【友道康夫調教師】急死したワグネリアンを偲び…… ドウデュースら、僚馬たちが飛躍へ

2022年01月12日(水) 18:02

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▲2018年のダービー優勝時、ワグネリアン騎乗の福永祐一と友道康夫調教師(撮影:下野雄規)

ダービー馬ワグネリアンが多臓器不全のため急死したという衝撃的なニュースが新年から駆け巡りました。解剖の結果、胆石ができており、競走馬ではあまり聞き馴染みのない病態に友道康夫調教師も「JRAでは初めてだと言われました」と話します。ダービー馬の身に一体なにが起きていたのでしょうか。

一方で、厩舎には明るい話題もあり、昨年、武豊騎手とのコンビで朝日杯FSを制覇したドウデュースは今年、凱旋門賞挑戦プランが上がっています。また、今週末16日の日経新春杯には、日本ダービー7着以来の実戦となるヨーホーレイクや、狙いすましたローテーションで挑むフライライクバードがスタンバイ。

話題の馬たちについて友道調教師に伺いました。

(取材・構成=大恵陽子)

※このインタビューは電話取材で行いました

ドウデュース「凱旋門賞に向けて、春はいい競馬を」

――昨年は朝日杯FSをドウデュースで制覇、おめでとうございます!「競馬界の七不思議」とも言える武豊騎手の朝日杯FS未勝利を崩しましたね。

友道康夫調教師(以下、友道師) ありがとうございます。よかったです。後出しになるんですけど、1週前追い切りの動きが良くて、武豊騎手も実際に乗って「自信がある」と言っていました。離れた3番人気だったので、「なんでこんなに人気がないのかな?」と武豊騎手と話していたくらいなんです。

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▲追い切りの時から手応えは充分だったと武豊騎手(C)netkeiba.com

――それだけいい状態で迎えたGIだったんですね。オーナーもGI初制覇で、キーファーズの代表・松島正昭氏はかねてより「武豊騎手を応援したい」とメディアで話されていましたから、喜ばれたのではないですか?

友道師 オーナーがレース前は一番心配されていて、前日くらいにも「本当にどうなの?」と電話がありました。「具合はいいですよ」とお伝えしました。

――そわそわされていたのかもしれないですね。

友道師 オーナーの初GIが、武豊騎手も初めて勝つGIなんでね、お互い「初・初」で本当に良かったなと思います。

 元々、武豊騎手が紹介してくれて、マイラプソディが初めて預かった馬でした。オーナーはドウデュースが勝った朝日杯FSの映像をもう100回以上は見返したとおっしゃっていて、本当に嬉しいです。

――明け3歳世代には友道厩舎にはフィデルやダンテスヴューなどの有力馬がいますし、他厩舎にも将来を嘱望される馬がいます。同世代で比較して、ドウデュースはいかがですか?

友道師 武豊騎手も「不思議な馬」というくらい、ドウデュースは一見するとそんなに走りそうな感じじゃないんです(苦笑)。

――えっ!GI馬ですけど、どういうことですか?

友道師 1頭では調教でそんなに真剣に走らないですし、併せ馬でもGOサインを出すまではとぼけて走るような感じなんです。「大丈夫かな?」というような手応えらしいんですけど、GOサインを出すとビュンと伸びて、前に行きたいという気持ちが強くなります。併せ馬では、うちの厩舎の古馬とやっても負けたことがないんです。

――スイッチの切り替わりがすごいですね。

友道師 馬体も、最初は胴が詰まっていてダート馬かなと思っていたら、だんだん胴も伸びてきました。見た感じはフィデルとかダンテスヴューの方が体つきや走りもいいなと感じますけど、勝ちたいという気持ちがドウデュースはすごいです。

――昨年はクロノジェネシスやラヴズオンリーユー、グランアレグリアなどが引退し、世代交代が進んでいくように感じます。明け3歳のドウデュースも今後が楽しみですね。

友道師 先日、オーナーから「ドウデュースで凱旋門賞を目指したい」と言っていただき、「はい、ぜひ行きましょう」とお答えしました。そのためには今春、いい競馬をして楽しみを持って渡仏したいですね。

あの手この手を尽くしたけども……旅立ったワグネリアン

――世界へ羽ばたく走りを楽しみにしています。一方で、1月5日にはダービー馬ワグネリアンが多臓器不全のため亡くなったという衝撃的なニュースがありました。

友道師 ジャパンカップの後からずっと「何となく調子が悪い」という感じで、色んなことやったんですけど、原因が分かりませんでした。血液検査で肝臓に関連する数値が高くて、胆石も疑われることからその薬も与えていましたが、肝臓の疾患であれば時間はかかるのかなと思っていました。

