【五十嵐忠男調教師】“栗東のアイドル”ウインマイティー 人懐っこい彼女の周りにはいつも人だかりが!?

2023年02月05日(日) 18:01

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▲ウインマイティーを京都記念へ送り出す五十嵐忠男調教師(c)netkeiba.com

いま栗東トレセンで最も人だかりができる1頭であるウインマイティー。スタンド前の広場に姿を現すと、騎手が撫でに来たり、記者はスマホやカメラ片手に集まります。その理由は、彼女の人懐っこさと大人しさ。しかしながら、2020年秋華賞の勝負所で他馬と接触して以来、馬を怖がるようになり、思うように結果を残せずにいました。それでも彼女の能力を信じる陣営は試行錯誤を繰り返し、昨夏にはマーメイドSで重賞初制覇。前走・有馬記念の走りを見て「完全に戻った」と確信を得て、京都記念へと臨みます。

管理する五十嵐忠男調教師は定年のため今月末で引退。大逃げが印象的だったテイエムプリキュアのことなどこれまでのホースマン人生についても振り返っていただきました。

(取材・構成:大恵陽子)

「カメラを向けるとポーズを取る」栗東のアイドル

──昨年の有馬記念6着だったウインマイティーはファンの多い馬だと聞きますが、五十嵐調教師の元にもその声は届いていますか?

五十嵐 結構ファンは多いですよね。ファンレターがよく送られてきます。一緒にお守りや人形、こないだはカイロも送っていただきました。担当者に使ってくださいって意味だと思います。

──先月の大雪が1週間以上経ってもまだ残っているくらい寒いですから嬉しいですね。トレセンでもウインマイティーはアイドルです。

五十嵐 写真を撮ろうとカメラを向けるとポーズを取るんです。分かっているんじゃないかな。じーっとして動かないですし、人が好きなのかもしれないですね。

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▲ウインマイティーとじゃれ合う荻野極騎手(撮影:大恵陽子)

──ウインマイティーがスタンド付近に来ると、どこからともなく騎手や記者が集まって撮影会が始まることもありますね。一方で、秋華賞の3〜4コーナーではゴチャついて他馬との接触などもあったようで、そこから馬が怖くなったとか?

五十嵐 それが原因か何かで馬を怖がるようになりました。そこから時間がかかったけど、やっと復活してくれましたね。

──牝馬は特に立て直しが難しい印象ですけど、どんな工夫をしたんですか?

五十嵐 その時々によって、よかれと思うことに色々と取り組みました。プール調教とか、ポリトラックコースで乗るとか試行錯誤で、それらが上手くいったかどうかは分からないけど、最終的には馬の精神力が一番大きいやろうね。

──ウインマイティーにとって何が最適解かは試してみないと分からない中、いい方向に進んだことは大きいですね。ポリトラックコースを使うのは馬が少ないからですか?

五十嵐 それもありますし、やればやるだけ動く馬だから、Cウッドコースだとやりすぎることもあって、一時的にすくむ時もあったんです。

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▲トレセンでの取材に応じるウインマイティー(撮影:大恵陽子)

──昨年5月、東京のメトロポリタンS(4着)で逃げたことも起爆剤の一つになったのかな、と感じました。

五十嵐 あの頃は「なるべく揉まれない競馬をしてほしい」と騎手に伝えていましたが、位置取りは任せていました。たまたまスタートを決めて馬が自分から行きたがったので、無理に抑えることもないだろう、と逃げる競馬になりました。こういう競馬もできるんだ、と分かりましたね。

「こんなモンで終わる馬じゃない!」テイエムプリキュア大激走の舞台裏

──逃げる競馬と言えば、五十嵐厩舎のテイエムプリキュアが印象に残っています。2009年日経新春杯は見事な逃げ切り勝ちでした。

五十嵐 思い出深い1頭です。あの時は「逃げてくれ」と指示しました。溜めるんじゃなくて、ヒュンッと離して逃げてほしい、と。49kgと斤量も軽かったし、スタミナも十分あって、ああいう競馬を1回させてみたかったんですよね。全てが上手くいきました。

──では、あの気っ風のいい逃げで勝った時は「ヨシ!」と?

