昭和的菊花賞の愉しみ方

菊花賞のレベルが年々低下するのは自然の成り行きだ。

あなたが馬主だったとする。
兄弟や近親馬に菊花賞や天皇賞(春)を勝った馬がゴロゴロいるステイヤー血統の当歳馬が入手できるとしたら、あなたは獲得に動き出すだろうか。
もちろん、日本で走らせるためにだ。

現在のJRAには、生粋の長距離馬が活躍する競走番組がほとんどない。
長距離重賞としては、阪神大賞典、天皇賞(春)、菊花賞、ステイヤーズSくらいだ。
他にダイヤモンドSもあるが、本当に強い馬ならば負担重量との兼ね合いでハンデ戦には出走を躊躇することになるだろう。
となると古馬になってからは実質3つしか実力を発揮する場がないと言ってよい。
それよりも、3千m以下のレースしかない現在の条件競走で、どうやってオープンクラスまで勝ち上がるかが問題だ。

牧場にも働く人々の生活がある。
馬が売れなければその生活が成り立たない。
馬主が買ってくれそうにない血統の馬を積極的に生産する牧場はないだろう。
現在の日本の長距離G1を勝つ馬は、ほとんどが狙って生産されたステイヤーではない。
ステイヤーではないけれど、高額の賞金につられて「ついでに」出てくる馬たちのレースなのだ。
これではレースのレベルも低下するはずだ。
JRAが重賞以外でも長距離競走の充実を推進しない限り、今後もこの図式が変わることはないだろう。

ところが、以前には天皇賞を最大目標に生産を行っていた牧場があった。
アサマ、ティターン、マックイーンの親子3代で天皇賞馬となる偉業を達成したメジロ牧場である。
当然のように長距離血統を重用し、その他の生産馬や所有馬の中からメジロブライト、ムサシ、デュレンなどの菊花賞・天皇賞馬もいる。
また、その副産物的に、距離が長い障害競走での重賞勝ち馬も数多く登場させた。
まさに「長距離のメジロ」だった。

そのメジロ牧場は2011年に解散した。
これをもって長距離馬を生産することに重点を置いた牧場は日本から消滅したのかも知れない。

さて、今年の菊花賞に出走するサトノノブレスは、そのメジロ牧場の生産馬だ。
もし、この馬が菊花賞を勝つようなことがあれば、昭和の競馬ファンには感慨深いものがある。
ノスタルジーに浸れるのも競馬の大きな魅力のひとつだ。
私はこっそりこの馬を応援しながら今年の菊花賞を愉しむことにした。