【丸田恭介騎手】デビューから16年…GIジョッキーになって変わった想い

2022年04月17日(日) 18:02

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高松宮記念を師弟コンビで制した丸田恭介騎手(C)netkeiba.com

今年の高松宮記念をナランフレグで優勝し、GIジョッキーの仲間入りを果たした丸田恭介騎手。GIを制したことで、自身の心境にもある変化が。悲願の瞬間を振り返っていただきました。また福島牝馬Sでコンビを組むホウオウエミーズについてもお話をうかがいました。

(取材・文=佐々木祥恵)

ウイニングランをしたんですけど…間違っていたら恥ずかしいなと(笑)

──デビューから16年目、ついにGIジョッキーになりましたが、レース前から自信はありましたか?

丸田 勝つならここではないかと思っていました。

──同郷(北海道旭川市)のよしみで、デビューの頃から応援しながらレースを観ていましたけど、あの頃はコーナリングに苦労していましたよね? それが内を回って狭いところを抜けてGIを勝つとは…。

丸田 よく知ってますね(笑)。僕、あの頃はコーナーをちゃんと回れなかったですから。感慨深いでしょ(笑)。

──感慨深いですねー。それにしても、ナランフレグも根性ありますよね?

丸田 本当に、逞しいし、頼もしいです。

──GIの大舞台であのレースができたことにも感動しました。

丸田 半年ほど前の新潟の朱鷺S(10着)では少しひるんで馬の間に入っていけなかったんです。でも馬と一緒に経験を積んで、12月の阪神のタンザナイトS(1着)では、道中は内を進んで、直線では馬群の真ん中をひるまずに捌いて勝つことができたのはすごいなと思いました。

──経験を積んできたことが花開いたわけですね。

丸田 高松宮記念はインを突きというのが頭にありましたし、そろそろGIを勝ちたいと思っていたので、隙はあるのではないかと思っていました。

──しかも絶好の内枠を引きましたね。

丸田 そうなんですけど、緊張するんですよね。これだけ脚のある馬で詰まりたくないという気持ちに当然なりますからね。でもここで勝負にいかなかったら後悔しますから。勝ったから言えるというのもありますけど、振り返ってみても馬と一緒に経験を積むことができたというのが1番大きいです。

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「馬と一緒に経験を積むことができたのが1番大きい」(C)netkeiba.com

──継続して騎乗していますね?

丸田 オーナーや先生が、うまくいかなかった時も我慢して乗せてくれたという継続騎乗の強みがそのまま出たので、とてもありがたかったです。

──それが馬も人も大きなタイトルに繋がったといえますね。

丸田 はい。積み上げてきたものが実る瞬間というのはこういうことなんだなというのを、身を以って経験させてもらいましたし、馬もそれに応えてくれました。

──ゴール板をトップで通過した瞬間はどんな感じでしたか?

丸田 まるで新人ジョッキーみたいでした。勝ったということを何となく理解はしているのですが、本当に勝ったのかどうかがわからないという感覚でした。こんなフワフワした感じで乗ることなんて、ここのところはまずなかったですから。ウイニングランをしたんですけど、勝ったと思ったのが間違っているんじゃないか、間違っていたら恥ずかしいなと(笑)。

──僅差ではあったけど、確実に勝ったとわかるくらい前に出ていましたけどね。

丸田 普段なら余裕で勝ったとわかるレースですけど、舞い上がって少し錯乱してたという感じですかね。あとでVTRを観たらガッツポーズしているんですよ。体は勝ったと理解していたのでしょうけど、頭が追いついていなかったのだと思います。

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ゴールした瞬間は頭が追いつかず…VTRを観て、ガッツポーズをしてたことを知る(C)netkeiba.com

──師匠である宗像先生とはどんな言葉を交わしましたか?

丸田 レース後は、インタビューや表彰式などで時間がなくてほとんど話をしていないんです。火曜日は先生がトレセンにいなかったので、水曜日に改めて挨拶しに行ったら「本当に良かった」というような会話でしたけど、先生も嬉しそうでした。何とか(宗像厩舎で)重賞をと思っていたのですけど、先生と一緒に大きいタイトルを掴めて僕も嬉しかったですし、やっと恩返しができた気持ちにもなりました。

──GIを制して自分の中で変わったことはありますか?

丸田 “また(GIを)勝ちたい”と思っているということです。

──それはナランフレグに限らず、他の馬でもということですよね?

丸田 ナランフレグとも勝ちたいですよ。賞金も加算できましたし、いろいろな可能性を見出していけたらいいなと思っています。それと今回勝ったことで、GIの舞台で勝つのはどういう馬なのかという物差しが1つできました。それこそまだサンプルは1つですけど、それがあるとないとでは全く違うという気はしています。

 あとはいろいろな人に支えられて騎手をやっているというのを実感したことですね。先ほど話した継続して騎乗させてもらえたのもそうですし、お祝いの連絡を本当にたくさんの人からいただきました。それだけ応援してもらっているんだなというのを改めて感じました。

──騎手として最も大切にしていることは何でしょうか?

