2007年05月08日(火) 23:50
先週末にニューマーケットで行われた2つのギニーは、1つがここ四半世紀で最大の波瀾、1つは本命馬が磐石の強さを見せての完勝と、両極端の結末を迎えた。
大番狂わせが起きたのは、5日(土曜日)に行われた牡馬の2000ギニーだった。不穏な空気が漂い始めたのは、レース2日前。中間不安が囁かれながらも、5日前登録を済ませた昨年の2歳チャンピオン・テオフィロに更なるアクシデントが発生し、出走断念のニュースが流れたのだ。管理調教師ジム・ボルジャーが出したステートメントによると、朝の調教後にテオフィロの右前脚の膝の裏に熱と痛みが見つかり、当分の間は戦線を離れざるを得ない状況とのこと。これを受けてテオフィロの名は、各ブックメーカーが売るダービー(6月2日)のアンティポストからも、消え去ることになった。
2000ギニーの出走頭数24頭というのは、27頭立てだった00年以来という多頭数。押し出されるようにして1番人気になった、前哨戦のクレイヴンSの勝ち馬アダージオのオッズが5.0倍もついたあたりにも、混戦振りが窺い知れよう。
結果勝ったのは、10番人気のコックニーレベル。単勝26倍の馬の勝利は、29倍で制した78年のローランドガーデンズ以来という、29年振りの大穴であった。
2歳時の戦績、3戦1勝。最良のパフォーマンスがG2シャンパンS・3着で、ここが今季初出走。血統的にも見どころはなく、セールでの販売価格が当歳時1万5千ギニー(約378万円)で、1歳時が3万ギニー(約756万円)。管理調教師も、これまでこうした大レースとは無縁だったジェフリー・ハファーとあっては、人気がなかったのも無理からぬところだ。
更に、2着に入ったのも単勝オッズ34倍で12番人気という伏兵のヴァイタルエクワイン。実を言えば、コックニーレベルが3着だった昨年9月のG2シャンパンSで、勝ち馬だったのがこのヴァイタルエクワインだった。ちなみに、2000ギニーで5着に食い込んだイーグルマウンテンが、このシャンパンSの2着馬だから、結果論として06年のG2シャンパンSは極めてレベルの高いレースだったと判断して良さそうである。蛇足ながら、シャンパンS4着馬カークレスは、今季まだ未出走。どこかに出てきたら、人気に関わらず無条件で買いか!?
一方、大本命馬が見せた余りにも鮮やかなレースに、馬券をやられたファンも含めて拍手と歓声が鳴りやまなかったのが、6日(日曜日)に行われた牝馬の1000ギニーだった。実はこちらも、2000ギニーと似た様なパターンで、暗雲が垂れ込めたかと思われた刹那があった。出れば2番人気が予想されたサンダーカミーロが、コズミを理由にレース当日になって出走を取り消したのである。
だが、1000ギニーの本命馬には暗雲も不穏な空気もすべて吹き飛ばす、絶大なるパワーがあった。単勝オッズ2.25倍という圧倒的人気に応えて優勝したのは、フィンスケールビオ。御存知、昨年の欧州2歳牝馬女王である。
彼女が昨年、G1マルセルブーサック賞やG2ロックフェルSで見せたレース振りも圧巻だったが、1000ギニーにおける彼女のパフォーマンスは、これらを更に上回るものだった。勝ちタイムの1分34秒94は、1000ギニーのステークス・レコード。しかも、牡馬の2000ギニーのステークスレコード(1分35秒08)をも凌ぐ、超快速時計だったのである。
フィンスケールビオの次走は5月27日の愛1000ギニーで、その後はロイヤルアスコットのコロネーションS(6月22日)が予定されているが、その後に待っているはずの古馬や牡馬との対戦が、今から非常に楽しみである。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。