【安田翔伍調教師】「キングオブコージはめちゃくちゃいい馬」名コンビ・横山典弘騎手とAJCCで復権へ!

2022年01月23日(日) 15:30

今週のface

▲AJCCに出走するキングオブコージと安田翔伍調教師(ユーザー提供:こーだいさん)

1勝クラスから4連勝で昨年の目黒記念を制覇したキングオブコージ。秋はジャパンカップを目指していたところ、右第1趾節種子骨を骨折していたことが判明し、1年近くの休養を余儀なくされました。復帰後は重賞で9着、5着と敗れたものの、前走はダメかと思われた展開から踏ん張ってのもので、今後に希望が持てました。

いい運を引き寄せると「日頃の行いがいいから」と言われますが、それに当てはまるのがキングオブコージ。コロナ禍で一昨年の春、人馬ともに東西間を行き来できなくなる直前に中山で勝利を挙げるなど、運を引き寄せる馬でもあります。

調教助手時代にはロードカナロアの調教を担当した安田翔伍調教師が厩舎開業1年目から携わるロードカナロア産駒。父と共通するイメージ、そして23日のAJCCに描くイメージを伺いました。

(取材・文=大恵陽子)

※このインタビューは電話取材で行いました

父ロードカナロア同様、時間をかけて良さが出る

――キングオブコージは安田翔伍調教師が技術調教師だった2017年のセレクトセール1歳で取引きされました。当時、セリで見てらっしゃいましたか?

安田翔伍調教師(以下、安田翔) 下見で見ていました。ロードカナロア産駒で、お父さんは早い時期からというイメージがなくて、時間をかけて良くなってきた印象がありました。キングオブコージも時間をかけて良さが出てきたら、僕の好きな体形に出るのかなと感じていました。

 増田和啓オーナーにはセレクトセールで初めてお会いしたのですが、カナロアがお好きだと伺っていたので、カナロアの記念品を持参したことを覚えています。当時は技術調教師で、馬を見る頭数もまだまだ少なかったですが、カナロアと重ねた時にそういうイメージだったので「僕は好きです」と話していて、落札後に「よかったですね」とお伝えしたところ、預託していただけることになりました。

――5戦目の芝1600mで初勝利を挙げ、1勝クラスを勝った時に初めて芝2000mを走りました。このタイミングで距離延長をした理由はなんですか?

安田翔 前週の芝1600mに登録していたんですけど、除外になってしまって、同じ距離は1カ月先しかないけどコンディションはいい、ということで、そこを選びました。調教に乗っていても短距離のスピードタイプではないと感じていましたし、それまで乗っていた岩田(康誠)さんも「(手綱を)抱えきれなくなると、緩さゆえにストライドがちょっと乱れてバラバラになります。(手綱を)持てれば持てるほど、良さそう」と聞いていたので、僕もどこかのタイミングで2000mを試したいと思っていました。

 出馬想定を見てジョッキーを決めようと思っていたところ、横山典弘騎手が空いていて、「僕のタイプの馬で、きっかけ次第で先々楽しめそうな馬がいるんですけど、乗ってもらえますか?」とお伝えしました。

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▲横山典弘騎手とは1勝クラスを勝って以降、コンビを組み続けている(ユーザー提供:あすりさん)

――いまや名コンビとなっていますが、偶然が重なってのコンビ結成だったんですね。

安田翔 キングオブコージはめちゃくちゃいい馬で、人間を信用していて、従順で優しい子です。日頃の行いがいいから、いい方向に導かれるのかな、と厩舎でも話しています。一昨年の春はコロナでオープンと障害レース以外は東西をまたいでの出走ができなくなりましたが、その直前に中山に遠征して勝ちましたし、ジョッキーに土日の移動制限がかかった時も、目黒記念は東京なので、関東の横山典騎手に乗ってもらうことができました。

――その目黒記念を制覇し、重賞ウィナーとなりました。

安田翔 1勝クラスから重賞まで連勝で、というのは簡単ではないと思うので、ハンデ戦とはいえ、重賞メンバーに入って能力を出せたことは評価しました。でも、まだ新馬の頃から感じている緩さは解消しきれていないので、まだ良くなるだろうと感じましたし、ジョッキーともそう話していました。

――そういった中で、この馬の長所はどこでしょうか?

