死力を尽くしたカワキタエンカ 夢の続きは弟妹に

デイリースポーツ

2020年04月28日(火) 12:35

2018年の中山牝馬Sを制したカワキタエンカ(左)

 突然の訃報だった。18年中山牝馬Sを制したカワキタエンカが、昨年暮れにけい養先の木田牧場(北海道新ひだか町)で死んでいたことが分かった。胎内にルーラーシップの子を宿していたが、持病ともいえる心臓疾患が再発。母子ともに命を落としたという。

 同馬を管理していた浜田多実雄調教師は「ショックです。ウチの厩舎にとって、初めて重賞を勝ってくれた功労馬。その子をやるのを楽しみにしていたので…」と落胆。思い出深い一頭だけに、喪失感は計り知れない。

 17年桜花賞(7着)は、厩舎初のクラシック参戦だった。「君子蘭賞を勝ったことで桜花賞を目標にしましたが、想定段階で2勝馬は出られなかったんです。一応、念のために登録しましたが、フラワーCを勝ったファンディーナ皐月賞へ向かうことになって。ひと枠できたことで、幸運にも抽選で出走にこぎつけました」。

 レースは3角手前でハナを奪い、スピードに乗ってさらに加速。後続を一気に突き放したシーンに、スタンドがどよめいた。「大外枠でしたからね。前に壁をつくれない状況でした。ローテがきつかったせいもあったのか、3角からガーッと行ってしまって…。それでいて小差の7着。非常に惜しい内容でした。道中でうまくためが利いていれば、また結果は違っていたのかもしれません」。

 ラスト1Fまで踏ん張っていたが、最後の坂で力尽きた。それでも、先着を許したのはレーヌミノルを筆頭にリスグラシューソウルスターリングカラクレナイアエロリットディアドラといった豪華ラインアップ。世代トップレベルのスピードを示すには十分な内容だった。

 厩舎初の重賞制覇を果たした中山牝馬Sも思い出深い一戦だ。「その前の洛陽S(10着)が休み明けの影響もあり、返し馬からかなり苦労して…。レース前に燃え尽きてしまいました。その後は予定通り、中山牝馬Sへ向かいましたが、内心は『前走みたいにならなければいいなあ』って願っていたんです。なので、正直勝つとは思っていませんでした。前半1000メートルが1分をこえていた(61秒3)し、楽に逃がしてもらえましたね。直線では後ろを突き放したので『ひょっとしたら…』と。ゴールした時はうれしかったですね」。

 続く福島牝馬Sでも2着に好走。4歳春にして本格化の兆しがうかがえた。「次から次へと絡んできて、かなり厳しい競馬でした。それでいて2着。よく踏ん張ったと思いますよ。今振り返っても、能力は相当高かったと思います。改めて『ディープの血ってすごいな』と感心しました。特にスピードとバネ。そこが遺伝すると、すごい馬が出てくるのが分かりました」。

 しかし、その後はレースレベルの高さもあり、苦戦が続いた。ちょうど一年後の19年福島牝馬S(9着)がラストラン。「もしかしたら、成績がさえなかった頃は心臓に不安があったのかもしれません。血統馬ですし、あのレースを最後に繁殖入りすることになりました。ウチの厩舎にとって、中山牝馬Sは初の重賞制覇でしたが、長く馬主をやっておられる川島吉男オーナーにとっても初めての重賞制覇でした。それが一番うれしかったですね」。

 昨年暮れ。無情にも、2世の活躍を思い描いていたディープの血は、突如として途絶えた。「この先10年は楽しめると思っていましたからね。本当に残念です」。振り返れば、浜田師が調教助手として谷厩舎に所属していたときに担当していたサヨウナラ(08年エンプレス杯)も、引退後すぐに命を落とした過去がある。「本当に、競走馬は産まれてくるだけでも大変。また、産まれたとしても走るという保証はありませんからね。エンカの死を受けて、改めてそう感じました」。

 それでも、競馬は続く。悲しくとも、下を向いてはいられない。浜田師は既に前を向いている。「エンカの弟のカワキタジャズ(3歳未勝利)は、ダートで良さを見せ始めました。下にはダノンシャンティの牡馬がいて、その次はハーツクライの牝馬。その子らの活躍を今から楽しみにしているんです。また頑張って、エンカのような馬を育てたいですね」。心の傷を癒やしてくれるのもまた、サラブレットでしかない。熱く燃えたエンカの魂を胸に、浜田師は走り続ける。

(デイリースポーツ・松浦孝司)

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