ジャックドールと制した札幌記念を緊急回顧!「最後はさすがにステッキを使って…」壮絶な叩き合いを鮮明に語る

2022年08月24日(水) 18:01

“with佑”

▲ジャックドールで制した札幌記念を緊急回顧!(撮影:高橋正和)

21日札幌競馬場で行われた、GII札幌記念。藤岡佑介騎手騎乗のジャックドールが逃げ粘るパンサラッサを捕え切り、見事2つ目の重賞タイトルを獲得しました。佑介騎手にとっても同馬で制した金鯱賞、ピースオブエイトで制した毎日杯に続く今年の重賞3勝目となりました。

今回はそんな札幌記念の緊急回顧を実施! 戦前から意識していたのはやはりパンサラッサだったようで、「とにかくどこでもいいから…」と唯一願っていた枠の並びがあったそう…。函館に来たことで変化があったという中間の様子から手に汗握る直線までを振り返り、秋の目標である天皇賞・秋への展望までじっくり語ります。

そして最後に、佑介騎手から札幌競馬場へ来場されたファンの皆様へ謝りたいことがあるようで…?

(取材・構成=不破由妃子)

※丹内祐次騎手との対談第2回は明日25日(木)公開予定です。

「ジャックドールには藤岡佑介だな」と思ってもらえるよう

──札幌記念は、スーパーGIIの異名に相応しい非常に見応えのあるレースでした。久々にガッツポーズも飛び出して。

佑介 ガッツポーズなんて、全然するつもりはなかったんですけどね。思わず出てしまいました(笑)。

──さっそくレースを振り返っていきたいのですが、同型のパンサラッサ、そのパンサラッサと同じ厩舎のユニコーンライオン、さらに前で競馬をするであろうソダシがいて。やはり何パターンもの展開を頭のなかに用意して挑まれたんですか?

佑介 何パターンもというか、とにかくどこでもいいからパンサラッサより外枠が欲しいと思っていました。

──そこにはどんな狙いが?

佑介 最終的にはパンサラッサを行かせるにしても、宝塚記念のタイトルホルダーのように、まずは自分が前に出て、外から被せられるような形で行かれる展開は避けたかったんです。たぶんジャックのほうがスタートは速いだろうなと思っていたから、パンサラッサより先に出て、ちょっと内を開けている形で待っていたかった。

“with佑”

▲パンサラッサより外枠が欲しい(撮影:高橋正和)

──実際はその前にユニコーンライオンが外からきたわけですが、ユニコーンライオンの動きについては、どんな想定をしていた?

佑介 番手を取りにくるのは想定内でしたが、もっとペースを落としてくるかと思っていました。ペースを落とされた状態で、ユニコーンライオンの外から動いていく展開になるのは嫌だなと思っていたんですけど、思ったより流れに乗ったまま1コーナーに入っていってくれたので、こちらも無駄にブレーキを掛けることもなく、非常にいいリズムで最初のコーナーに入れましたね。

──最初の1ハロン目が12秒6で、2ハロン目のラップが10秒9。流れが変わったところでも、しっかりジャックドールのリズムを守っていたのが印象的です。

佑介 これまでずっとジャックとコンビを組ませてもらってきて、その変化もつぶさに感じてきたなかで、どういう入り方が理想的かは自分のなかにあるので。今回は、期待した以上にピタッとハマってくれたから、最初のコーナーの時点で「これなら!」と思いました。

──間違いなく、そこの入り方も勝因のひとつですね。あとは、レース後のインタビューでも勝因として挙げていらっしゃいましたが、道中の折り合い。そのあたり、中間から変化を感じていたんですか?

佑介 函館にきたことで、普段の乗り手が違う人に替わったこともあって、フォームも少し変わったりして。頭の位置を起こす方向に持っていったから、道中のリラックス度合いは高まるかもしれないけど、逆にずっと手応えがないままになってしまわないか、追ってどれくらい伸びてくれるのかというのは、正直、走ってみなければわからないところがありました。でも、終始ほどよい前進気勢で、追走も楽だったので、今回はいいほうに出たと思います。

──普段の乗り手が替わるというのは、馬にとってとても大きなことでは?

