入場料4000円以上払ったのに… 出走取消が相次ぎ物議呼ぶ

2022年11月23日(水) 12:00

自然現象ゆえに仕方ない一面はあるが

 先週の土曜日(11月19日)に英国のアスコット競馬場で起きた出来事が、競馬サークルでおおいに物議をかもしている。

 この日のアスコットでは、ハードルが3鞍、スティープルチェイスが3鞍、ナショナルハントフラットが1鞍の、合計7競走が編成されていたが、最も大きな注目を集めていたのは、第5競走に組まれていたG2アスコットハードルだった。というのも、ニッキー・ヘンダーソン厩舎のコンスティテューションヒル(セン5)が、今季の始動戦にここを選択したのである。

 昨シーズンにハードルデビューしたコンスティテューションヒルは、デビュー戦となったサンダウンのノーヴィスハードルを14馬身差で制すると、続くサンダウンのG1トルワースノーヴィスハードルを12馬身差で、チェルトナムのG1シュプリームノーヴィスハードルを22馬身差で圧勝。ハードル界の次世代を担う超新星として、大きな期待を寄せられているのがコンスティテューションヒルだ。

 ハードル2マイル路線には、21年・22年と連覇しているG1チャンピオンハードルを含めて、16戦16勝の成績を残しているハニーサックル(牝8)という絶対的女王がいて、コンスティテューションヒルとハニーサックルの直接対決は、今季の障害シーズンにおける最大の見どころと言われている。

 そのコンスティテューションヒルが今季初めて出走するとあって、19日のアスコット開催は大きな盛り上がりが期待されていたのだが、ファンは思わぬ肩透かしを食らうことになった。

 当日の朝、コンスティテューションヒルが出走を取り消したのである。理由は、「馬場が硬く、この馬には向かない」というものだった。

 アスコットでは前日(18日)にも開催があって、ここにヘンダーソン厩舎から7頭の出走馬があり、このうちクラス2のハードル戦に出走したパージアンタイム(セン4)が、勝利を収めていた。

 その18日のアスコットの馬場発表は、Good to Soft, Good in places(稍重、ところにより良)だった。その後、前日の夜に雨は降らず、19日の馬場発表はGood, Good to Soft in places(良、ところにより稍重)と、1段階乾いたものとなった。これを受けて、当日朝にヘンダーソン調教師が馬場を歩いた上で、「ファンに皆さんには大変申し訳ないが」としながらも、コンスティテューションヒルの出走取消を決めたのだった。

 この時季の英国で「馬場が硬い」というのは、にわかには信じがたい話だが、今年の英国が春から異常気象だったことは確かである。春から夏にかけて極端に雨が少なく、水不足が懸念され、節水要請が出された結果、ニューマーケットのヒースでも思い通りの散水が出来なくなり、使用できるコースが限られるという異例の事態となった。

 アスコットの馬場造園責任者のクリス・スティッケル氏も、「11月に馬場がこれだけ水捌けのよい状態になったのは、私の記憶にない」とコメント。実はアスコット競馬場があるエリアには、先週の半ばに41ミリの降雨があったのだが、ここで一旦は湿った馬場があっと言う間に乾き、週末の開催へ向けて散水しなくてはならなくなったそうだ。スティッケル氏は、「夏場の乾いた天気の影響が、現在も残っているようだ」と分析している。

 そういう馬場だったがゆえ、取り消したのはコンスティテューションヒルだけでなく、例えば、第2競走に組まれていたノーヴィスチェイスは、出馬投票を行っていた5頭のうち4頭が出走を取り消し、残ったミランブリッジ(セン6)によるウォークオーヴァー(単走)となってしまった。アスコットでウォークオーヴァーが発生したのは、1983年1月以来、実に39年ぶりのことだったという。

 アスコットハードル以外に編成されていたもう1つの重賞のG2・1965チェイスも、登録していた5頭のうち3頭が取り消して2頭立てになるなど、組まれていた7レースに出走した馬の総数は30頭で、1レース平均が4.3頭立てという、非常に寂しい開催となったのだった。

 この日、いわゆる当日券として発売されていた中で、最安値だったのは、クイーンアン・エンクロージャーに入場出来る25ポンド(約4250円)のチケットで、この日の開催を興行として見た時、観客が払った対価に相応しい内容だったとは言えないのではないか、との批判の声が、メディアの一部から上がったのである。

 天候という、人間が手の施しようがない自然現象にそっぽを向かれ、アスコットにとっては不運だったという見方もあるが、この問題は今後しばらく議論の的となりそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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