次世代の人材育成に取り組む静内農業高校

2021年11月18日(木) 18:00

多角的に学ぶ場を提供するマイスターハイスクール事業とは?

 北海道立静内農業高校は、日本で唯一、サラブレッド生産を授業の一環として導入している高校である。種付けから出産、そして、誕生した当歳馬を育て、秋には離乳し、翌年、1歳馬になった時に北海道市場で開催されるサマーセールに上場し、売却する。このサイクルを1978年から40年以上続けている。今年の北海道サマーセールでは、ナリタトップスターの2020(牡栗毛、父マクフィ、母の父ディープインパクト)を上場し、税込み572万円(落札価格520万円)で(有)ミルファームが購買している。

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静内農高上場馬901番立ち

 静内農高には、現在、食品科学科と生産科学科の二学科に、全校で120余名が在学しており、このうちサラブレッド生産に取り組んでいるのは生産科学科の生徒たちだ。

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静内農高生徒たちとミルファーム

 このほど、静内農高が今年度から向こう3年間の期間で、文部科学省より「マイスターハイスクール」として指定されていると知らされ、課外授業がJRA日高育成牧場で行われるというので、過日見学してきた。そもそもこのマイスターハイスクール制度とは、いかなるものか。

 文科省HPによると「次世代地域産業人材育成刷新事業」と紹介されている。以下、引用させてもらうと「第4次産業革命の進展、デジタルトランスフォーメーション(DX)、六次産業化等、産業構造・仕事の内容は急速かつ絶えず革新。さらに新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中、DX、IoTの進展の加速度がさらに高まり、こうした革新の流れは一層急激に」なったことを受けて「地域産業の人材育成の核となる専門高校の社会的要請として、産業構造・仕事の内容の絶え間ない変化に即応、同期化した職業人育成が求められる」ことから「聖地用産業化に向けた革新を図る産業界と専門高校が一体・同期化し、第4次産業革命・地域の持続的な成長をけん引するための、絶えず革新し続ける最先端の職業人育成システムの構築」を事業内容とする、ということらしい。

 何やら難しい字句が連続していて、昭和脳の私にはよく理解できない内容だが、要するに、今後の日高農業(軽種馬関連の各業界を含めた)の若き担い手たちを育てる目的で、静内農高と地元の自治体や関連団体、事業所などが密に連携し、より現場に即した実践的な授業を取り入れて行こうという試み、ということであろう。

 過日、JRA日高育成牧場には、生産科学科2年生の13名がバスで来訪した。この日の授業科目は「馬の利用と調教」その2となっていた。雨天時のことも考慮してこの日の授業は乗馬厩舎に隣接した覆馬場で実施された。

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雨天時のことも考慮して覆馬場で実施された

 まず、JRA職員が、3種の歩様を騎乗して模範演技で見せる。そして、障害飛越まで行い、その後、2年生の中の馬術部員4名が、実際にJRAの乗馬に騎乗して、指導を受けるという内容であった。

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▲▼障害飛越模範演技の授業風景

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 JRA日高育成牧場による今年度のマイスターハイスクール授業計画は、10月13日より始まり、11月16日まで計9回行われる。乗馬指導のみならず、当歳馬を使用しての引き馬や保定、手入れ、展示方法、写真撮影もあれば、繁殖牝馬を使って、エコー検査や放牧と集牧、繁殖牝馬のボディコンディションスコア測定なども授業の中に取り入れられている。

 また出張講義として、JRA職員によるアメリカの馬産、競馬及び馬文化に関する講義もあれば、札幌競馬場に視察に行く授業も用意されている。

 こうした課外授業を実施するのは、JRA日高育成牧場だけではなく、その他にもかなりの数に上るという。従来、学校の中だけで行われてきた授業から一歩外に足を踏み出し、より多角的に学ぶ場を提供しようというのがマイスターハイスクール事業のようである。

 全国で12校が指定されており、北海道ではここ静内農高だけという。次回、もう少し全体像が見えるようにもう一度この取り組みについて触れたい。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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