2022年03月29日(火) 18:00
コロナ感染拡大によるさまざまな制限が始まったのが一昨年(2020年)2月下旬のこと。当時は“無観客開催”という言葉を聞いて、その意味はわかるものの、果たして無観客での競馬開催はどんなものだろうと不安に思ったものだった。
4月から翌年3月を年度の区切りとする地方競馬は、コロナの世となってまもなく2シーズン目が終わる。しかしコロナまん延下で心配された売上は、下がるどころか、むしろ巣ごもり需要によって伸びた。
2020年度の地方競馬の総売得額は、過去最高を記録した1991年度(9862億3944万9300円)以来の9千億円超えとなる約9122億円で、前年度比130.1%。2012年度からのV字回復で前年度比最高の伸び率を記録した。そして2021年度は、22年2月まで11カ月間の売上が9064億円余り。この3月の売上次第では、過去最高だった1991年度を超える可能性がある。
しかしながら、コロナ初期には無観客訳開催というだけでなく、我々競馬マスコミの取材もかなり制限され、競馬に向き合う環境も必然的に変わらざるをえなかった。コロナ以前であれば、とにかく見たいレースがあれば現地に足を運んで生でレースを見て、関係者の話を直接聞いて、という当り前のことが難しくなった。
世間の生活様式でも「コロナが収束してもコロナ以前に戻ることはない」と言われているように、僕自身の競馬に向き合う姿勢もコロナ以前に戻ることはないと考えるようになり、競馬場に行く機会が減ったことで、毎週毎週このコラムを書くことも難しくなってきたことから、今回でこの連載は一旦終了させていただくことになった。
タイトルは途中で変わったものの、この連載が始まったのは2006年5月。一度だけ、単行本執筆のため数カ月の休みをいただいたことはあったが、毎週の連載を16年近くも続けさせていただいた。
その間、地方競馬を取り巻く環境は大きく変化してきた。かつて全国30場で行われていた地方競馬は、2001年の中津競馬にはじまる廃止の連鎖で、このコラムが始まったあとも、2011年12月の荒尾競馬、2013年3月の福山競馬と廃止が続いた。また複数の競馬場で行われていたばんえい競馬も帯広1カ所に、ホッカイドウ競馬も門別に集約された。
一方で、廃止は避けられないと思われながら生き残った競馬場もあり、売上減少の底を打った2011年度以降のV字回復では地方競馬全体で売上は約3倍にもなったが、それはネット環境の変化によるところが大きい。
当コラムが始まった2006年当時のネット環境は、おもにパソコンだった。その後、NTTドコモのi-modeでのアクセスが増えていった時期には、編集部から、全国の地方競馬の情報を提供するコンテンツはできないかという相談を受けたことがあった。
地方競馬はその名の通り、もともとはその“地方”に限られた競馬だった。その情報が全国的に扱われるのは、中央との交流重賞か、すでに場外発売が全国展開されていた南関東くらいのもの。今となっては当り前のことだが、地方都市の小さな競馬場の情報まで同等に扱われるコンテンツができるというのは画期的なことだった。
地方競馬の売上回復は、2012年10月に始まったJRA-PATでの馬券発売の影響もあるが、それ以上に、i-modeがその後スマートフォンにとって代わり、成人のほとんどが常にネット環境を携帯するようになったことが大きい。特に地方競馬の場合、無料でレースのライブ映像が公開されていることから、スマホさえ持っていれば、情報の取得、馬券の購入、レースのライブ観戦と、ファンとして競馬に参加するすべての環境が揃った。
それにしても新型コロナのまん延が、そうしたネット環境が十分に発達した今であったのは、不幸中の幸いだった。たとえばネット環境がほとんどパソコンに限られていた20年かそれ以上前に無観客開催ともなれば、馬券を買う手段は相当に限られ、地方競馬に限らず公営競技を取り巻く環境は想像もつかないほど厳しいものになっていたと思われる。
そうした時代と状況の変化にともない、僕自身としては、このコラムの役目を終える時期かと判断するに至り、今回が最後となります。とはいえ引き続き競馬にかかわっていくことには変わりないので、今後ともよろしくお願いします。
【連載終了のお知らせ】 当コラムは本日の更新を持ちまして、連載を終了させていただくことになりました。長い間のご愛顧、まことにありがとうございました。
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斎藤修
1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。
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