札幌競馬場は暑かった

2023年08月17日(木) 12:00

 先週末から今週初めにかけて、札幌に行ってきた。土曜日の夜は高校のサッカー部の旧友たちと久しぶりに会い、日曜日は朝から札幌競馬場に行った。自分が書いたエントランスに並ぶパネルや、スタンド4階で行われている競馬法100年の展示、そして1階のターフィーショップ横で催されている尾形藤吉展を見てみたかったからだ。

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札幌競馬場のエントランスには同競馬場の歴史を振り返るパネルが

 尾形展では、最年少ダービージョッキー・前田長吉が使用していた鞭と長靴も展示されている。これまで、八戸にある長吉の生家や、長吉の兄の孫の前田貞直さんのお宅、東京競馬場の競馬博物館で行われた展示などで見たことはあったが、自分の故郷の札幌でも長吉の魂に再会できたかのようで、嬉しかった。展示は9月3日(日)まで行われており、2日(土)には、尾形藤吉の孫の尾形充弘元調教師のトークショーがある。長吉の馬具も、尾形氏のトークも非常に貴重なので、札幌のファンにはぜひ足を運んでほしい。

 今年は長吉の生誕100年であり、長吉がクリフジの背でダービー最年少優勝記録をつくってから80年の節目である、ということを申し添えておきたい。

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札幌競馬場で行われている尾形藤吉展の展示。中央が前田長吉の鞭と長靴

 さて、私が訪ねた日曜日は、ときおり、ミストのような雨が降っては上がることを繰り返していたが、とにかく暑かった。本来、涼しい土地なので、レストランもオープンテラスのようになっており、エアコンが入っていない。しかも、並ばないと入れない。根性のない私はレストランでの食事を諦め、検量室とパドック周辺に移動した。

 第5レース、芝1800mの2歳新馬戦に出走するセイウンマカロンは小桧山悟厩舎の馬で、鞍上は武豊騎手だ。これは近くで見なければと馬道の出入口に行くと、以前、スマイルジャックが現役だったころ、よく会っていた芝崎智和調教助手がいた。

「あれ、コビさんは?」

 私が訊くと、芝崎さんは「来てないと思います」と答えた。どうして「思います」なのか不思議に感じていたら、芝崎さんは、数年前、深山雅史厩舎に移籍したのだという。以前コビさんが「自分は何もしなくても、シバ(芝崎さん)やコテ(小手川準調教師、当時調教助手)が勝手に競走馬にしてくれるんだよ」と話していた腕利きである。

 当たり前だが、時が流れると、人も馬も動いている。

 少し離れたところに、スマイルジャックを担当していた梅澤聡調教助手がいた。声をかけると、「次はいつ本を出すんですか。結構読んでいるんです」と笑顔を見せた。私は、こういう人たちに、気づいていなかったところからも支えられていたようだ。

 梅澤さんは今も小桧山厩舎にいる。厩舎解散後の移籍先は、直前までわからないのだという。それでも、新規開業厩舎か、馬房と人員を増やす厩舎に移ることになるので、行き先はある程度絞られている。

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8月13日札幌第5レースに出走した、武豊騎手のセイウンマカロン

 新馬戦は梅澤さんと一緒に見た。こうして小桧山厩舎の馬の走りを並んで見守るのは、スマイルが走っていたころ以来だから、十数年ぶりだ。

 セイウンマカロンは、直線での不利もあって6着だった。それでも、完全に失速したわけではない。近いうちに勝ち上がるチャンスがあるだろう。

 翌日、月曜日は両親の墓参りをしてから、予定より早く新千歳空港に向かった。夜9時発の便なので時間はたっぷりある。ならば、レンタカーを返す前に社台スタリオンステーションに行って、一般公開エリアに放牧されている馬でも眺めようと訪ねると、一般公開エリアは閉鎖中だった。こんなことなら、前もって場長の徳武英介さんに連絡しておけばよかったのだが、当日いきなり訪ねるわけにもいかず、空港へと向かった。

 飛行機が45分遅れたのには参ったが、お詫びとして航空会社が1万円くれた。まあ、よかった、ということにしておこう。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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