五十嵐 もう天にも昇る気持ちでした。「やったぁー!」って。思い描いていた通りの展開になったし、それで結果が出たから万々歳ですよ。

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▲圧巻の大逃げで勝利を掴んだ2009年日経新春杯(c)netkeiba.com

──この勝利で引退が撤回されて、エリザベス女王杯ではクィーンスプマンテと2頭で大逃げを打ち2着にも入りました。

五十嵐 逃げられない時は脆いけど、ああいう競馬が板につきました。

──逃げって、起爆剤になりうるのでしょうか?

五十嵐 馬にもよります。ただ、「この馬はこんなモンで終わる馬じゃない」っていう思いがどこかにあるんだよね。テイエムプリキュアも当時、調教は抜群に動くし、「絶対にこのまま終わる馬じゃない!」という思いがあって、こういう競馬をしてみたいと思ったことがハマりました。こんなに上手くいくことは、そうそうないけどね(笑)。

──ウインマイティーは逃げ粘って4着だったメトロポリタンSの直後にマーメイドSを勝利。約2年ぶりの勝利は、ウインマイティーにとって重賞初制覇でもありました。

五十嵐 自信とまではいかなかったけど、だいぶマシにはなってきていたから、そこそこの競馬をしてくれるんじゃないかなと思っていました。「今日はどういう競馬をするのかな?」と見ていると内に入っちゃったから「大丈夫かなあ?」と。でも、そのわりに手応えは抜群にいいし、4コーナーではどこを割って伸びようか、という手応えだったので、これならもう馬込みも関係ないなって思いました。

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▲昨年のマーメイドSで重賞初制覇(c)netkeiba.com

──4コーナーでは内外に馬がいてもしっかり伸びましたもんね。

五十嵐 そうそう。これで「もう8割くらいは大丈夫かな」と感じて、前走の有馬記念は馬込みの中で我慢して、しまいは馬群を割って伸びてきたから、「これでもう完全に戻ったな」と思いました。

──1年半以上をかけて本来の姿を取り戻したんですね。そうなると、次走の京都記念も楽しみです。

五十嵐 GI級の豪華メンバーになるみたいですね。ツイてないのかな(苦笑)。

──せっかく状態がいいのに! でも、ここで好結果を収められれば、ウインマイティーへの評価はさらに高まりそうです。残念ながら大雪の影響でポリトラックコースが使えませんが、いまの状態はいかがですか?

五十嵐 有馬記念の状態を10としたら、いまのところ9から10に近い状態で維持しています。なんせ有馬記念の時はデビュー以来、最高に近いデキでしたからね。ある程度、自分で体も作るタイプだから、2月3日には和田(竜二)くんに乗ってもらって追い切りをして、それでピリッとしてくるんじゃないかなと思います。

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▲万全に近い状態にある(撮影:大恵陽子)

──五十嵐調教師は2月末で引退となります。先ほどテイエムプリキュアの話を聞きましたが、他に印象に残っている馬は?

五十嵐 みんな印象に残っていて、コレって決められないです。それぞれの馬に思い入れがたくさんあるし、残念な結果だったこともありましたね。「絶対に走るだろう」と期待していたら、モノにならなかった馬もいました。30年もやっていれば色々ありますよ。

──引退が迫ってきて取材も増えているんじゃないですか?

五十嵐 増えていますね。あまりこういう取材は受けなかったんですけど、これからはもうないだろうから、最後に辞める時くらいは、と思って答えています。長いこと競馬の世界でやってきて、まだあと1カ月弱あるので今までと同じことを最後までずーっとやるだけです。

──改めて、ファンへメッセージをお願いします。

五十嵐 まだ引退までちょっと残っているけど、今までありがとうございました。

(文中敬称略)

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