牝馬セッションは当歳馬セールを超える大盛況 タタソールズ・ディセンバーセール

2022年12月07日(水) 12:00

上場頭数が減りながら全ての指標で昨年を上回る

 先週のこのコラムで、英国のニューマーケットを舞台に行われた当歳馬セールがおおいに活況だったことをお伝えしたが、これをさらに上回る、かつて経験したことのないほど沸騰したマーケットが展開されたのが、11月28日から12月1日まで、同じ英国のニューマーケットで開催された、「タタソールズ・ディセンバーセール・牝馬セッション」だった。

 上場頭数が前年より12%ほど少なかったにも拘わらず、総売り上げは前年比29.5%アップの8083万1200ギニーをマーク。平均価格の11万7147ギニーは、前年比でなんと47.9%のアップ。中間価格も前年比23.1%アップの3万2000ギニーで、この主要3指標はいずれもこのセールにおける歴代最高値となった。さらに主取り率も、前年の18.3%が今年は18.1%に向上。超アクティブにしてヘルシーなマーケットとなった。

 長い伝統を誇るこのセールだが、今年はフォーマットに変革が加えられた。初日の上場番号1611番から1638番、2日目の上場番号1855番から1924番に、ことさら上質な牝馬たちを並べ、20世紀初頭の英国に出現した歴史的名牝の名を冠して「セプター・セッション」として開催したのだが、この戦略が図に当たった。ことに凄まじい破壊力を発揮したのが2日目のセプター・セッションで、11頭もの100万ギニー超えが誕生。

 この日の総売り上げは、1日の金額としては史上初めて5000万ギニーの大台を突破し、5400万5000ギニー(約96億3989万円)をマークすることになった。こうしたトップエンドの価格帯における好調が、市場全体に波及し、どの価格帯のマーケットもおしなべて強いセールになったと分析されている。最高価格馬は事前の予測通り、上場番号1904番として登場したアルコールフリー(牝4)だった。2歳時にG1チェヴァリーパークS(芝6F)、3歳時にG1コロネーションS(芝7F213y)とG1サセックスS(芝8F)、4歳となった今季にG1ジュライC(芝6F)を制している、現役屈指の女傑がアルコールフリーである。

 激しい争奪戦の末に、最後はクールモアのM.V.マグナー氏と、ユーロン・インヴェストメント社の代理人を務めるBBAアイルランドのマイケル・ドノホー氏の一騎打ちとなり、最後はドノホー氏が540万ギニー(約9億6390万円)で購買に成功した。この金額は、2017年のこのセールにおける最高価格馬マーシャの600万ギニーに次ぐ、セール歴代2番目の価格だった。ユーロン・インヴェストメント社は、日本でも現役馬を所有している他、11月のGIエリザベス女王杯(芝2200m)に愛国調教馬マジカルラグーン(牝3)を出走させた、張月勝氏の競馬組織である。

 セール後、アルコールフリーが今後は、オーストラリアに移籍して現役を続ける方針であることが、新馬主から発表されている。360万ギニー(約6億4260万円)という、セッション2番目の高値で購買されたのが、上場番号1878番として登場したサフロンビーチ(牝4)だった。

 3歳時にG1サンチャリットS(芝8F)、4歳になった今季にG1ロートシルト賞(芝1600m)を制している同馬。最後は日本のノーザンファームとサウジアラビアのナジド・スタッドによる一騎打ちとなり、最終的には後者が購買に成功した。サフロンビーチは、12月11日に行われるG1香港マイル(芝1600m)の招待を受諾していたが、新馬主の意向で来春のG1サウジC(d1800m)を目指すことになり、香港マイルの出走回避が発表されている。

 サフロンビーチではアンダービダーだったノーザンファームが購買に成功したのが、上場番号1924B番として、2日目のセプターセッション最終版に登場したザプラチナムクイーン(牝2)だった。2歳馬ながら、古馬を相手にG1アベイユドロンシャン賞(芝1000m)を制し、G1ナンソープS(芝5F)で2着となっている同馬。購買価格は120万ギニー(約2億1420万円)だった。いずれはノーザンファームで繁殖入りすることになる同馬だが、3歳となる来年は現役で走る予定。

 ただし、どこで走るかなど、詳細はこれから決定されることになる。このディセンバーセール・牝馬セッションをもって、タタソールズ社が2022年にニューマーケットで催すセールは終了することになった。同社の年間売り上げは、過去最高だった2017年の3億3100万ギニーを大きく上回る、4億ギニーに到達。2022年の競走馬市場が極めて活発だったことが、改めて証明されている。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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