安田翔 従順なところです。競走馬には一番求めたいところで、この馬は何をしても理解してくれます。たとえば、しっかり追い切った後、レースまであまりエキサイトしないよう、刺激を与えずにそーっと調教をすると、翌日にはオフになってくれています。

仕草の大切さ――横山典騎手からレース後の仕草を聞いて、ダートに転向した馬も

――秋は京都大賞典3着ののちに骨折。1年近い休養を経て復帰戦となった昨秋のオールカマーは9着でしたが、続く12月の中日新聞杯は直線も渋く伸びて5着と、見せ場があったように感じます。

安田翔 中日新聞杯はオールカマーに比べて一度使った感じは出ていましたけど、横山騎手に「休養前の連勝していた頃に比べると、まだ上昇を求める余地はあります」と話していました。そういう状態でも脚を使ってくれたら安心ですが、もしオールカマーみたいな競馬になってしまうと、怪我が影響していて将来への希望も小さくなってしまうのかな、と思っていました。

 レースは特殊なものになって、ペースが落ちた時に行きたがって、外枠で馬の後ろに入れられず3コーナーまで気負った走りになってしまいました。その時点で横山騎手は「最悪の展開だ……」と、最後はバタバタになることも覚悟したらしいんですけど、それでも直線は脚を使おうとして食い下がりました。上昇の余地を残していることを感じ取れて、負けた悔しさはありましたけど、まだ先々に楽しみを求めてもいいんだなと感じました。横山騎手は「もっと上手くリードしてあげたかった」と話していましたが、調教で感じた心配を見せなかったので、ホッとしました。

――AJCCに向けては1月13日にCWで併せ馬の1週前追い切りを行いました。ご自身で乗られたとのことですが、いかがでしたか?

安田翔 これまでは従順すぎてトボけているところがあるくらいで、普通キャンターで一切扶助を与えなかったら、坂路上までたどり着かないんじゃないか、というくらいおっとり走るんですけど、前走後からはしっかり抑えないと加速するような走りになりました。それが1週前追い切りにも出ていて、これまでは合図を出してようやく「あ、行くんですね?」くらいの馬だったのが「いつでも準備できていますっ!」という感じなんです。

――その前向きさはいい方に出るのか、良くない方に出るのか……

安田翔 横山騎手とは定期的に連絡を取っていて、ジョッキーは「やっぱり競走馬だから、いつまでも大人しいままということは考えられないだろうし、鞍上の指示に反抗して引っ掛かっているわけではなく前向きさが出ているだけだから、それくらいにならないといけないと思って、マイナスに捉えなくていいんじゃないか」と言っていました。

 ただ、僕たちはおっとりした状態でレースに向かう過程しか知らないので、素直に「いい変化」と受け入れていいのか、は考えどころです。だからといって、AJCCで2200mずっと引っ掛かり通しになるというものじゃないんですけど、このままいくのか、なだめるのかなど、馬の仕草を見て判断したいと思います。

――仕草も重要なポイントになるんですね。

安田翔 レースでもそうで、僕の中ではレース前の仕草も大きな要素です。レース自体は「こういう印象でしたけど、どうでしたか?」とジョッキーに聞くと、多少一致しますが、レース前や後の軽い運動では乗っている人にしか伝わらない部分があります。それを横山騎手はすごく丁寧に教えてくれるので、横山騎手とレースに臨めるというのはアドバンテージです。

 先日、ダートで初勝利を挙げたトゥーレツリーも、芝の新馬戦3着だった時に「引き上げてくる時、ダートの走りは芝より地面の捕まえ方が上手だった」とか「まだレース後、こういう仕草をしているから、芝だと走りきれないのかな」といった意見をもらえたので、ダートという選択肢を得られました。

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▲キングオブコージの仕草、横山典弘騎手からの意見をもとに巻き返しなるか(撮影:下野雄規)

――仕草から、その馬の可能性が広がっていくんですね。キングオブコージもAJCCではそういった点を中心にご覧になられるのでしょうか。

安田翔 復帰戦のオールカマーが初めて輸送で減ってしまったので、今回もそうなるのかもですし、馬場に入ってから返し馬に行くまでの仕草が特に重要だと思うので、それを見て、レース後はジョッキーとも相談して今後のプランを考えていきたいと思います。

(文中敬称略)

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netkeiba特派員

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