 12月に入ると状態も落ち着いたので、牧場で気分転換した方がいいだろう、と放牧に出たんですけど、年末くらいに容態が急変して、すぐにこちらに戻してトレセンの診療所に入院しました。

――肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、人間でも気づかないうちに静かに病気が進行すると言われています。一旦は快方に向かっていたんですね。

友道師 結局、亡くなって解剖するまでは明確な原因が分からずじまいでした。解剖すると、鶏の卵以上の胆石が胆管に溜まっていました。人間なら痛みなどですぐに分かって治療できたと思うんですけど、馬で胆石ができること自体、JRAでも初めてと言っていました。

 これだけの大きさでしたから、何年も前から徐々に大きくなっていたんだろう、という話です。仮に胆石が分かったとしても、馬の場合は手術で取ることもできないですし、ここまで大きいと薬をやっても……。実際、胆石の薬を与えていましたが、全然効果はありませんでした。みんな、よくやってくれたんですけどね。

――医学の進歩が素晴らしすぎて、あらゆる病は治療できるんじゃないかと錯覚してしまいますが、そんな単純なものではないと改めて感じさせられます。携わったみなさんも全力を尽くされたことでしょう。ワグネリアンといえば、福永祐一騎手の悲願のダービー初制覇で、関係者のみなさんも涙なみだだったことが思い浮かびます。

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▲涙のダービー初制覇が印象深い福永祐一騎手とワグネリアンのコンビ(撮影:下野雄規)

友道師 福永騎手は東京にいたみたいなんですけど、夕方遅くに連絡したらすぐに駆けつけてくれて、6日の朝にお焼香をしてくれました。その後、私も供養をするため、神戸の馬頭観音に行きました。

日経新春杯出走、ヨーホーレイクは逞しく成長

――なかなか辛いニュースでしたが、競馬は続いていきます。4歳世代に目を向けると、皐月賞などであと一歩のレースを見せていたヨーホーレイクが1月16日の日経新春杯に出走予定とのことですね。

友道師 力は出しているんですけど、大きな馬で器用さがないので、なかなか上手く立ち回れずに位置取りが悪くなって届かずじまい、という競馬が続いています。日本ダービーはすごく状態が良かったんですけど、内で包まれて、直線はジグザグの競馬になりました。もう少しスムーズなら、差は詰まっていたんじゃないかと思います。

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▲昨年5月のダービー以来の復帰戦を迎えるヨーホーレイク(C)netkeiba.com

――秋にリベンジを、と期していたところ、神戸新聞杯、菊花賞と回避することとなりました。

友道師 神戸新聞杯は目の外傷で回避したんですけど、なかなか良くならなくて、菊花賞も間に合いませんでした。ただ、菊花賞は長距離で負担も大きいので、ぶっつけで使うレースでもないと思っていました。

――休養から帰ってきて、成長などは感じますか?

友道師 体が結構引き締まって、逞しくなったような気がします。3歳の時はそんなにレース数も使っていなくてダメージは残っていないので、その分ここからさらに成長してくれると思います。

――日経新春杯が久しぶりのレースとなりますが、状態はいかがですか?

友道師 1月6日に川田将雅騎手が乗って3頭併せを行いました。やっぱりまだ休み明けという感じで、この時点ではちょっと重たさがありましたけど、この追い切りで変わってくると思います。

――まずは始動戦をいい形で終えたいですね。

友道師 すごく久々になりますけど、ここでいい始動ができれば、今年一年楽しめると思います。日本ダービーは度外視して、それ以外はこの馬の力は十分発揮してくれていて、能力はあると感じています。中京コースはきさらぎ賞で2着。広いコースで、この馬にはいいと思います。

「ここが一番相性がいい」フライライクバードも日経新春杯へ

――日経新春杯にはもう1頭、フライライクバードも出走を予定しています。こちらはオープン昇級初戦となったアルゼンチン共和国杯でいきなり3着。

友道師 テンションが高い馬で使い詰めると良くないタイプで、休み明けの左回りで好走します。その点を考慮してアルゼンチン共和国杯に出走して好走したので、今回も一度放牧に出しての日経新春杯になります。この馬は中京の芝2200mが一番相性がいいんです。

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▲フライライクバードも順調に調整を行う(撮影:井内利彰)

――狙いすましたローテーションだったんですね。1月6日には先述のヨーホーレイクと3頭併せを行い、いい動きだったようですね。

友道師 元々、調教で動くタイプで、順調にきています。昨秋くらいから精神的にも落ち着きが出てきて、それに伴って成績も安定していると思います。この馬にとっては今回、一番いい条件だと思うので、またヨーホーレイクとは違った楽しみを持っています。

(文中敬称略)

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netkeiba特派員

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