繁殖引退のオースミハルカ(3)母の近くで穏やかな余生が待っている“クール”なハルカ

2021年12月21日(火) 18:00

第二のストーリー

最後の子と並んで草を食むオースミハルカ(右) (提供:Y.Hさん)

子育てに関してはクールなタイプというオースミハルカ

 これまでたくさんの子供を世に送り出してきたオースミハルカだったが、2019年、2020年(種付けは2018年、2019年)と2年連続子供に恵まれなかった。受胎してもしなくてもこれで繁殖引退と決めた鮫川さんは、できうる限りの手を打ち、2020年の最後の種付けに備えた。結果、無事に受胎。今年5月11日、ハルカは父レイデオロの牝馬を出産した。

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出産直後のオースミハルカと無事生まれた父レイデオロの牝馬(提供:Y.Hさん)

「ハルカの子育ての仕方は放任主義に近いです。あまり怒らなくて、蹴る、噛みつく、追い払うという姿も見たことがないですね。当歳っ子も、お母さんはそこにいるよねみたいな感じになることが多かったです」

 今年生まれた女の子も、例に漏れず放任主義で育てた。

「最初こそお母さん、お母さんと子供はくっついていました。でもハルカはお乳は飲ませてあげるけど、子供の後追いもあまりしないので、子供は他の子と遊んだり、他の母馬のところに行ったりを割と早くからしていました」

 母親になった当初から、子育てに関してはクールなタイプだと鮫川さんは感じていた。だが時々意外な面ものぞかせる。

「さっきまで何百メートルも離れた位置にいて子供を放置していたのに、何で今さら探しているの? とか(笑)。そういうこともありましたね」

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子育てに関しては“クールなタイプ”のオースミハルカ(提供:Y.Hさん)

 鮫川さんの牧場は、現在6箇所に厩舎が分散している。電話取材をした11月半ばには、当歳と一緒に過ごした場所にそのままいるとのことだったが、この先出産前にいた馬房に移動させて、母ホッコーオウカの近くで過ごさせるつもりだと鮫川さんは教えてくれた。

「これまで慣れ親しんだ環境からは、なるべく逸脱しないようにと考えています」

 ちなみに10月下旬までハルカも夜間放牧をこなしており、それ以降はハルカや繁殖馬たちは朝まだ暗いうちに放して16時くらいに厩舎に戻るという生活を送っている。

 母のホッコーオウカは年を重ねるごとに後ろ脚が弱ってきたため、起き上がれなくなることもあり、重機とスタッフの力を借りて立ち上がらせているという。

「起き上がると、何でもっと早く起こさないんだという顔を(オウカが)するわけですよ。そうするとまだ元気だな〜って皆がホッとするんですよね」

 ホッコーオウカの瞳には力が宿っており、まだまだ頑張れそうな雰囲気も漂っているようだ。

 また鮫川さんの父・三千男さんの代には、ダービー馬のカツラノハイセイコを生産している。

「5月13日の遅生まれでね。親父の誕生日(5月14日)の前日に生まれたんです。大柄だった父のハイセイコーには似ていなくて、お母さんのコウイチスタアにそっくりだったんですよ。唯一、ハイセイコーと似ている点といえば、顔が若干大きいところですかね」

 小柄だが悍性が強かったカツラノハイセイコはリンドプルバンとの叩き合いをハナ差制して、父ハイセイコーの果たせなかった日本ダービーのタイトルを見事手にした。ハイセイコーの主戦騎手だった増沢末夫さんが歌った「いななけカツラノハイセイコ」のレコードが発売されたのも印象深い。このカツラノハイセイコの母系も、辿っていくとオースミハルカと同じスターリングモアに繋がる系統だ。

「コウイチスタアは確か32歳くらいまで生きました。この系統は多産系ですし、体も強い方だと思います」

 カツラノハイセイコ自体も、33歳という長寿だった。

 繁殖を引退したオースミハルカは、まだ21歳。これからは母ホッコーオウカと過ごす穏やかな余生が待っている。そしてオースミハルカの最後の子が、ターフを駆ける日を楽しみに待ちたい。

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最後の子とオースミハルカ(提供:Y.Hさん)

(了)

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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