丸田 馬に対して、僕の意見だけではなくてオーナーや先生にも考えがあるでしょうから、コミュニケーションをしっかり取って、皆が同じ方向を向いて頑張っていきたいですし、馬を良くしていってできるだけ長く走り続けていけるようなお手伝いといいますか、騎乗をしていきたいということです。あとは馬も苦しいことをやりますから、いやだという気持ちではない方向に持っていけたらいいなと思ってはいます。

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“皆が同じ方向を向いて頑張っていきたい!”(C)netkeiba.com

ホウオウエミーズと挑む福島牝馬S

──さて今週末は、福島牝馬Sですが、コンビを組むホウオウエミーズはどのような馬ですか?

丸田 ゲートが悪かったので、それをどうにかしたいということで依頼されました、別の厩舎ですけど、ホウオウイクセルに乗せていただいていたご縁で、オーナーサイドから依頼を受けました。すごく賢い馬ですね。

──どういうところに賢さを感じますか?

丸田 調教で自分のやるべきことがよくわかっています。ウォーミングアップと追い切りをちゃんと理解しています。何となくわかっているなと感じる馬は結構いますけど、この馬はさぼるところはちゃんとさぼるし、行けと言ったらちゃんと行きますし、強い追い切りをしても嫌がったりしません。

──ゲートに関してはどうなったのですか?

丸田 結論から言うと僕はほとんど何もしていないです(笑)。厩舎の方々の努力が実って、ゲートも安定してきました。僕はゲートを出ない理由を考えて…。単にゲート内での態勢が悪くて、態勢が良くなったら出るのかなと最初は考えたのですけど、ちょっと違いました。今は態勢が悪い立ち方になるのは仕方ないという前提でやっています。態勢は悪いけどいざ出るよという時に、パンとスイッチが入って出られるような工夫はしています。

──丸田騎手が乗り出した当時と比べて成長した点はありますか?

丸田 以前は背腰が頼りなかったのですけど、そのあたりのバランスが少し良くなってきています。追い切りも動くようになってきていますので、本格化してきているのではないでしょうか。前走はゲートも出て、逃げ馬の後ろくらいのポジションを取れましたから立派ですよね。

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好位でレースを進めた前走のスピカS(撮影:小金井邦祥)

──レース映像では、道中無駄な力を使わないように見えます。

丸田 いつもそうです。とても乗りやすい馬なんです。

──課題だったゲートも前走を見る限り不安はなくなりましたか?

丸田 やはりまだできない時もあるんですよ。中山は見た目の雰囲気なのか、競馬場のルーティンに慣れているのか、正直わからないですけど、中山はうまくいっています。ただ阪神のマーメイドSと中京の愛知杯はあまり良くなかったです。ゲートに入った時の最初の雰囲気が違うんですよね。

──今回は福島ですけど、対策は考えてますか?

丸田 見た目や雰囲気でいえば、返し馬に出る場所が変わるとはいえ、一応スタートがスタンド前というのは似ていますから、馬が納得してくれないかなと思うところはありますね。ゲートに関しては、どこの競馬場でも中山のように良い精神状態の日が増えてくれればいいと思っています。賢くて落ち着いた精神の持ち主なんですけど、ゲートは嫌なのでしょうね。それでも前よりは克服してくれていますので、今の段階でも十分褒めるべきというか、偉いなと思います。

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ホウオウエミーズは“賢くて落ち着いた精神の持ち主”(撮影:小金井邦祥)

──道悪でも好走していますが、どんな馬場状態でもこなせる馬ですか?

丸田 道悪の鬼です。悪いほうがいいです。良馬場でも上がりの脚はちゃんと使って、中山でも34秒台で安定していますけど、周りも脚を使っていますからね。もし上位の馬との能力差があった場合、道悪になるとその差を埋められるという感じがします。あるいはこの馬が他の馬より能力が上だったら、道悪になるともっと他馬を突き放せることもあると思います。

──それでは福島牝馬Sに向けての意気込みを。

丸田 格上挑戦するわけですから、当然厩舎やオーナーの期待もあるでしょうし、池上先生の初重賞もかかっています。この馬に続けて乗せてもらっている時に一緒に喜びたいですね。

──最後に今後の騎手人生についての意気込みもお願いします。

丸田 馬をより良く走らせることや、勝つことに対して、淡々と努力し続けていきたいです。結果がものをいう世界ですし、あちこちブレたくなりますけど、目指していく先、目的、ゴールを見失わないように、きちんと目標を設定してそこに向かって淡々と頑張っていければと思っています。目標というのは僕自身のではなくて、依頼を受けた馬一頭一頭の目標設定です。

 成績の良いジョッキーに良い馬が集まるのは当然ですし、僕が成績的に足りていないのは自覚していますけど、今の僕にも依頼をしてくださって、乗る馬がいるという環境はすごく幸せです。依頼いただいた一頭一頭に真っ直ぐ向き合って、良い成績を出すための工夫をずっと続けていきたいですし、それで精度が上がって勝ち星が増えれば、騎乗依頼も増えると考えています。今までこれだけ騎手をやってきてうまくいっていないという背景がありますので、簡単ではないと思いますが、それでも依頼をいただいた馬と真摯に向き合って、やるべきことをひとつひとつしっかりこなし、成績も出して、オーナーや先生、厩舎スタッフに何かが届いて…ということを繰り返していければ、もっと上がっていけると思っています。

(文中敬称略)

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