2022年10月31日(月) 18:00
▲昨年のジャパンカップ(撮影:下野雄規)
本稿の更新は10月31日。第42回ジャパンCまであと4週を切った。今年の残った世界の主要国際競走はブリーダーズカップ(BC=11月4、5日)とジャパンC、12月の香港国際競走を残すだけとなった。芝2400m路線で言えば、BCターフ、ジャパンC、香港ヴァーズの3戦が行われる。
この路線を主戦場とし、まだ休養に入っていない各馬の陣営は、様々な要素を考慮して、ここから1つないし2つを選ぶことになる。ジャパンCは近年、外国馬の参戦が減った結果、存在感の薄さが叫ばれるが、今年は東京競馬場内に新設された国際厩舎の供用が始まり、現状打開にどの程度のインパクトを与えるかが注目される。
ジャパンCの存在感の低下には、様々な要因があった。前後にBCや香港国際競走が「後出し」の形で出現した一方、日本馬の競争力も向上し、簡単に勝てなくなったことが何より大きい。勝てないとなると、様々な周辺的事情がマイナス要因としてより浮上してくる。帯同馬が参戦できるようなアンダーカードがない点や馬場の堅さなどだが、検疫問題もこうした周辺的なマイナス要因の1つだった。
東京で施行されるジャパンCの場合、従来は外国馬が日本に着くとまず、JRA競馬学校(千葉県白井市)で7日間の検疫を済ませて東京に移動。東京で「着地検査」を受けながら競走を迎える。
関西圏では11月13日のエリザベス女王杯(阪神)にマジカルラグーン(アイルランド=アイリッシュオークス優勝)が、18年宝塚記念のワーザー(香港)以来、約4年4カ月ぶりに出走予定で、同馬は兵庫県三木市の三木ホースランドで入国検疫後、阪神に入る。香港を除けば、10時間以上のフライトが必要な日本で、入国後も短期間に2度の移動を強いられる点が、負担となることは確かだった。
だが、東京に関しては、10月から競馬場直接入厩が可能になった。農水省は10月1日付で東京競馬場の新国際厩舎を輸出入検査施設として承認。今後、東京の重賞やリステッドに出走する外国馬は使用可能となるが、実際の供用第1号はジャパンCとなる見通しだ。
▲新設された国際厩舎(c)netkeiba.com
こうした措置が可能になったのは、1年延期の末にほぼ無観客で行われた東京五輪・パラリンピック(以下オリパラ)のいわば置き土産である。オリパラの馬術競技は、1つ前の東京五輪(1964年)以来となる国内開催の大規模馬術競技会で、前回、各国からどのように競技馬を受け入れたかを直接知る人もいないに等しい状況だった。
近年の夏季五輪で馬術競技と言えば、競技馬の受け入れと検疫問題の複雑さから、開催地にとってはお荷物のような存在だった。08年北京大会では、馬術だけを香港のシャティン競馬場に移して行った。
動物防疫の枠組みは、基本的に輸出国と輸入国が2国間協定を締結して定めるが、五輪は参加国が多いため、状況は複雑化する。いちいち協定を締結するだけでも、途方もない時間と労力が割かれる。
新たな基準は、競走馬・競技馬を基本的に健康度の高い個体と位置づけた上で、馬の送り出し地と移動先(競馬場、競技会場)の双方を、馬の伝染性疾患のない(安全な)区域に指定する。区域指定には厳格な条件が課されるが、条件を満たせば、両区域間を移動する際には検疫手順が簡略化される。
こうした考え方が競馬界で共有されたのは18年12月の「ウマ科学会」公開シンポジウムの席上だった。後のコロナ禍では、「伝染性疾患のない区域」を意味する「バブル」の考え方が、止まっていた人間のスポーツ競技会再開の際に援用された。
シンポジウムでは、・・・
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野元賢一
1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。
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