2021年12月16日(木) 12:00
先週の香港国際競走には12頭の日本馬が参戦し、うち2頭が勝利をおさめた。それら12頭の父は、ディープインパクト、ハーツクライ、ダイワメジャー、ステイゴールド、モーリス、ロードカナロアの6頭。6頭とも、もはや死語になった感のある内国産種牡馬で、みな、海外での出走経験があった。そういうグローバルな時代になったというか、活躍の舞台を世界各国で共有するのが当たり前になった、ということか。
さて、本稿がアップされる翌日、12月17日に久しぶりに新刊を出す。集英社文庫の書き下ろし競馬ミステリーシリーズ第5弾『ファイナルオッズ』である。30代の会社員の主人公が、上役と組んで、皐月賞の単勝に5000万円をぶち込む話だ。
第1弾の『ダービーパラドックス』を上梓したのは3年前、2018年の11月下旬のことだった。いつまでつづくことやらと思われていただろうし、実際、そう言われたこともあったが、読者のみなさんのおかげで、どうにかここまで来ることができた。
先月まで月刊誌「青春と読書」で連載していた「ザ・ブラッドメモリー」も一冊になる予定なので、とりあえず第6弾までは出せそうだ。が、そこから先は何も決まっていない。あとがない戦いを、私はしなければならない。
直木賞作家の浅田次郎さんが、30年ほど前、週刊誌の連載エッセイに「もっかのところ、私は売れない作家の典型である」と書いていた。今の私もそうだ。本を出せるだけでもありがたい、という状態である。
浅田さんはその後、1997年に出した『鉄道員』がミリオンセラーとなるなど、超のつく売れっ子作家になった。
売れない作家は私のほかにも山のようにいて、ほとんどが売れないまま消えていく。
尻すぼみになって終わる作家と、浅田さんのようにブレイクする作家の何が違うのか。才能と言ってしまえばそれまでだが、運や巡り合わせも大きい。それらを引き寄せるために自分から何かを仕掛けることもあるわけだから、やはり、能力次第ということなのか。
今、『颶風の王』で2015年度のJRA賞馬事文化賞を受賞した河崎秋子さんの新刊『絞め殺しの樹』(小学館)を読んでいる。
河崎さんの文章は、読みやすいのに格調が高く、丁寧なのに迫力がある。天才的な歌唱力を持つ歌手の声に酔わされているような感じで作中に引き込まれ、前半部分の主人公であるミサエと一緒に、苦しい日々のなかに小さな安らぎを見つけ、救われたように目を閉じてしまう。
生まれ育った土地と人間、家と人間、そして血縁と人間について、自分の考えの凝り固まった部分を突きつけられながら、ミサエや、後半部分の視点人物である雄介に、気がついたら肩入れしている。
書名だけ見ると怖そうだが、河崎さん自身も言っているように、ホラーでもサスペンスでもスリラーでもない。地と血と情が絡み合う、壮大な物語である。
才能のある作家とは、河崎さんのような人をいうのだと思う。
話は変わって、第66回有馬記念の出走馬が具体的に見えてきた。
出走予定馬を、ファン投票の上位から記していくと、次のようになる。カッコ内がファン投票の順位である。
エフフォーリア(1) クロノジェネシス(2) タイトルホルダー(3) アカイイト(7) キセキ(9) ディープボンド(15) ステラヴェローチェ(18) アリストテレス(23) メロディーレーン(24) ウインキートス(30) アサマノイタズラ(31) パンサラッサ(33) モズベッロ(42) シャドウディーヴァ(49) ユーキャンスマイル(55) ペルシアンナイト(60)
このなかで、ファン投票の上位10頭に入っているウインキートスまでは、収得賞金に関係なく優先的に出走できる。
実は私は、30年以上の競馬歴で、今回初めてファン投票をした。「小さな根性娘」メロディーレーンに出てほしいと思ったからだ。総合では24位だったが、登録馬では9位なので、出走が叶ってよかった。
もういくつ寝ると有馬記念という時期になったが、思い返してみると、去年も今年もまったく風邪をひかなかった。薄着で外出して震えたり、風呂上がりに寒い思いをしたりしたこともあったのだが、やはり、三密回避とマスク、手洗い、消毒を徹底していたからか。
油断せず、このまますこやかに年末年始を迎えたい。みなさまもご自愛を。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所
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