏をゲストにお迎えし、知られざる“馬場作り”の最前線に迫る今回の企画。

日本は世界も驚くスピード競馬ですが、それゆえ「高速馬場」≒「馬が故障しやすい」のでは? という批判的な意見も。そのあたり、主催者としてはどう受け止めているのでしょうか? そして、実際に騎乗している佑介騎手の見解は?

(取材・構成=不破由妃子)

※この対談はZoomで行いました

騎手の証言「時計が速い=馬場が硬い」ではない

──早いもので、佑介さんもデビュー18年目。馬場の変遷を体感してこられたと思いますが、昔と今の違いとして、実感していることがあれば教えてください。

佑介 もちろん天候によって傷むことはありますが、とにかくそこから開催を経ての回復が早いです。一番は水捌けですね。最近はビックリするくらい早くて、「あんなに降ったのにもう乾いてる!」と思うことがよくあります。そこは昔と全然違いますね。

 あと、極端に硬い馬場が明らかに減りました。昔はすごく硬く感じることがよくあったんですけど、ここ数年は、たとえ時計が速かったとしても、乗り手として硬いなと感じることがほとんどなくなりましたね。

──とはいえ、今もなお「高速馬場」≒「馬が故障しやすい」として、批判的な意見を目にすることが少なくありません。そのあたり、青山さんはどう受け止めていらっしゃいますか?

青山 あまり高速馬場と言われるのは、心苦しいところがありまして…。レコードタイムが出ると正直なところ憂鬱ですね。場合によっては、お客様やマスコミ対応のため結果を分析したレポートを書かないといけないケースもありますし。

佑介 あ、そうなんですね(苦笑)。

青山 はい。我々としても、そのようなご指摘を受けることは一切望んでおりません。

──強調したいのは、意識的に速くしているわけではないということですよね。

青山 そうです。今年は桜花賞でレコード(1分31秒1)が出ましたが、その理由の一つとして、馬場がよくなっていく時期とコース替わりが重なった影響かなと思っていて、決して馬場を速くしようとか、そういう意図があってのことではありません。

 実際、速くなっていると言われるいっぽうで、昔に比べて事故率は低下していますし、ここ数年は、ほぼ横ばいで推移しています。確かに競走自体は高速化していますが、決して事故率が上昇しているわけではないので、そこに因果関係は見られないと言っていいのではないかと。

佑介 近年、騎乗していて感じるのは、時計が速い=馬場が硬いという方程式はまったく成り立たなくなっているということ。単純に開幕週だったり、時計が出る条件が整ったなかで、レースを引っ張る馬がいたりしてペースが速くなると、必然的に時計が速くなる。僕はそんな感じがしていますけどね。

 例年、北海道も開幕週は時計が出ますが、乗り役からすると最高に乗り心地のいい馬場で、危ないと感じることはまったくないですし。

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▲今年の函館スプリントSを制した佑介騎手とビアンフェ (C)netkeiba.com

フランスの競馬関係者からの指摘

青山 あともうひとつ、とくに秋競馬の前半などの2歳競走でレコードが出ているなと思っていまして。

 その理由を考えたとき、競走馬自体のクオリティが非常に上がっていることに加え、育成技術の向上も関係しているのかなと思ったのですが、そのあたり、実際に騎乗しているジョッキーのお考えはいかがですか。

佑介 確かに、近年の早期デビューができる2歳馬は、とてもシッカリしている印象がありますね。

 たとえば、新馬戦で逃げた馬が物見をしたりすると極端にペースが遅くなったりしますが、逆に先頭の馬がスイスイ走っていくと、全体的にペースが安定して走破時計も速くなるので、育成技術の向上がレコード頻発の要因になっているんじゃないかというのは、僕も同感です。

──競走が高速化するなかで、ジョッキーとして気をつけていることはありますか?

佑介 時計が速いということは、それだけ馬自体が速く移動しているということなので、なにかアクシデントがあったりとか、急に脚に負荷が掛かったときに、どうしても作用する力も大きくなりますよね。

 だから、馬場自体が速いときや、上がりが極端に速いレースになったときは、なるべく馬の上で無駄な動きをしないようにとか、横に動かさないようにとか、そういうことは意識していますね。

 そういえば、フランスに行っていたときも、関係者によく「日本はなんであんなに時計が速いの?」って聞かれたなぁ。どう考えても、日本はフランスより馬場の管理が行き届いているし、馬の調教もしっかりやっているからでしょ? って思ったんですけど(笑)。

青山 ありがとうございます(笑)。

佑介 ただ、フランスの関係者が言っていたことで、「そういう見方もあるんだな」と印象に残ったことがありまして。

「日本の競馬はファンがいてこその競馬で、実際に世界で一番馬券が売れている。ファンのためにやっている競馬なのだから、スターホースには絶対にケガをさせてはいけない。そのことをもっと全体で考えて、安全性を求めていかなくちゃダメだ」と。

 なるほどなとすごく納得して、ずっと頭のなかに残っています。

青山 まさしく、そのフランスの方のおっしゃる通りだと思います。当たり前ですが、私どもはお客様の馬券の売り上げによって成り立っている組織ですから、当然、お客様を裏切るようなことがあってはならない。

 今、馬場を管理するうえで3つの指針がありまして、『均一性』『平坦性』『クッション性』の実現を重要視しているわけですが、それを進めていけば、必ず競走馬の事故防止にはつながると思っています。ただ、悲しいことに、ゼロにはならない。だとしても、我々はできる限り頑張り続けるほかないんです。

 競走馬は、競馬界全体の宝ですからね。彼らが故障するようなことがあってはいけない。それは私も常日頃から思っていることなので、先ほどの意見には同感です。

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▲「競走馬は、競馬界全体の宝」と語る青山氏 (提供:JRA)

(文中敬称略、次回へつづく)

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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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