2015年12月07日(月) 12:00
▲馬事文化賞作家・島田明宏さんが選ぶ名著とは
ディック・フランシス(1920−2010)の「競馬ミステリ・シリーズ」は絶品だ。
フランシスは、イギリスで障害の騎手として活躍したのち、鞭をペンに持ち替え、1962年に処女長編小説『本命』を発表。以降、ほぼ年に一冊のペースで競馬ミステリを発表しつづけた。
64年生まれの私が競馬を始めた80年代の終わりには二十数冊が世に出ていた。馬券師としても物書きとしても先を進んでいた何人もに、「読んでいない」と言うと絶句されたので慌てて買った。即、ファンになった。
シリーズは40冊ほどにもなるが、どの一冊から読んでも楽しめる。
主人公はいわゆるエリートではなく、どこか陰がある。が、目的を遂げようと突き進む姿は勇敢で、つい肩入れしてしまう。そんな魅力的な人物が競馬に関する謎に迫っていくのだから、馬好きにはたまらない。
シリーズを原文と日本語訳の両方で読んだ人を私は2人知っている。元ホンダF1チーム監督の中村良夫氏と、俳優の児玉清氏だ(ともに故人)。
「原文より菊池光さんの訳文のほうが素晴らしい」と口を揃えていた。それを母国語で読める私たちは幸せだ。絶版になったものもあるが、今でも書店の「ハヤカワ・ミステリ文庫」の棚に置かれている。
こう書いているうちに、また読みたくなってきた。書斎で寝藁の匂いをかぎ、馬のあたたかさを感じながら、謎解きを楽しみたい。
▲シリーズは40冊ほどにも、「どの一冊から読んでも楽しめる」と島田氏
■著者:ディック・フランシス
■出版社:ハヤカワ・ミステリ文庫
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