佑介 すごく賢くて適応力のある馬なので、作り手の変化にも敏感なところはあります。ただ、どういうバランスで走らせるのがベストかは、レースのペースやコース形態によって求めるものが変わってくるので、そこはチームでずっとやってきている強味が生きる部分。これからもみんなで相談しながらベストを探していけるというのは、僕としても心強く思っています。

“with佑”

▲札幌記念1週前の函館競馬場での様子(撮影:山中博喜)

──レースに話は戻りますが、直線入り口で並びかけられたパンサラッサが、まさかあんなにしぶといとは。

佑介 僕もね、まさかあんなに抵抗されるとは思っていませんでした。というのも、3コーナーでのほかの馬との手応えの比較と、そこまでの全体のペースを考えても、4コーナーの時点で「前は捕まえられるな」という感じだったので。あとはソダシだなと思って、4コーナーを回るときに一度左後ろを確認して、大丈夫そうだなと思って追い出したんですけどね。

──パンサラッサの手応えも含め、私も4コーナーで「これは勝負あったな」と。

佑介 直線に向いたあたりは、けっこう冷静に追っていたんですけど、パンサラッサが粘るどころか、ちょっと差し返されそうになったから、最後はさすがにステッキを使って。交わさせなかったジャックも相当強かったわけですが、同時に「パンサラッサ、強い!」と思いましたよ。ゴールした直後、吉田豊さんとも「お互いに強いっすねぇ」という話をして。

──いやぁ、まさに手に汗握る直線でしたよ。すごくいいレースでした。

佑介 これだけの強い馬に乗せてもらっている以上は、見ている人に「ジャックドールには藤岡佑介だな」と思ってもらえるような競馬をしなければと思っていました。そういう意味では、上手く呼吸を合わせてレースができて、すごくよかったなと思っています。

“with佑”

▲「ジャックドールには藤岡佑介だな」と思ってもらえるような競馬を(撮影:高橋正和)

──メンバーもそうですが、札幌記念といえば、秋のGIに向けてすごく大事な一戦。普段とは違う緊張もあったのでは?

佑介 夏競馬に入ってからは、「この夏はここを勝ちたい」という思いがずっとあったので、準備をしっかりしてきたぶん、変な気負いはなかったです。緊張感というよりは、この馬がいてくれることで、毎日に張りがあります。常に「どういうふうに乗ろうかな」とか、「次にこういうレースをするとしたら、こんなことをしてみたい」とか、いろんなことを考えたりして。すごくいいモチベーションですよ。

──今回の勝利に関しては、さすがに先生(藤岡健一調教師)からもお褒めの言葉があったのでは?

佑介 「よう勝ち切った。ようやった」と言ってくれました。その前に、オーナーから「今回は上手に乗ってくれた!」と、すごく褒めていただいたんです。なんか最初にそうやってオーナーに褒めてもらって、すごくうれしかったです。

──次はいよいよ天皇賞・秋。今回、折り合いに進境があり、控える競馬で結果を出し、選択肢が広がったなかでの大一番。力が入りますね。

佑介 はい。今回もレース前に逃げるとか逃げないとかいろいろな意見がありましたけど、この馬の持ち味は、平均的にほかの馬より大きく飛べて、なおかつその速いスピードを維持できること。その速いところから、さらにひとつ加速できるギアを持っているところなんです。

 今回もパンサラッサのように「粘る」という表現が合うようなレース展開だったはずなんですけど、乗っている感覚としては、4コーナーを回ったところで少しギアが上がってるんですよね。結局、そこでもうひとつギアを上げられたぶん、最後に少しパンサラッサより前に出ることができた。そこは本当に大きな武器だと思っています。その強味をどう生かすかは、ジョッキー次第なんですけどね。

“with佑”

▲最後にもう一つギアを上げられることが強み(撮影:高橋正和)

──今までそういった武器を持っている馬には出会っていない?

佑介 そうですね。これまでのキャリアのなかでも、なかなか巡り合ったことのないレベルの馬です。そういったなかで、札幌記念でいいレースができて、目標である秋のGIに向かっていけるというのは、ジョッキーとしてすごく幸せなこと。だからこそ、これまでの経験や、たくさん失敗してきたことを糧にしたい。そこで結果を出せるかどうかは、僕のジョッキー人生のなかでもハイライトになる……それくらいの気持ちはあります。

──今回の札幌記念では3番人気でしたが、もうひとつ、あるいはふたつ、評価を上げての本番になるかもしれませんね。

佑介 もともとジャックドールは、すごく人気のある馬ですからね。でもね、今回はちょっと一部ファンの方に謝りたいことがあって…。

──謝りたいこと?

佑介 札幌記念当日は、抽選とはいえ2万人のお客さんが入っていて、パンサラッサとお互いに持ち味を出し切って、すごくいいレースだったじゃないですか。だから思わずガッツポーズも出たし、場内の盛り上がりを見て、戻ってきたときにスタンドに向かってもう一度ガッツポーズをしたんです。で、そこでさらにワーッと盛り上がると思ったら、思ったほどではなくて(笑)。

──あ、ソダシ…。

佑介 そうなんですよ。よく考えたら、おそらく半分くらいのお客さんは、ソダシを応援しにきたんだよなとそこで気づいて。さすがアイドルホースだなと思いつつ、ちょっと恥ずかしかった(笑)。ソダシを応援しにきて、ちょっとガックリきているところに、僕のはしゃぎっぷりを見て「なんだよ、あいつ」と思った方、空気を読めずにすみませんでした(苦笑)。

(文中敬称略)

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「with 佑」とは

JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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